一夜を超えて「ジブレット!もう一回だ!」
シャロットは血の混じる土で汚れた満面の笑みをオレに向けた。
消耗を悟らせないように浅く息を吐く。その度に思い出すのは、じくじくと軋むような腰の痛み。そのせいで、なぁ!なぁ!と元気にオレの周りを跳ねるシャロットと抱き合った昨晩を思い出した。
好き勝手に暴かれた分くらいは負けじと返してやったつもりだったが、シャロットは身体の不調などまるでないかのように飛んでは駆け回りと、はしゃいでいる。
「今のどうやってやんだよ!こうか?」
「……さぁな」
オレは腰の痛みに苦しみ、その痛みで呼び起こされる昨日の熱量に、シャロットと二人でならば何処までもやれるのだと、らしくもない感傷を抱いてしまうというのに。そう思うと馬鹿みたいに無邪気に元気で、いつもと変わりないシャロットが無性に腹立たしい。悔しさから引き攣った笑みをみせ、自分で考えろと冷たく突き放した。
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「続きはビルス様との訓練の後だ」
そんな体力が残っていればな、とジブレットは難しい顔でオレを睨んだ。
オレはそうだなと武者震いする。同時にジブレットに見えないところで、じくじくと疼く腹を撫でた。戦ってる最中も、ここぞと言うところで痛むそれを庇っちまう。まじぃなぁと思いつつ、クールに佇むジブレットとした昨日のことを思い出してた。
どっちも最後は力いっぱい抱き合った筈なのに、ジブレットはオレと違って身体の不調なんかまるでないみたいに凛と立ってる。
「…なんだ」
「いや。何でもねぇ」
オレはこの腹の疼きに昨日の熱を思い出させられる度にジブレットとなら何処までも行けるのだと強く思った。ジブレットも同じように感じて居るだろうか。いつもと変わらず、冷静で隙のないジブレットにオレばかりがそう思ってるような気になって、少しだけ不貞腐れるように他所を向いた。
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二人を見るなり、深く溜め息をついた。
やる気は漲っている。気の扱いも、呼吸の間も今までにない程に安定して二人でぴたりと重なり、怖いくらいの覇気を纏っていた。それだけに残念だ、と目を瞑る。隣のウィスも理解しているに違いない。あらあらと楽しそうに微笑みながらどうなさいますか、と答えをボクに委ねた。
「…君たち」
ん?と重なる返事の声が鳴り終わるより早くジブレットの背後に立ち、腰に手を当ててトンと押し込む。そして次にシャロットの目の前に移動して、腹に指を突き立てると指先から気を放ちながら、それをぐるりとかき回す。ほぼ同時にかくん、と膝を折って崩れ落ちる二人を見下ろして、ふん、と鼻を鳴らした。
「こんな状態で此処にくるなんていい度胸だねぇ」
あからさまに弱点を庇って動く奴に負ける程、ボクは弱くもないし、そんな状態で勝てると思われているなら心外どころの騒ぎじゃない。
そう苦言を呈そうと思った時、ジブレットから吹っ切れたような笑いが溢れる。つられてシャロットが堪えきれなくなったように笑い、おい、笑うなよ、と震える声でジブレットを小突いた。
見開いた両目を片方だけ伏せ、なんだ?と訝しむボクを無視してひとしきり笑った後、二人だけで何かを目配せすると、まずはジブレットが立ち上がり、シャロットを引き上げるように立たせる。
謝罪の後、さっきと同じようにボクと向き合った二人はその覇気を何倍にも強めていた。とはいえ、指摘した弱点が治った訳ではない。どういうことだ?と首を捻るボクの後ろでウィスは、愛の力ですねぇと楽しそうに微笑っていた。