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    aoshigunjou001

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    2022.10月22日~23日のエワ即売会(8)に参加します!
    鈴鳴第一で焼き芋を食べる話。少し薄暗いかも…。鈴鳴メンバーの解釈違いごめんなさい。でも、鈴鳴メンバーが仲良くしてるのが大好きなので!

    #エワ即売会
    ewaSokutai
    #鈴鳴第一
    ringingFirst

    お芋の季節です 神無月の昼下がり、今日は朝から天気が良く、鈴鳴支部のリビングでは全員揃ってソファの定位置に座りまったりと過ごしていた。
     テレビをBGMがわりになんとなく点けていると、画面では地元のローカル番組の新人と思しき女性リポーターが、季節限定焼き芋の食レポを身振り手振りを交えて、いかにこの焼き芋が素晴らしく美味しいかを必死になって伝えようとしている。
     来馬を始めとする男三人は見ていても特に食いつきもしなかったが、今に関しては瞬きもせず、普段はピンと伸びている背中が若干丸みを帯びるほど、食い入るようにテレビをじっと見詰めていた。
     焼き芋の話題も終わり、次のレポートの紹介に移ると、窓の外から呼応したかのように偶然にも、石焼き芋〜お芋〜と呼び込みのスピーカーの音が聞こえてきた。その音を聞いた太一が、バネのようにソファから飛び跳ねてガラス窓に駆け寄り外を眺めると、荷台に焼き芋の窯を乗せた軽トラックが、ちょうど鈴鳴支部の前の通りを過ぎるところだった。
    「オレ、追っかけてきますよ!」
     来馬達の方に振り向きざま太一が言い放つ。おもちゃを見つけた犬のように目をキラキラさせている。
    「無理よ。この前もスピーカーが鳴ってきたから窓から見ていたけど、スピードが早くて追いかけるなんてとてもできないわ」
     売る気あんのかしらね、全くとぶつぶつ言いながら、今が諦めたように忌々しく答えた。
    「けど今先輩食べたいんでしょ、だったらおれに任せてくださいよ!」
     太一にそう言われ、今はさっきのテレビを見ていた自分の姿を見られていたことに気づくと、恥ずかしくて頬がカッと赤く染まった。
    「べ、別に食べたくなんか……」
     狼狽えるように取り繕う今に向かって、太一はにっと笑い親指を立ててサムズアップすると、何時もの耳付き帽子を被り、来馬たちが止めるまもなく行ってきますと言いながら、靴を履くのもそこそこに、あっという間に支部を飛び出して行った。けれど、彼は財布はもちろん携帯も持って行ってない、たぶん。たとえ追いついても、みんなに知らせる手段がなく、また、買って戻ってくるという選択もできないだろう。太一の気持ちを無駄にしたくないと思ったのか、来馬はすかさず村上にお願いの目配せすると、村上は軽く頷いて携帯端末と財布を取りに一旦自室に戻ってから太一を追いかけた。
     太一と村上を見送って数分後、来馬はズボンのポケットからおもむろに携帯端末を取り出して村上に電話する。1コールで繋がると、村上は太一とは合流できたが軽トラックは見失ってしまったと伝えてきた。来馬は顎に指を当てて少し考える仕草をしながら、村上に防災公園で待っててと伝えて通話を終えた。
    「じゃあ、今ちゃん。僕たちも行こうか」
     来馬はにこやかに今に告げる。今は反対するはずもなく力強くはいと頷くと、二人は自転車に乗って颯爽と支部を後にした。



     村上が道路沿いに駆け足で追いかけていると、しばらくして力無くトボトボ歩いている太一を見つけた。
    「太一」
     声をかけて駆け寄ると、太一はこちらにゆっくり振り向き、
    「あ〜鋼さん。追いかけてくれたんすね。ありがとうございます。でも、軽トラック、見失っちゃいました」
