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    vicjuli69

    @vicjuli69

    ヴィク勇オメガバ沼から這い上がれない人です。
    普段はあつ森配信やりながら影では支部でコソコソヴィク勇R18オメガバで
    ハピエン話を書きなぐっております。ハピエン厨です。ご注意ください。
    目下の頭痛の種は 表紙絵を塗る事。下書きは好きなんだけど…

    pixiv https://www.pixiv.net/users/21559710

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    vicjuli69

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    氷奏28の無配本無くなったので供養
    勿論ヴィク勇ハピエンです!フンスフンス
    パスワードは お品書きに記載しております。

    #ヴィク勇
    vicCourage

    【二人のCompulsory記念公開】神々のうっかりで   転生したらこうなった件氷奏ストラースチ28 無配本
         百合庵

    神々のうっかりで
      転生したらこうなった件


     俺の名はヴィクトル・ニキフォロフ、フィギュアスケーターで、名は売れ
    ていると自負しているよ。フィギュアスケーターで世界選手権を5連覇した
    後、今後の己の動向に正直に言うと迷走していた俺は彼、勝生勇利に出会っ
    た。
     勇利は自分勝手に考えて行動してしまう悪い質があるけれど、それを差し置
    いても俺は彼から驚きとLOVEとLIFEを貰い、生きていく上での大事なものを取
    り戻したと感じた。
     勇利に対して師弟愛から性愛に俺の心が変わるまで、左程時間も掛からなか
    ったよ。俺は勇利を愛したくて仕方が無かった。押し倒して勇利と繋がりた
    い、と幾度思いながら夜を明かしたか分からない。
     ロシア人特有の我慢強さでその欲求をひたすら耐えながら、俺はグランプリ
    ファイナルの勇利の言葉に歓喜した。

    「…、ヴィクトル、その…僕を、抱いて欲しい…」
     おずおずとした口調で、真っ赤な顔を伏せながら、勇利はバンケットの後、
    夜に俺に向かって小さな、本当に微かな声で告げてきた。
    「お、男だから、気持ち悪いよね…、わ、忘れて…」
     俺が感動に心が咽び鳴いている無言の時間に耐えかねたのか風呂上りのバス
    ローブのままツインのベットに逃げようとした勇利の手首を掴み、強く抱き寄
    せた。
    「俺が何か月その言葉を待っていたと思うんだい?答えはYESだよ、勇
    利!!」
     情けない事に俺は我慢できず、その場で勇利の顎に掌をあてると奪うように
    舌を絡めあった。はじめは固く閉じていた勇利の唇も、慣れない体でおずおず
    と開いたのを逃がさずに深く口内を求めた。慣れていない勇利は腰砕けで瞳が
    少し潤んでいたよ、とても、性愛的(エロス)だった。そして彼の理想的に鍛
    えられたしなやかな躰を狭いベッドに運び、ゆっくりと横たえた。
     ぎゅっと緊張に目をきつく閉じる勇利の脇腹を摩って驚かせると俺は幸福の
    絶頂を耐えられない表情で微笑んだ。
    「ひゃ!く、くすぐったいさぁぁ!」
    「やっと笑った、勇利、優しくするから、力抜いてて」
     互いにははっ、と笑いながら俺は愛撫に耽った。はじめは押し殺していた艶
    声が、次第に大きく、絶え間なく続いていく様は愉悦の域だったよ?勇利が俺
    の愛撫に感じてくれているのが嬉しくて嬉しくて、彼の雄芯を含んでは何度も
    何度もイかせて全ての飛沫を飲み干した。
     とろとろに解けた勇利は躰を弛緩させている間にも俺は胸の尖りを軽く噛ん
    では吸い付きながら勇利の誰も受け入れた事の無い、きつく窄まった後孔を解
    すように器用にいつかの為に持参していたローションを彼に気づかせないよう
    に掌の温もりで暖めてから指先を埋め込んだ。
    「…ぁ、っ…」
     少し吐息を漏らす表情は痛みを訴えていない。
    「痛い?今俺の指を1本勇利が飲み込んでくれたよ…凄く、勇利のナカ、熱い
    …」
     恥ずかしさに勇利は瞳を見開き、両手で顔を覆って左右に首を振っていた
    よ。
    「い、言わないでさぁ!はずかしかっ…」
     きゅっと俺の指がきつく締められて狭さに息を飲んだ。ワクワクが収まる事
    を知らない。 
     勇利の中に俺が入ったらどうなるんだろうか、興奮で俺はティーンの様に耳
    まで顔を朱に染めて居たって、君は気づいてないだろうね。
     長い愛撫の後、俺のペニスが勇利の体内に入った時、苦しそうな声をあげつ
    つ耐えてくれる姿に俺は再び勇利に恋をしたんだよ。絶対に、この子を離さな
    い、離してはいけない、とね。何が起こっても彼の傍に居たい。
     激しくいやらしい粘液を掻き混ぜる音と乾いた肌のぶつかる音と、勇利の嬌
    声を聞きながら、俺達は初めて繋がりあった、そして求め合った。勇利の躰は
    柔らかくて、下肢を胸まで押しあげて窮屈な恰好だったのに耐えてくれて、俺
    を迎え入れてくれた。
     表情で痛みを感じているのは分かった。いつものキュートな下がり眉の間、
    眉間に皺を刻みながら指はシーツを掴んでいた。そうまでしても俺を受け入れ
    てくれる勇利を愛せない事なんてないだろう?愛しくて愛しくて仕方が無かっ
    た。
     勇利の奥底で己の精を解き放った時、勇利の体内が激しく振動し続けた。彼
    もイってくれたんだと思うと、ただただ、嬉しかった。繋がったまま、俺達は
    暫く抱き合っていた。
     


