薔薇少年のなんてことない過去話両親は俺を一流に育てあげようとしていて、俺はそれをずっと愛ゆえの鞭だと思っていた。だから要望に答えようと必死に努力した。
学校でも常に人に愛して貰えるように頑張った。
だけど奇病にかかってから、今までの生活が一変してしまった。
両親が俺のことを汚物のように扱い始めたんだ。
近所の人達からも怪訝な目で見られることが多くなったし、それに耐えきれなくなった両親は事ある毎に俺に罵声を浴びせ続けた。
俺の居場所は学校だけだった。
奇病にかかった俺を見て、かっこよくなったじゃん!どんな感じなの?とクラスの皆はほぼいつも通りに接してくれた。だけど、奇病になったのにいつも通りにすごす俺が気に入らない奴がいたんだろう。
「奇病は移るらしいから近寄らない方がいいぜ。」
…と根も葉もないデマを流し始めたんだ。
奇病についてなんの情報もない時だったから、瞬く間にそのデマは広がって、みんなはそれを信じてしまった。そのせいで俺は唯一の居場所を失ってしまった…
親の愛も、友人だと思っていた奴らの愛も、全部が全部偽物だったんだよ。
俺は……愛がわからなくなった。
家に帰ってもまた罵声を浴びせるだけだろうと思い、家出をした。あんな両親なんだ、探しに来るわけが無い。…だけど心のどこかでは、もしかしたら探しに来てくれるかも…?なんてくだらない期待を持った。まぁ来ることは無かったけどな。
行くあてもなくふらふら彷徨っていたら、黒マントを身につけた男性が
「君…1人なのかい?」
と声をかけてきた。
「……見りゃわかんだろ」
信じてきたものを失って自暴自棄になっていた俺は、初対面の人にきつい態度をとってしまった。しかしその男性は初めと変わらない声でこう提案してきた。
「…そっか、寂しかったんだね。よければ僕と一緒に暮らさないかい?」
その男性はずっと独り身で寂しかったそうだ。
それを聞くと断るのも申し訳なくなってきて、ついて行くことにした。
その男性が吸血鬼とも知らずに
その男性の家はファンタジー漫画に出てくるような洋館で、思わず息を呑んだ。
「中へおいで、一緒にご飯を食べよう。お腹はへすいたかい?」
正直に言うとすっごくお腹がすいていたが、言うのを少し躊躇って「…ん」と返事した。
食事はどれも食べたことないものばかりでワクワクした。目の前に人がいるにも関わらず、ガツガツと食べ物を口に入れる。その光景を男性は嬉しそうに眺めていた。
何も言わずにニコニコ眺めていた男性が口を開いて、とんでもないことを言い出した。
「実は僕、吸血鬼でね…君にも吸血鬼になってもらいたいんだ。あっでも、嫌なら断ってくれても構わないからね!」
「…は?」
嫌だ。
その言葉が喉元まで上がってきたがなんとか堪えた。
だってこの人なら本物の"愛"をくれるかもしれないから…
見ず知らずの俺にこんなに優しくしてくれたのだ。ほかの大人が無視をする中こいつだけは手を差し伸べてくれた。
こんなに良くしてたのに恩を仇で返す事はしたくない。
「……わかった。俺を吸血鬼にしてくれ。」
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それから俺はその男…義父の息子として日々を過ごした。義父は俺を本当の息子のように可愛がってくれた。あの両親とは大違いだ。
でもこの暮らしもいい事ばかりではなかった。
義父の親族は俺をよく思ってないらしく、歓迎してくれたのは義父の両親だけだった。
他の親族から怪訝な目で見られたが、俺はなんとも思わなかった。そういった視線に慣れたからだ。
月が満ちたある日、また俺の生活が一変する出来事が起きた。
政府から奇病病棟に入るように言い渡されたのだ。偉い人はいち早く化け物を隔離したいんだろうな、1時間も経たないうちに迎えの車が来た。
義父は涙をぼろぼろと流しながら俺に抱きついて
「せ"ぇ"ち"ゃ"ん"ッグスッ毎日電話かけるからね!絶対っ会いに行くからね!」
と何度も言った。
そんなに泣かれるたら、ここに留まりたくなるだろ!!
「そんなに泣くなって、死ぬわけじゃねぇんだから。まぁまたな…とッ……父さん。」
初めて父さんと呼んだからとても恥ずかしかった。別れの言葉を告げ終えた俺はそそくさと車に乗り込む。
窓の外から体をくねくねさせて喜ぶ義父の姿が見えた。そんなに嬉しかったのか…だったらもっと早くからそう呼ぶべきだったかもしれねぇな……心の中で少し後悔しながら、病棟に到着するのを待った。