     太一はうつむき加減に口を尖らせながら、しょんぼりと答えた。せっかくみんなのため、張り切って支部を飛び出したはいいが、何も収穫を得られず意気消沈している。太一に慰めの言葉の一つでもかけようとしたちょうどその時、村上の上着から携帯端末の着信を告げる音が鳴った。ポケットから端末を取り出して画面を見ると来馬からだった。村上はすぐに応答のボタンを押す。
    「はい。村上です」
    『鋼、ご苦労様。太一と合流できた?』
     来馬の耳触りの良い声が耳に心地良い。もっと聴きたくなるが、現状を報告しなければならない。
    「歩いているところ捕まえました。今、隣にいます。残念ながら軽トラは見失いました」
     いつの間にか石焼き芋の呼び込みの音声も聞こえなくなっていた。聞こえていれば、それを頼りに太一と再び探すこともできたのに。
    『そっか。う〜ん、そうしたら申し訳ないけど、太一と一緒にその先にある防災公園に行って待っててくれるかい?僕たちもこれからそこに向かうから』
    「はい、わかりました」
     防災公園に何かあるのだろうか。通話を終え太一に来馬の指示を伝えると、二人で公園に向かって歩き始めた。
     鋼と太一が三門市が管理する防災公園に着くと、追いかけていた焼き芋の軽トラックが公園の広場で店を開いていた。すでに家族連れや若いカップルのお客さんが10人ほど並んでいる。
    「鋼さん、いましたよ!」
     太一は明らかに気分が浮上し、嬉しそうに駆け足で焼き芋の店に向かう。来馬がここに向かえと指示した理由がわかり、とりあえず村上は来馬と今が到着するまで、太一と二人で公園の入り口が見える位置のベンチに座って待ってることにした。
     しばらくすると、来馬と今が自転車に乗って公園に到着するのがみえたので、手を振って合図を送ると、二人は駐輪場に自転車を止めて、それぞれ手にビニール袋を持ってこちらに向かって来た。
    「お待たせ。鋼も太一もありがとう。じゃあみんなでお芋買おうか」
     順番に列に並び、店主のおじさんに一人一本づつ紙袋に入れてもらう。代金は有無を言わせず来馬が支払った。
     広い公園の芝生の上で遊んでいる家族の邪魔にならないよう、レジャーシートを敷き四人は腰を落ち着けた。来馬と今はレジャーシートとウェットテッシュ、さらに途中でコンビニに寄って人数分の飲み物を買って持参してきた。さすがである。
     あつあつの焼き芋の皮を苦労しながら剥くと、黄金色の山からほんわりと水蒸気が昇り、どこか懐かしいような甘い香りが鼻口をくすぐる。ふうふうと息をかけながら一口噛みつくと、まろやかな甘味が口いっぱいに広がった。村上が今の方を見ると、顔が幸せいっぱいに崩れていた。あのテレビで見ていたレポーターが、食レポをしていた時の顔とまさに一緒で、彼女の食レポは演技ではなかったことが証明されたのだった。
    「美味しかったね。太一のおかげで焼き芋が食べれたよ」
     来馬の他二人はあっという間に焼き芋を腹に収めたが、今は勿体無いのかちまちま食べすすめていた。
    「天高く馬肥ゆる秋か……」
     来馬が空を見上げながらつぶやく。一昨日は風が強く防衛任務にも苦労したが、今日は打って変わって空は高く澄み、秋特有の曰く、うろこ雲と言われている小さな雲が多数の群れをなしていた。
    「あっ、それ知ってます!じゃあおれも、え〜っと秋深き隣は芋を食う人ぞっと、来馬先輩はもっと太ってもいいですけど〜」
     言いながら太一がチラッと今に視線を向ける。相変わらず命知らずな発言だなと村上は思った。
    「太一ぃ〜〜…」
     隣で低い声で呟く、目がつりあがった鬼の形相の今と太一の目が合った。太一がやばいと言いながら慌てて逃げ出すと、あんたは〜〜!っと叫びつつ、今は焼き芋を置いて太一を追いかけて行った。
    「ふふっ。姉弟みたいだね」
     来馬が楽しそうに笑うので、試しに聞いてみる。
    「来馬先輩も弟さんと追いかけごっこなんてしました?」