     それから俺達はピーテル(サンクトペテルブルク)で暮らし始めた。遠慮を
    しまくって下宿を探す勇利を説き伏せて俺の自宅で同居…いや同棲を始めて、
    俺も勇利も選手として、シーズンを始めた。そして自宅では競技に支障のない
    時を狙って、一応俺は勇利のコーチだからね、無理はさせられない、…そして
    勇利が俺を求めてくれはじめてくれるのが嬉しかった。
    幸せだった。
    この世の誰よりも愛しい勇利
    離れずにそばに居て…



    「…と、俺は幸せな毎日を噛みしめていたんだよ?」
     眼前のモノトーンの衣類を来た男を睨みつける。
     俺が今居る場所は、景色もなにもない、モノトーンの世界だった。真っ白な
    床、真っ黒な壁に囲まれて椅子と扉が並んで3つ壁に並んでついた不思議な部
    屋のような所。机の白色が際立って向かい合って座っている男に俺は話しかけ
    ていた。
     
    「本当に申し訳ないと思っております、ヴィクトル・ニキフォロフさん、此方
    の手違いで貴方を此方へと呼んでしまったのは本当に陳謝しか…」
    「…じゃあ俺は戻れるんだろうね?」
     平謝りする男はすまなさそうに首を左右に振る。

    「貴方の肉体は既に荼毘に伏されておられますので…、上司、に相談致します
    ので…」
     俺は舌打ちをしながら絶望に机の上に顔を伏せた。



     気がついたらこの部屋、に居た。そして気弱そうな男がどこからともなく表
    れて、いきなり土下座をしてきた。勿論俺に対して、だ。訳も分からず、立ち
    尽くす俺に視線を合わす事もなく、その男は語り始めた。
    「こちらの手違いで、まだ寿命のある貴方を霊界に呼び寄せてしまいまして…
    本当に申し訳ありません!!」
     男の話はそこから始まった。俺は突然の心筋梗塞で呆気なくリンクの上で命
    を落としたらしい。幸せの真っ只中に、勇利が見ている前で倒れた俺を激しい
    痛みと薄れゆく意識の中で、彼の悲鳴と涙だけを俺は記憶していた。
     しかし、男の話では、俺はまだ「生きる予定の人間」だったらしい。手違い
    で、ってそんな事で済まされる問題じゃないだろう?!俺は怒りに打ち震え
    た。俺を失って、勇利は、どんな悲しみに暮れただろう、ヤコフは、ユリオ
    は、…ロシアのリンクメイトや、ロシア、全国のファンはー‥
     勇利、勇利、君に逢いたい。

