幻影 その日、藍忘機は朝から少々機嫌が悪かった。というのも、大切な道侶に特別に与えられた僥倖とも言える機会を、その道侶本人が他人のために不意にすると言う。しかもその相手というのが、藍忘機とはまた違った意味で道侶の唯一である江晩吟だからである。
元々、藍忘機と江晩吟の間には確執がある。藍忘機にとっての江晩吟は、道侶を恩で縛り上げ、家のためにその全てを尽くさせた元凶であり、江晩吟にとっての藍忘機は、片腕となるべき大師兄を掻っ攫っていった憎き相手だ。魏無羨が居なかった時期ですら、同席すれば冷え冷えとした空気が流れ、そのピリピリとした緊張感に周囲の師弟達は寿命が縮む思いであったのに、魏無羨が蘇って以降、影のように寄り添う藍忘機はまだしも、江晩吟の荒れようは凄まじかった。
18482