Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    きゃし子

    @cathy_maru

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 25

    きゃし子

    ☆quiet follow

    今書いてる夏雨の2年前にボツにした初稿から、雨の中で踊るシーン。ちなみに、ホールドの向きが間違っているので位置関係に矛盾があります。
    タンゴだけど、型を知らないと踊れないソシアルダンスじゃなくてアルゼンチンタンゴ(リーダーが上手ければ初見でも踊れる)を想定。

    雨の中で踊る跡観 ちょうど広場の中央付近だ。煩わしかったのか、少し歩くと観月は立ち止まり、振り返って俺を見据え、つかまれていた右腕を伸ばし、俺の手に左手を添えて自分の体の方に引き寄せた。さすがによろけることはないが、虚を突かれたすきに観月が左手で俺の手を取った。「行きましょう」とほとんど口の動きだけで言って、再び腕を伸ばした分、距離を取った。観月が目を細めて、まつ毛に湛えていた滴が目尻の辺りから落ちたのが分かった。手を普通に繋いでいる。
     観月は俺の手を引いて大きく踏み出すと、体を傾けて走り出し、広場に緩やかな弧を描こうとした。意図をはかりかねてそのまま従えば、重力と遠心力に振り回された。そのまま振り回されてやるのもしゃくなので、踏み止まって右足を大きく引き、そのまま観月ごと右腕を折りたたんで引いた。足元の水がひときわ大きく跳ねる。左腕を背中に回すと観月は素直に腕の中におさまった。
    「ずいぶん楽しそうじゃねーの。ふっ……踊るか?」
     観月の側頭部に額を当て、言葉を落とせば、互いの髪を水が伝っても、吐息に雨も割り入らない。自分の声が反響してきこえる。顔を見てやろうと、首を起こし、自分の額を観月の額にぴたりとつけると、観月は視線を落としたまま言った。
    「僕はダンスの嗜みはないんですけど」
    「あーん?俺様を誰だと思ってやがる」
     任せろ、と続けてホールドを促すと、観月は素直に右手を俺の肩甲骨のあたりに回し、少し笑ってこちらを見上げて尋ねた。
    「これでいいんですか」
    「ああ」
     応じて、次の瞬間には体重移動して、水けむりの中にゆっくりステップを踏み出した。
     雨は止むどころか、その勢いも弱まらない。

    「俺様のリードだ。力抜けよ」

    水が滴り、貼りついた前髪も、濡れた額も頬も、シャツ越しの肌も
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    きゃし子

    MOURNING今書いてる夏雨の2年前にボツにした初稿から、雨の中で踊るシーン。ちなみに、ホールドの向きが間違っているので位置関係に矛盾があります。
    タンゴだけど、型を知らないと踊れないソシアルダンスじゃなくてアルゼンチンタンゴ(リーダーが上手ければ初見でも踊れる)を想定。
    雨の中で踊る跡観 ちょうど広場の中央付近だ。煩わしかったのか、少し歩くと観月は立ち止まり、振り返って俺を見据え、つかまれていた右腕を伸ばし、俺の手に左手を添えて自分の体の方に引き寄せた。さすがによろけることはないが、虚を突かれたすきに観月が左手で俺の手を取った。「行きましょう」とほとんど口の動きだけで言って、再び腕を伸ばした分、距離を取った。観月が目を細めて、まつ毛に湛えていた滴が目尻の辺りから落ちたのが分かった。手を普通に繋いでいる。
     観月は俺の手を引いて大きく踏み出すと、体を傾けて走り出し、広場に緩やかな弧を描こうとした。意図をはかりかねてそのまま従えば、重力と遠心力に振り回された。そのまま振り回されてやるのもしゃくなので、踏み止まって右足を大きく引き、そのまま観月ごと右腕を折りたたんで引いた。足元の水がひときわ大きく跳ねる。左腕を背中に回すと観月は素直に腕の中におさまった。
    747

    recommended works