     手違いならば、戻してくれるのが当然じゃないか。しかしそれは叶わないと
    いう。キィ、と耳障りな音をたてて扉が開いた。先程の男より、威厳をもった
    スーツ姿のモノトーンの男が俺の前に歩み寄り、声をかけてきた。
    「ヴィクトル・ニキフォルフさん、協議の結果、貴方に3つの希望を叶える事
    でこの件を不問に伏していただけませんでしょうか?
     顔をあげると、穏やかな表情の年配の紳士が俺に薄く仄かに朱色の、薔薇の
    香のする紙とペンを差し出してきた。

    「そちらに3つ、貴方の希望をお書きください、但し生き返る、事だけは不可
    能です」
     差し出された紙を見遣りながら、無機質に1 2 3 と書かれた数字だけ
    を俺は追っていた。


     相当な時間がたっただろう。俺は思考を巡らせていた。勇利の下に戻る事は
    できない、、ならば…どうしたらいいだろうか。俺の3つの希望、…俺はゆっ
    くりとペンを走らせていた。キリル文字が紙に吸い込まれるように記されて不
    思議な事に書く度に金色に光り、そして黒い色に戻っていく。

     1:勇利と次の生でも必ず幸せな家庭を築きたい。
     2:互いに才能のあるフィギュアスケーターとし   て必ず出会いたい。
     3:…現世の勇利に、俺に関する記憶を消して貰いたい。代わりに次の生で
    出会った時に互いに記憶を戻して欲しい。

     勇利が俺の事で悲しむのは見たくない、最後にそう書き記した後、俺の瞳か
    ら大粒の涙が零れた。紳士は俺の少し涙で滲んだ紙を丁寧に受け取り、俺を扉
    に誘った。そこから俺の記憶は少し途切れる。





     物心ついた頃には両親は居なかった。俺はヴィクトル・ニキフォロフ。幼少
    の頃からフィギュアスケーターの才能を国から認められ、今はコーチのヤコフ
    の家に同居し、大切に育てられている。俺は珍しいアルファ、らしい。二次成
    長期に現れる、第二の性、10歳前後で発覚する性(バース)を俺は産まれた
    直後から非常に強いアルファフェロモンを纏って産まれたらしい。恐ろしく強
    く、そして珍しい例だったという。そして国家ぐるみで俺は英才教育を受け
    た。
     その中で突出していたのがフィギュアスケートの才能。俺は爆発的にその才
    能を開花させて居た。27歳になっても、俺には番になろうと思える相手が見
    つからなかった。

     国はせっついてくる。才能のあるオメガという、一次性が男女に関わらず子
    を孕むことができる性を何度も宛がってきた。彼らはアルファを彼らの誘引フ
    ェロモンで惹きつけて、性交をする。アルファ相手だと、大体がアルファ、ま
    れにオメガが産まれる。

     この世は アルファ、ベータ、オメガ という3つの性で成り立つ世界だ。
    アルファは支配階級とも呼ばれ、あらゆる分野で才能を爆発させているのは大
    抵がアルファ、だ。ベータは特に特筆すべきもない一般の人々。この世はベー
    タで埋め尽くされ、そして少数のアルファ、そして極少数のオメガで成り立つ
    世界だ。アルファは自分が一生寄り添う番を求める。番相手は必ずオメガ。オ
    メガに出会えないアルファは同じアルファやベータと交わり、一生を終えてい
    く。

