一方通行の恋 鋼と待ち合わせをしている。
来馬が住んでいるマンション近く、さして広くもない公園のぽつんとあるベンチに座って待っている村上は、時折冷たい風に吹かれても微動だにしない。午後の柔らかい陽射しを受けて、目の前で紅葉した落ち葉がカサカサと風に踊らされ、舞っている様をじっと見つめて楽しんでいるようだ。そんな様子を来馬は、ベンチから数メートル離れた公園の出入り口にある自販機で飲み物を選びつつ眺めている。
隊を結成した頃の村上は、口数も少なく黙々と任務をこなすだけだったが、太一や今ちゃん、ボーダーの仲間ができるにつれ居場所ができて安心したのか心を開くようになった。一時期、村上のSEに関わった過去のいきさつによる一方的な思い込みで、荒船との関係がよくない状態になりそうなため介入したこともあったが。
村上の誠実さや生真面目さはとても信頼できるし、他人に対して愛想がない分たま見せる笑顔が愛おしい。
けれども、この先大人なり成熟すれば、ふいに寂しさを滲ませるこの男に庇護欲をかき立てられて言い寄る女や、この強い男を支配し、独占したい輩が出てくるかもしれない。男らしい精悍な眉に黒目がちな瞳、笑うと犬歯が覗く。身体つきも、普段から自己鍛錬を欠かさず行なっているためバランスがとれている。とても魅力的な男だから顔を合わせるだけで夢心地になる。そんな村上の身体に熱い息を吹き込みたいし、吹き込まれたい自分がいる。
好きなのだ。
今はこうして自分の元にいるが、いつか来馬の気持ちに感づいてしまえば何も取り柄もない自分から離れて去ってしまうかもしれない。たとえ、告白して上手くいっても繋ぎ止める自信などこれっぽっちもない。こんなもどかしい気持ちを持て余しつつ、待ち合わせ時間通りに村上の前に姿を現す。
「待ったかな?」
「いえ。全然」
来馬に向けて安心したようなはにかむ笑顔で答える村上に、さっきまでもやもやしていた気分がぶわりと浮上する。現金なものだ。来馬は微笑を返しつつ、何食わぬ顔で隣に半人分スぺースを空けて座る。本当は体温を感じるくらいもう少し近づきたいが自重しなければならない。
だが、せめて冬の寒空の下で冷たくなったであろう村上を、少しでも温められるように自販機で買った缶コーヒーをポケットから取り出し差し出した。