Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    せなん

    地雷原(成人済) 誤字魔

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍨 🍩 🍮 🍰
    POIPOI 142

    せなん

    ☆quiet follow

    スタとレト先の話(CPなし)
    書きたいものとっちらかったので供養
    追記:一人称ミス直しました(土下座)

    ソラネルで指輪と部隊表を眺めていたリュールに落ち着いた男性の声がかかる。声の出先を向くと、先日オルテンシアと共に仲間になった紋章士ベレトがこちらを見ていた。彼は教師でありながら国を導いたと記録に残る、王族が並ぶ紋章士のなかでも稀有な人物だとリュールは印象付いていた。
    「もし可能であれば間近で戦いを見たい人がいるんだ」
    加入早々珍しい、とリュールが特徴を聞くと1人しか該当しなかった。指名のあった彼に部隊表にベレトの指輪を付けるよう印を付けた。

    ベレトはふわ、と指輪から顕現する。ソラネルは人間のかたちになれるから居心地が良い。不満はほとんどないが、強いて言うなら牧場にいる動物に触れられないことと、地面に落ちているものを拾おうとして手がかすること。ああ、食事が食べられないのも不満にあがるか。
    「良い戦いだった」
    一番の不満はやはり手が触れられないこと。指輪を付けた彼の手を包むように手を重ねるが、半透明なからだは手を貫通してしまっていた。目の前に手がぬっと現れたことに驚き俯いていた彼は顔を上げた。
    「……僕は今日も兄上に護られてばかりでしたから」
    夜の倉庫の木箱の隙間、ブロディア王族のスタルークはしゃがみ縮こまらせていた。よくこんな所を見つけるものだ、とベレトは感服した。お化けが嫌いな生徒が見ればびっくりするだろう。
    「弓兵は普通後衛として戦うものだ。逆に前衛に出てしまっては邪魔ではないのか?」
    「確かにそうですが、弓を外してしまったので……」
    「あの距離から早さで戦う相手に狙いを定めるのは難しい。自分から見れば全体の命中率は安定して良い。」
    審美眼を持つ彼でもどれほど当てていたかなとベレトは首を傾げる。
    「それに、急所を狙う才能は見事だった。」
    ヒュ、とスタルークの喉から音がする。彼の弓は、見事に敵の急所だけを狙っていた。当てれば当てるほど敵は屠られ、しかし武器として相手との距離のある彼は白いシャツに返り血の一滴も浴びず綺麗なまま立っていた。
    「僕なんかに才能があるんですか?」
    ベレトはなるほど、と彼を見る。自身の天性の才能がわからないことは少なくない。それとこの卑下する物言いは誰かと比較され自分が叩きのめされ育ってきたのだろう。大方王族として、と言われていたのだろうか。
    「少なくとも自分はスタルークの才能をかっている。」
    傭兵団に欲しいくらいだ。ベレトの眼は、教師でも救世主でもない、まるで死神のよう冷えた眼をしていた。スタルークは突如変わった声色に顔を上げると、常人ならば逃げ出してもおかしくない雰囲気を纏った傭兵がいたが、スタルークはその目を見てなお、むしろその目を見ながら言葉を続けた。
    「……でもその力で、兄上を、臣下を仲間を、護れるのならば僕は……。」
    弓を握る、背の割に太い指をぎゅっと握った。
    「成程、これが武力の国の。」
    「えっな、なにか言いましたか……?」
    「いいや、何も」
    ベレトは先生としての雰囲気に戻り、俯くスタルークと目線を合わせる。透明な手ではあるが彼を安心させるため感覚はないがそっと包み込んだ。
    「まず、弓兵としての基本はついているから心構えから。強いて言うなら右腕の力をつけると良い。」
    「はい……」
    「それから、鍛錬で的を当てるのと、敵意を持って動くものに当てるのでは全く状況は違う。当てられることに越したことはないが、的から外したからといって落ち込んではいけない。」
    「はい…」
    「それから、寝不足は良くない。」
    淡々と先生として弓を教えて貰っていたスタルークはぽかんとした。
    「寝不足であれば疲労も溜まるし目が霞んで命中が落ちる。」
    「た、たしかに……」
    「ほら、早く寝なければ。その隈は日常的に不眠でなければ付かないものだ。」
    ベレトは寝なくても横になるだけで違うから、と自室に戻ることを促した。恐らくだが夢見が悪いのだろう。カモミールの紅茶でもいれられたらなんてベレトは半透明の腕でスタルークに催促をした。

    「普段があの様子で、戦場ではああなるのか。」
    あの日から数日、ベレトは仲間と話すスタルークの様子をみて一人呟いた。卑屈、優しさと気遣い、そして卑屈。随分と面白い人間だ。
    ベレトは加入するよりずっと前、イルシオンの教会でオルテンシアの指にあった時からスタルークの姿を見ていた。オルテンシアを落とし撤退させたとき、最初はまぐれだと思った。しかし異形と化した彼の父らしき人と戦っている姿を見た際、異形とはいえ実の身内にも関わらず容赦なく弓を当てていた姿を見て驚いた。隣で戦う紅髪の剣士はよく見ないとわからないが一瞬だけ剣のブレが見えたのに。彼も父上と言っていたうえ先日もスタルークの前に立っていたから彼がスタルークの兄なのだろう。スタルークは兄上としか言っていなかったから後で名前を聞かなければ。それからソルム城で戦ったときも、そして紋章士として隣で戦ったときにも確信出来たが彼には恐ろしい程の弓の才がある。まるで自分と相手しかいないような集中力、確実に屠るという覚悟とそれに見合った精度。ぶれなく矢がつがえられる様をベレトは間近で感じていた。
    「でもこれ以上は気づかない方が良いのかもしれないな」
    士官学校の生徒と歳が変わらない彼に、弓の、しかも道楽の狩りではない人殺しの才能があるなど。一歩間違えれば蹂躙する暴力となり得るが、卑屈のなかに垣間見える優しさがそうならないようにしているのだろう。ベレトは彼の兄の名はなんだろうとソラネルを散策し始めた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏💯💯❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works