     甘ったるい声を響かせながら俺の部屋に無理やり…といっても政府の差し金
    だが、私室に入ってくるオメガ。
    「ねぇ、僕を、貴方の番にしてよ…」
     アルファを狂わすという誘引フェロモンは普通はアルファにセックス欲求以
    外の何もかもの思考を奪う。そして性交中にオメガの項を噛みつく事で、番と
    いう、特殊な関係を結び、その関係は肉親、夫婦を上回る強い絆とされてい
    て、各国は才能のあるアルファを数多く得ようと躍起になっていた。
     しなだれてくる瞳を潤わせた少年が俺のベッドの傍に近づく。彼の放つ芳香
    は、フェロモンの匂いは俺の気分を酷く不快にさせてくる。綺麗な少年だが、
    俺はそのフェロモンに誘引される事は無かった。またか、という気分でいる
    と、勝手に俺の下腹部を弄る相手は何の反応もしない俺のペニスに酷く悲し気
    な顔をみせた。
     そう、俺はオメガに対して勃起する事は今まで無かった。しかし普通に自慰
    では勃つ。不能でもないし、無精子症でない事も検査で分かっている。フェロ
    モンを感じる器官、受容体も通常だ。しかし見繕われるどの相手にも、俺は感
    じる事は一切なかった。
    「ごめんね、君じゃ無理みたいだ」
     冷たい一言をテンプレートの様に投げると、相手は酷く絶望の表情をみせて
    追いすがった。携帯端末を弄ると部屋の外から男が現れ、発情したオメガの少
    年を外へと連れ出していった。
     俺は深くため息をついた。
    「オメガなんて碌な者はいないな」
     バースの差別をする訳ではないけれど、俺は彼らに良い感情を持つことはで
    きなかった。そして公言もしていた。世間は囃し立てた。『氷盤の皇帝を堕と
    すオメガは現れるのか?!』と。

     世界選手権を4連覇した頃、よく台乗りする友人が声を掛けてきた。
    「ヴィクトル、君、まだ見つからないの?」
     クリストフ・ジャコメッティー、俺のジュニアの頃からの既知でアルファ。
    彼は阿吽の呼吸で俺の嫌な事などは察してくれる。その彼が俺の嫌いなオメ
    ガ、番の話をするのは珍しい。

    「居ないね、俺はオメガに興味は無いよ」
     長い睫毛をバサバサと揺らす魅力的なアルファは何度か瞬きをしたあと、ゆ
    っくりと話し出した。
    「君も変わったアルファだよね、俺も大概変わっていると思うけど予想の上を
    いくね…、で、同じような変わったオメガを見つけたんだよ。アルファの威圧
    フェロモンを全く受け付けないオメガでね。俺と良く試合で会う、フィギュア
    スケーターでねぇ…、俺は番もちなので彼とはいい友達として付き合っている
    けど、本当不思議な子だよ。君と似てる」
     その話に少し興味が湧いた。珍しい事だな、と俺自身も思いながら告げてみ
    る。
    「ふぅん…その子の名前は?」
    「ん?興味湧いた?」
     ニヤリと笑んだ悪友は耳元で囁いて来た。
    「…秘密。俺のマーキングだけつけておいたから、普通のアルファなら近づく
    のも恐ろしいんじゃないかな?変な虫よけスプレーだよね、俺」
     クリスは可也強いアルファ属性を持っている。俺は突き抜けた属性を持って
    いるのは知っているが、アルファのマーキング…威圧フェロモンは時に それ
    より弱い相手を威圧する。虫よけとはよく言ったものだ。動物が己のものと主
    張するように、俺達は気に入った相手にはマーキングをする習性が残ってい
    る。
    「そう、いつか会ってみてもいいね、クリスの友達としてなら、ね」
     俺のオメガ嫌いを知っている悪友は大げさに両の肩を上げた。


     クリスの言ってる相手は、比較的直ぐに俺の前に現れた。
     グランプリファイナルの選手の中に黒髪を後ろに撫でつけた小柄な選手が居
    た。ここまで登ってくるのに必死、という体で、緊張なのか彼の演技はお世辞
    にも上手いと言えたものではなかったけれど、プロの構成、特に流れやSTE
    Pなどが俺の目を引いた。うっすらと遠くのリンク上の彼からはクリスの匂い
    がしていた。
    「ふぅん…俺のファンかな、色々俺に似通った所があるなぁ…でも、其処が限
    界なのかな?メンタルが弱すぎる」
     俺は彼の演技の途中に席を立った。アップをしておかねばならない。俺は負
    ける積もりはない。たとえクリスでもね。少し冴えない青年の演技を背にし、
    俺は選手控え室へと向かって歩みを進めた。 
     