    「小さい時はね。今頃何しているんだろ。あんまり実家に帰ってないからなぁ。弟には申し訳ないけど、こうして鋼たちと買い食いなんかして、とても楽しく充実しているよ」
     仕方ないことだが来馬は家族よりもボーダー、ましてや鈴鳴第一を優先している。村上たちが親元を離れて地方からスカウトされて来た手前、保護者代わりに気を使っているかもしれない。そんなに気を使わなくてもいいのにと思うが、正直嬉しいとも思う。
    「来馬先輩はここに焼き芋の車が来ることを知っていたんですか?」
    「まあね。この前来た時見かけたんだよ」
     この防災公園は第一次侵攻の後、新たに造成された。多目的広場には芝生が敷き詰められ、複数の家族連れが広々ボール遊びができるほどの広さがあり、少し離れた奥の林は遊歩道にもなっている。屋根付きの備蓄倉庫が整備され、再び近界民が侵攻してきた場合や、自然災害が起きた時の為の避難場所になっている。隣の敷地には花壇が同心円状整備され、円の中心には平和を祈るモニュメントが建っていて、その周りを囲うように埋め込まれた石板には、第一次侵攻で犠牲になった人々の名前が刻まれている。献花台にはいつも花束が添えられ、遺族たちや死者を悼む人々の祈りが捧げられていた。澄んだ空を赤蜻蛉が群れて飛び交っている。そのうちの一匹が来馬の左肩に止まった。
    「肩に来て人懐かしや赤蜻蛉か……」
     来馬が肩に止まった赤蜻蛉を見てひそりと呟く。右手を赤蜻蛉に伸ばすとさっと空に逃げてしまったので、来馬はごろんとレジャーシートに寝転ぶと、う〜んとひとつ伸びをして頭の後ろに手を組み目を瞑った。
     来馬は第一次侵攻の時の話を自分からはあまりしない。この前来た時と言っていたが、もしかしたら来馬も親しい人を亡くしたのだろうか。
     来馬の表情を盗み見ても、誰かを想い出しているのか、別の何かを考えているのか村上にはわからない。けれども、知りたい欲求のまま根掘り葉掘り聞いて来馬に嫌がられるのも避けたい。
     それは絶対してはいけないことだ。
     心をざわつかせながら村上は無言で飛び交う赤蜻蛉を眺めるしかなかった。



    「日が陰ってきたね。そろそろ帰ろうか」
     賑やかだった子供たちの歓声もまばらになって、辺りはうっすら茜色に染まりつつある。
     来馬が身を起こそうとするところへ、立ち上がってすかさず手を差し伸べる。手を握ってグイッと引っ張り上げると来馬はありがとうと言って身を起こして立ち上がった。
    「たまには外でお茶するのも良いね」
    「今も太一も喜んでたようですし、オレも楽しかったです」
    「よかった。また今度みんなで来ようかな」
     村上ははいと答えたが、来馬と二人きりで出かけてみたい気もする。
     ゴミを集め、レジャーシートを片付けて元通りに場を清めたタイミングで、ちょうど今と太一が歩いて戻って来た。公園の敷地をぐるりと一周して来たらしい。
    「二人とも良い運動になったみたいだね」
    「体力無いわね〜太一。すぐ追いついたわ」
     今が勝ち誇ったように、両腕を組んで太一を見ながらふふんと笑った。すっかり機嫌は直っているようだ。
    「うぐぐ。鍛錬します……」
    「オレも付き合ってやろうか?」
    「えっ⁉︎遠慮しときまーす!鋼さんスパルタっぽいですもん!」
     太一は村上からすかさず逃げるように、来馬を盾にして後ろに隠れた。そんな風に思われてたのかと、少しショックだったが、好きなものが自己鍛錬なのだからしょうがない。盾にされた来馬は眉尻を下げてほほえんでいた。
     来馬と村上が荷物を持って、みんなでぞろぞろと移動する。駐輪場に差し掛かった時、来馬が今に提案した。
    「今ちゃん、今日うろこ雲見てたら秋刀魚が食べたくなったんだけど、まだ夕御飯何作るか決まってなければお願いしても良いかな?僕と鋼は歩いて帰るから、今ちゃんと太一は自転車に乗って買い物してきてもらえるかい?」
