密かに膨らむ支配欲 いつからか、阿久津のことを手元に置いておきたい気持ちが強くなった。ずっと前から一緒に居るのに、今は余計にその気持ちが強い。
こんなつもり微塵もなかったはずなのに、ただ真っ先に自分の願いを必ず叶えてくれる存在であるだけなのに。
「ぁーあ、らしくないよな〜」
「ん、何か言ったか??」
「いや、別に。阿久津、ティッシュ」
「へーへー、床に捨てんなよ?」
すぐそばにあるテーブルに置かれたティッシュBOXでさえも、阿久津はすぐに取って持ってきてくれる。ゴミ箱も一緒に持ってきてくれて、それも足元に置いてもらった。
何だか犬のような感じに思えてきて、鼻をかんでから笑ってしまった。
「何笑ってんだよ、相馬」
「んーん、何でも無い」
「変なやつ」
「お前に言われたくはないな」
「……はぁ」
「そうだ、阿久津。ちょっと出てくる」
「俺も行くか?」
「いや、いい。大したことないから」
ふと思いついた事を実行するべく、アジトを出て神室町の外れにやってきた。
久しぶりに一人で出かけていることに、違和感のようなものを覚えるが、それは一時的なものだと考えることにした。
「ここにするか」
少し歩いたところにブランドショップが軒並みを連ねる通りがあり、その一つにメンズアクセサリーの店があった。
いかにも富裕層が来るようなところで、今日阿久津と一緒に来なくて心底良かったと思う。阿久津が来たら門前払いとなっていただろう。
ドアの部分に自分の顔が映り、それを鏡代わりにして身なりを改めて整えた。
店に入ると、やはり中には富裕層で間違いない人種がショーケースに入ったアクセサリーを吟味している。
阿久津には後で何か奢らせよ、と思いながら、阿久津に渡すアクセサリーを選んでいった。色々考えを巡らせること一時間、ようやく選んだアクセサリーはピアスだった。
自分の好きな色味だったというのもあり、上機嫌で店を出た後は、知り合いの改造屋に頼んであるものを仕込んでもらった。
そんな寄り道をしていたら、あっという間に辺りは暗くなってしまい、気がつけば神室町は夜の姿になっていた。
「……相馬! 何してたんだよ」
「阿久津、何だ。アジトで待ってるかと思ったのに」
「いや、電話繋がんねえし、何かあったのかと……」
「あ、悪い。電池無くなってた」
「おいおい……、はぁ、心配かけやがって」
「阿久津、あれ飲みたい。買って」
「はあ? 急に何かと思えば、あれ甘いやつだぞ?」
「うん、飲みたい」
「あー、わかったわかった」
通りで見つけたタピオカ屋に寄って二つタピオカを購入し、飲みながら阿久津にホテルへ行こうと持ち掛けた。
急な提案に動揺した阿久津はせっかく買ったタピオカを地面に落としそうになっていてそれが面白かった。
「で、行くの? 行かないの??」
「……行く」
「じゃあ、そこのホテルの一番いい部屋」
「は!!??」
外面だけでも他のホテルとは違う雰囲気があり、入り口のところに見えた料金表示も最低料金から明らかに違っていた。
阿久津の腕を引いて入口を潜り、最初のタッチパネルで部屋を確認すると、一番高い部屋は「空」の表示となっている。迷うこと無くその部屋を選んで鍵を受け取り最上階の部屋に向かった。
「何ボーッとしてるんだ? 阿久津」
「っ、いや、いつになく強引だからよ」
「へえ、こうゆうの嫌だった??」
「や、……別に」
「好きなんだ??」
「ち、ちげえよ!!!」
「あっはははは! 阿久津は面白いなぁ、そうだ、渡したいものがあったんだ。これ」
「……え」
「これ、プレゼント」
「……え??」
突然のことで何がなんやらわからないと言った顔をしている阿久津。
誕生日でもなんでもないのに渡したらやはり怪しまれてしまうものなのだろうか。
「はーやーく、手疲れるから、受け取れよ」
「……あり、がと……?」
「ん、中見て」
「……ピアス??」
「あぁ、そのデザイン、阿久津に似合うと思って」
「お、おぉ……」
「ほら、こっち座れ。着けてやるから」
そう言って阿久津からピアスを預かり、阿久津の耳に触れてピアスを耳へ通した。
改めて似合うと思い、阿久津の耳をひと撫でしてから、ニコリと笑ってみせた。
「へぇ、案外似合ってるね」
「……ぁ、あぁ」
未だに戸惑う阿久津の頬に触れて、そのまま口づけをしながらベッドへ押し倒した。
それから存分に阿久津との時間を堪能した後は、すやすやと眠る阿久津の横でスマホの画面を眺めていた。
位置情報アプリの画面に赤く点滅するマークの位置情報を再度確認すると、このホテルの名前の傍にそれが表示されていた。
「へえ、ちゃんと正確なんだな」
そう言って阿久津の寝顔を眺め、ニコリと自身の口角が上がるのが分かった。
恐らく自分が手渡したものだから、阿久津が簡単に外すわけがないと思い、このまま阿久津の行動を把握するために秘密にすることにした。
翌朝目が覚めた阿久津とホテルを出ると、丁度阿久津の部下が来て、その場で阿久津と別れた。
自分は先にアジトに戻り、ソファに腰を掛けて位置情報アプリを開く。
「面白いな〜、これ、どこにどうやって行ったか足跡も付けれるんだ」
誰も居ないことを良いことに、だらりとソファに身体を倒し、スマホの画面を眺めていた。
そのままスマホを眺めていたら、眠気が襲ってきて気がつけばそのままソファで眠ってしまった。
「……ま、そうまっ!」
「ん……、あれ、寝てた……??」
「おぉ、随分気持ちよさそうに寝てたな??」
「うん、昨日は寝れなかったから」
「それ、嫌味かあ?」
「そうだよ、嫌味」
「はあ? 何じゃそりゃ……」
「あ、そうだ、……楽しかった??」
「なにがだよ」
「キャバクラ」
「っ……!?」
「あははっ、匂い消してきたのに、って? さあー、なんでわかったでしょう?」
やっぱり阿久津の間抜けな顔は面白いなあ。このGPSのことは暫く黙っておこう。そう思いながら、阿久津の頬に触れてニコリと笑う。
さて、この男をどうやって弄んでやろうかと企みながら、困惑する阿久津に対して更に悪戯に笑ってみせるのだった。