設定メモ。
イサミ:アルファだがオメガの匂いがわからないので自分は欠陥があると思い込んでいるが、サプリのつもりで抑制剤を服用していることに気づいていない。
スミス:イサミに出会ってすぐに運命だと気づいたが、養女のルルがいるので距離を測っている。オメガはヒーローになれないと思い込んでいる。
かんたんブレバンくん:未来からやって来た愛と勇気の妖精ロボ。スミスの想いが込められているのでイサミが大好き。
***
開店準備を終えて、店前のシャッターを上げる。春の朝日が穏やかに街を照らしていた。
「すみません、ブーケを作って頂けますか?」
所謂、少女漫画で花のトーンを背負っているようなハンサムな筋肉質の男が俺の店に現れた。
事実、花を背負っているように見えるのはここが花屋だからで、そこらじゅうにある花が背後に見えているだけである。けれど俺の目には確かにそう見えた、困ったことに。
「どのようなものに致しますか?」
「そうだな、この花のような赤を多めに、価格はこれくらいで。配達をお願いしてもいいかな」
「かしこまりました。こちらに必要事項のご記入をお願いします」
恋人へのプレゼントだろうか。モテるんだろうな。爽やかで人当たりも良さそうに見える。スーツもどこぞのブランドものだろう、俺にはよくわからないが。
配達用の記入用紙に書かれた名前を確認する。スミスさんか。
彼の雰囲気からすれば華やかなのがいいだろう。俺は幾つか花を見繕って、手早くブーケをアレンジしてみる。
「こんな感じでいかがですか?」
制服のエプロンに付けられた名札に下りた彼の視線が再び俺の顔を見つめて、整った顔立ちで愛想良くにこりと笑う。
「ありがとう、イサミ」
この男が俺の運命のオメガだと知ったのはその日の午後のこと。
なんせ俺の鼻は効きが悪いので。
「フーンフーンフンフーン」
「ブレイバーン、ちょっといいか」
機嫌良さそうに鼻歌を口ずさみながら花の世話をするブレイバーンに声をかける。
「もちろんだ、イサミ」
この小さなロボットのようなやつは、愛と勇気の妖精である。正直、まったく意味がわからないが、本人がそう言ってるのでそういうことにしている。
「イサミ、匂いが変わったな」
パッと腕に飛び込んで来たのを受け止めると、ブレイバーンは俺の匂いを確認した。ロボットみたいな見た目のくせに匂いがわかるらしい。よく花の匂いも嗅いで楽しんでいる。
「匂い? あぁ、柔軟剤変えたんだ」
「……イサミは鈍感だな。そんなところも可愛いんだが。そろそろだとは思っていたが、ルイス・スミスに会ったんだな?」
「スミス……。だったらおそらく、今朝来た客だ」
やたら顔が良くて花の背景が似合う男性客が来たことを思い返す。
「私の半分はイサミの魂でできていると言ったことがあるだろう」
「あー、言ってたな」
初めて聞いた時は適当に聞き流していたが。
「もう半分は、ルイス・スミスの魂でできているんだ」
「はあ?」
「私は未来から来た。君達の愛と勇気によって、世界を救うためにやって来たんだ」
初耳である。いつもこいつは突拍子がない。
「今から少し先の未来、流行病によってアルファが激減する。イサミ、君は貴重なアルファだ。君を保護するという政府の名目上、スミスは君と番う前に殺されてしまった」
「ちょっと待て、そのスミスって男は死ぬのか……?」
「私が過去に送り込まれたことにより、新たなユニバースが誕生した。まだ未来は不確定だ」
「このまま放っておいたら同じ結末になるってことか? そんなことダメに決まってるだろ!」
突然、激昂が俺の身体中に駆け巡った。会ったばかりの男のために、どうしてこんな気持ちになるのかわからない。
「落ち着くんだ、イサミ。私が君の元に来たのは、未来のスミスがそう望んだからだ。君達を守るために、私はここにいる」