     来馬はズボンのポケットから濃茶皮の長財布を取り出し、中からカードキーと諭吉を一枚抜き出すと今に渡した。
    「私は構わないですけど、いいんですか……?」
     お金を渡された今が遠慮がちに言う。
    「ああ、このお金?この前、おじいちゃんの家の蔵で虫干しの手伝いしたら、鈴鳴のみんなで美味しいもの食べなさいって貰ったんだ。だから気にしなくていいんだよ」
     あとはみんなの好きなもの買ってきてもらえたら嬉しいなと来馬に言われ、今と太一は顔を見合わせると、来馬ににっこり笑って「ありがとうございます!」と元気に頭を下げた。
     買い物をするため、自転車に乗って出発した今と太一を見送って、来馬と二人歩き始める。折角なので、林の奥にある遊歩道を歩いて行くことにした。
    「ごめんね、鋼。歩くの付き合わせちゃって」
    「いえ。オレも歩きたかったので」
    「そう、嬉しいな。ありがとう」
     来馬に礼を言われて、村上は照れ臭そうに人差し指で小鼻をポリポリ掻く。むしろ自分の方がラッキーなのに。今と太一が姉弟みたいだ、と来馬が言ったことを思い出す。隣を歩く来馬を見て村上は想像してみる。自分にもし兄がいたら、どんな感じなのだろうか。二つ年上の来馬は優しいし、面倒見も良い。背も自分より高いし、声も穏やかで耳障りが良い。来馬を兄さん、と呼ぶ自分はなんだかとても恥ずかしくて顔が熱くなる。ましてや、来馬が村上を弟として扱ってくれたらなんて……。
     でも、来馬の全てを知っている訳ではないから、嬉しい反面、心のどこかでそうじゃない、兄弟じゃあなく、別の何かになりたい焦りのような気持ちもある。
    来馬の亜麻色の髪が木漏れ日に照らされて、きらきら眩しく見える。
     それが、何の感情かわからない村上は首を捻りつつも、秋の柔らかな光が溢れる樹々の中、来馬の歩調に合わせて黄金色の落ち葉に敷き詰められた道を歩んだ。



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    DONE2022.10月22日~23日のエワ即売会(8)に参加します!
    鈴鳴第一で焼き芋を食べる話。少し薄暗いかも…。鈴鳴メンバーの解釈違いごめんなさい。でも、鈴鳴メンバーが仲良くしてるのが大好きなので!
    お芋の季節です 神無月の昼下がり、今日は朝から天気が良く、鈴鳴支部のリビングでは全員揃ってソファの定位置に座りまったりと過ごしていた。
     テレビをBGMがわりになんとなく点けていると、画面では地元のローカル番組の新人と思しき女性リポーターが、季節限定焼き芋の食レポを身振り手振りを交えて、いかにこの焼き芋が素晴らしく美味しいかを必死になって伝えようとしている。
     来馬を始めとする男三人は見ていても特に食いつきもしなかったが、今に関しては瞬きもせず、普段はピンと伸びている背中が若干丸みを帯びるほど、食い入るようにテレビをじっと見詰めていた。
     焼き芋の話題も終わり、次のレポートの紹介に移ると、窓の外から呼応したかのように偶然にも、石焼き芋〜お芋〜と呼び込みのスピーカーの音が聞こえてきた。その音を聞いた太一が、バネのようにソファから飛び跳ねてガラス窓に駆け寄り外を眺めると、荷台に焼き芋の窯を乗せた軽トラックが、ちょうど鈴鳴支部の前の通りを過ぎるところだった。
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     焼き芋の話題も終わり、次のレポートの紹介に移ると、窓の外から呼応したかのように偶然にも、石焼き芋〜お芋〜と呼び込みのスピーカーの音が聞こえてきた。その音を聞いた太一が、バネのようにソファから飛び跳ねてガラス窓に駆け寄り外を眺めると、荷台に焼き芋の窯を乗せた軽トラックが、ちょうど鈴鳴支部の前の通りを過ぎるところだった。
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