Dear my BOSS──2恥ずかしい。
使用人の目にすごい留まってる……気がする。
なんでルイは鼻歌歌いながら歩けるんだ!?!?
「キング」
急にコードネームを呼ばれ、大袈裟に肩が跳ねる。
「な、んでしょうか」
「もっと堂々としていいんだよ?」
「……よくこんな状況で言えますね、それ」
「だって今日は僕と君の結婚式なんだよ?花嫁は花嫁らしくその可愛い顔を皆の目に焼きつかせなきゃ」
「……は?」
結婚式?
「……不躾ですが、ボス、ひとつお聞きしても」
「どうしたんだい?」
「殴っていいですか?」
「……本気?」
「はい」
「……ちょっと勘弁して欲しいかな」
なんだその野菜を前に置かれた時のような顔は。
というかオレが花嫁なのか!?若妻じゃなく!?
「……ボス」
「ん?」
「流石に冗談ですよね」
「……さてね。ほら、着いたよ。」
ガチャ、と音がする。聞きなれた扉を開ける音だ。
「あ!ツカサくんだー!!……どうしてルイくんがツカサくんのことだっこしてるの?」
「……ルイ、あんた本当に手出すつもり?」
「やぁ、エムくん、ネネ。いやあツカサくんが中々食堂に来なかったからね。部屋まで呼びに行ったのさ。」
「とりあえず降ろしてあげて。ツカサ、こっちおいで」
「ちぇー」と言いながら渋々ツカサを降ろす。
やっと解放されたツカサは、急いで安全なネネの元に向かう。
「ありがとう、ネネ。助かった。」
「別に、アイツが道踏み外さないようにしただけ。……なにかされた?」
「…………なにも。」
「正直に言って。アンタ本当に嘘下手よね。」
「う…………ルイに、襲われた」
言った途端、ネネとエムが目にも見えぬ速さでルイを取り囲んだ。
ネネは特注のM0720式拳銃2丁、エムは自らの兄に打ってもらったという2本の鋭い名前入りアサシンナイフだ。
「……ルイ」
「おやおやおやどうしたんだいこわいよ2人とも」
「ルイくん……」
「……ツカサ、もしかしてさっきの事」
「……言った」
「…………ネネ」
「ルイ、アンタには幻滅した」
「話を聞いてくれないかい……」
さすがにこれはルイが可哀想なのでは……と思ったので止めようとしたが、どう止めれば良いのだろう。
1人であわあわしてると、食堂の扉が勢いよく開かれた。
「はーいワンダショの皆〜!ご飯食べるとこで武器出しちゃダメだよ〜!」
「ちょ、Amia、下手に出ない方が……」
「大丈夫だよえななん。ルイはボクの昔からの友達だしね〜」
「……えっと、大丈夫?ツカサさん」
「ア、Amia、えななん、雪、まって……」
「あっごめんK……もう、Amia!Kに謝りなさいよ」
「えっそれボクが悪いの」
ピンクの髪の毛の女子に、茶色のボブカットの女子、黒と紫を混ぜたような綺麗な髪の女子、雪のように白く透き通り、青の光が輝く長い髪の女子が食堂に入って、ルイ達を押さえつけてくれた。
正に救世主、と言いたいところだが。
「ルイと友達……?」
オレの衝撃はそこにあった。
ルイが友達作れたのか、というのもそうだが、オレたちの知らないルイを、彼女は知っているということではないだろうか。
そう思うと、不思議と胸が苦しくなった。
キリキリとした痛みだ。
「えーっと、ツカサ……くんだっけ?初めまして。ボクはAmia。これからよろしくね。」
「あ、あぁ。よろしく。……ほかの3人は?」
「あ、私はえななんって呼ばれてるよ。好きに呼んでもらっていいわ。」
「私は雪。こっちはK。」
「……よ、よろしく……」
なんでだろうか、K、?とはどこかであったことがある気がする。
……気のせいか。
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カチャ、カチャ。
丁寧に肉の繊維をナイフで引きちぎっていく。
カチャ、カチャ。
1口サイズに引きちぎった肉を、先端の鋭いフォークで突き刺す。
カチャ、カチャ。
命を口に含む。
ゴクリ。
命を消化する。
