舌がない設定のフロジェイだったやつオレとジェイドには"舌"が無かった。必要がないっていうのもそうだけど、深海じゃあ一々味なんて気にしてらんねぇし。あ、でもアズールには舌はある。まぁ、実家がリストランテを経営してるし…むかぁし、アズールが言ってたな。自分は偉大な海の魔女に近い種族に当たるから他の原種の人魚とはちょっと違うとか、なんとか。
親父達は立場的なもので会食があるから、舌を手に入れてるんだと。オレ達にもいつか、必要になるとか言ってたのをなんとなく覚えてる。
そんで、ナイトレイブンカレッジに通う為に人間になって手に入れた舌と味覚。
今まで無かったものが口の中にある違和感。扱い方がイマイチで、オレとジェイドはしょっちゅう舌を噛んでは悶絶した。あと、口の中での舌の位置がわかんなくて困った。元々舌があるアズールにアドバイス貰おうと聞いたら、慣れるしかない、で終わった。
「これが、オムライスです」
コトンと軽い音をたてながら、皿に乗せられた黄色い塊…もといアズールが作ったオムライスがいい匂いと湯気をくゆらせながらオレとジェイドの目の間に置かれた。
それは、ナイトレイブンカレッジ入学前に人魚が通う訓練所に来てから1週間後の事だった。
ジェイドは目をキラキラさせながらオムライスに興味津々で、皿を両手出持ち上げて色んな角度からオムライスを観察している。オレはオレで、期待に胸を踊らせながらオムライスをスプーンでつついた。
アズールのオムライスはチキンライスの上に卵の塊を乗せたやつで、食べるときに上の卵を割るらしい。
訓練所で出された事のないオムライス。オレとジェイドは、ほぼ同じタイミングで卵を割った。そうすると、とろとろした卵がふわぁってチキンライスを包んでいく。それを掬って、ある程度冷ましてからパクリ。
「〜〜!!うっっっま!?」
「当たり前です。なんだって、この!僕が!作ったものですからね」
顔を赤くしながらオレのリアクションに満足したアズールが、作ったオムライスの工程を早口で語るのを聞き流しながら隣のジェイドを見た。
そこにはスプーンを口に入れたまま、美味しいに感動してキラキラした目をしたジェイドがいた。元々、ジェイドはよく食べる。味とかわかんないけど、お腹が空くから。陸にきて、舌と味覚を手に入れてからジェイドは食べることが好きになった。お腹が空くからが、美味しいからに変わった。それはオレも同じだけど、オレは気分で食べたり食べなかったりするからその辺は割と雑。
訓練所の出す陸の食べ物は物珍しかったけど、アズールの作ったオムライスが圧倒的に美味い。料理は作り手によって、味が変わる。最初聞いた時はイマイチピンとこなかったけど、今ならその意味がよくわかる。全然違う。
感動していたジェイドがモグモグと楽しそうにオムライスを頬張り始めるのを見て、オレもそれに習ってオムライスを頬張る。
「オレも、アズールみたいに作れっかな」
「お前達には、きっとセンスがあります。そして、この僕がいますからね。絶対に美味しいものが作れますよ」
「そっかぁ」
アズールの言う通り料理はオレもジェイドもなんでも作れるようになったし、味もアズールのお墨付きを貰えるようになった。料理は楽しいし、美味しいものは食べると幸せな気分になれる。
特に、ジェイドがオレの為だけに作ったものはスゲー美味しい。ジェイドも同じ事を言ってた。