雨の中で踊る跡観 ちょうど広場の中央付近だ。煩わしかったのか、少し歩くと観月は立ち止まり、振り返って俺を見据え、つかまれていた右腕を伸ばし、俺の手に左手を添えて自分の体の方に引き寄せた。さすがによろけることはないが、虚を突かれたすきに観月が左手で俺の手を取った。「行きましょう」とほとんど口の動きだけで言って、再び腕を伸ばした分、距離を取った。観月が目を細めて、まつ毛に湛えていた滴が目尻の辺りから落ちたのが分かった。手を普通に繋いでいる。
観月は俺の手を引いて大きく踏み出すと、体を傾けて走り出し、広場に緩やかな弧を描こうとした。意図をはかりかねてそのまま従えば、重力と遠心力に振り回された。そのまま振り回されてやるのもしゃくなので、踏み止まって右足を大きく引き、そのまま観月ごと右腕を折りたたんで引いた。足元の水がひときわ大きく跳ねる。左腕を背中に回すと観月は素直に腕の中におさまった。
「ずいぶん楽しそうじゃねーの。ふっ……踊るか?」
観月の側頭部に額を当て、言葉を落とせば、互いの髪を水が伝っても、吐息に雨も割り入らない。自分の声が反響してきこえる。顔を見てやろうと、首を起こし、自分の額を観月の額にぴたりとつけると、観月は視線を落としたまま言った。
「僕はダンスの嗜みはないんですけど」
「あーん?俺様を誰だと思ってやがる」
任せろ、と続けてホールドを促すと、観月は素直に右手を俺の肩甲骨のあたりに回し、少し笑ってこちらを見上げて尋ねた。
「これでいいんですか」
「ああ」
応じて、次の瞬間には体重移動して、水けむりの中にゆっくりステップを踏み出した。
雨は止むどころか、その勢いも弱まらない。
「俺様のリードだ。力抜けよ」
水が滴り、貼りついた前髪も、濡れた額も頬も、シャツ越しの肌も