昔はこんな風に食べることは出来なかった。
オレの家はある日祖父が冤罪を受け、壊滅した。
祖父は優しかった。とても人を殺すような人ではなかったし、人望も厚く、交流の輪が広かった。
だがそれが仇となったのか、はたまたそれを恨む人間がいたのか。
何もしていない祖父は刑務所に連行され、刑務所内で心筋梗塞で亡くなった。
葬儀にすら参列させてもらう事は叶わなかった。
オレは祖父が好きだった。優しくて、強くて、かっこよくて。かつて両親に連れてってもらって観たミュージカルの主役のような御人で。
憧れていた。尊敬していた。
今となっては祖父を嵌めた人間は逮捕されたが、正直のところ、まだ残党がいると思っている。
父は、残党を探すために警察署長として犯人探しに翻弄している。
母は中々帰ってこれない父の代わりに、まだ病弱な咲希の面倒を見てくれている。
オレが出ていく時には、すごい心配してくれたなぁ。今となっては、すごく後悔している。
年に1回だけ、実家に帰っている。最近は咲希もだいぶ体調が安定してきたようで、今度会えたら一緒に出かけよう。と約束をした。
────オレが来年まで生きていれたら、の話だが。
目の前にある身近な食物連鎖の現実を見ていたら、ネネが
「どうしたの?ツカサ。おなかいっぱいになったら残してもいいんだよ。」
と言ってくれた。
「……いや、大丈夫だ。食べられる。」
「……本気?今日、大分量が多いけど。」
「…………どう、だろうか。今のうちに詰めておかないと、いつか食べれなくなるからな」
「え」
ガタン、やガチャン!という音が四方八方から聞こえてきた。
周りを見ると食卓にいたオレ以外のWSやAmia達がこちらを見ていた。
「……どうしたんだ、皆。食器落としたらダメだと教えられなかったのか?……まあ、一番下のオレが言えることではないがな。」
「……そ、んな事考えてたのかい?」
「?ああ。食べられるときに食べておかないと、いつ食べられなくなるかわからないし、今のうちに、とな。」
「……ツカサくん……」
「……ほ、本当にどうしたんだ?こんなの、当たり前だろ」
「……そんなの、」
「そんなの違うよ!!」
ガタン!とルイがテーブルを叩いた。
その音に思いっきり驚いてしまう。
「それは当たり前じゃない、異常なんだ、ツカサ。本来人は好きなものを食べて、お腹がいっぱいになったら残していいんだ、それの逆もまた然りで、お腹が空いたら好きな時に食べていいんだよ」
「そ、うなのか?」
「そうだよ!ほらツカサくん、もっとお肉食べていいよ!」
エムがオレの皿にどんどんと肉を盛っていく。それに便乗してルイやAmia、えななんまでもが皿に盛っていく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!流石にこれは食いきれない!!」
「いいから、残していいから食べて」
「い、いやでも残しても捨てるだけだろう!?そんな勿体ないこと、出来るわけが……」
「残したら下町の貧しい子達に比較的綺麗なところを配布してる。食べ残しとかは家畜の餌にしてるから心配することは無いの。」
「そ、うだったのか……」
ただ殺して利益を得るだけだと思っていたが、意外なことをしていたんだな。
恐らくはルイが始めたのだろう。あいつはああ見えて子供好きなのだ。よく貧困層の街に行ってはショーをやっている。
行くたびにビビバスの面々にお説教を貰うのは毎度のことなのだが。
「取り敢えず食べて。」
「……わかった。」
「……まだなにか懸念があるの?」
「その、残しても、殴らない、だろうか」
「……たとえツカサを殴る人間がいるなら僕たちが排除するよ。だから安心してお食べ。」
「……ありがとう、みんな。……いただきます」
改めて食べたいのちは、暖かくて、美味しくて、涙が溢れそうだった。
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続く