     クリスのおススメの子にはすれ違いで会う事は無かった。
     大会後に会場のロビーで、ふとふわりと自分は芳香を感じ、其方に視線を向
    けた。
     野暮ったい雰囲気の、黒髪の青年が此方を見ている。全く華やかさも無いこ
    の青年を自分と同じ氷の上で戦った選手だとはその時は俺は気づきもしなかっ
    た。遠目だった為、俺のファンなのかと思った。
    「記念写真?、いいよ?」
     彼はその瞬間、大きな瞳を見開いて眉根を寄せて背中を向けて去っていっ
    た。何故か俺はその後ろ姿に魅かれ始めている事を淡く感じ、彼の去った方向
    をずっと見続けていた。

     なぜすぐに気づかなかったんだろうね?俺は。

     バンケットで酔いつぶれた、黒髪の青年が俺に抱き着いてきたとき、俺は全
    ての記憶を取り戻した。
    「Be My Coach Victor!!」
     俺はその瞬間の事を忘れないだろう。
     契約通り、だね。ユウリ、愛しいユウリ、その少年は勝生勇利、俺の前の生
    で傍にいると誓った男性。神の誤算により引き剥がされた運命のヒト。遠目で
    見た時に何故、気づかなかったのか。
     勇利が俺に抱き着いて瞳をキラキラさせながらあられもない姿で腰をくねら
    せている時、俺は再び彼と恋に堕ちた。俺の鼻だけを擽る、爽やかなヒノキの
    ような香り。少し木の蜜を宿したようなその芳香に俺は頬を赤らめてしまっ
    た。クリスがしたり顔で微笑んでいるのも知らずに、勇利の芳香を愛し気に嗅
    いでいた。

     ユウリ、勇利、やっと逢えた、俺の運命の勇利

     俺の心は昂った。酔っぱらってロビーでのストイックな雰囲気から解放され
    た勇利と踊る事が楽しい。幸せだ。その全てを俺が独占したい。
     俺の独占欲は、とても強いんだよ、勇利。
     酔いが冷めたら、君は俺を思い出してくれるんだろう。俺は期待に胸を膨ら
    ませていた。
     神、なのかな。あの紳士も粋な計らいをしてくれる。確かにこの世の中で
    は、俺と勇利はアルファとオメガ、互いに一生を共にする事もできるし、子供
    も作れる。最高じゃないか、愛する人が自分の子供を育み、産み、そして一緒
    に愛を育てていくなんて!
     俺は感動に咽び鳴いた。
     酔いつぶれてとうとうへたった彼を今すぐにでも抱きたかった。彼の子宮に
    己を入れて貫いて、俺だけの印をその首筋に残したい衝動に襲われたが、残念
    な事に弟子の痴態を知った彼のコーチ、チェレスティーノによってそれは阻ま
    れてしまった。
    コーチになんとか肩を支えられて去っていく勇利の背中を見ている他できな
    かった。
    あとで散々後悔するよ、本能のままになぜ勇利を掻っ攫わなかったのかって。

     次の日に、酔いの冷めた勇利は俺とあったらきっと契約が実行されたならば
    前生を思い出すだろう、そう信じていたのに、次の日目を覚まして宿泊してい
    るホテルで日本選手団の事を聞くと、朝一番の飛行機で帰国する為、早朝にチ
    ェックアウトしたという。
     俺は言いようの無い不安を感じた。
     オメガである彼を他のアルファが掻っ攫う事は無いか、昨日のバンケットの
    踊りの際に散々マーキングの上書きをしておいたけれど…。こればかりは祈る
    しかない。

    「コーチになって、ヴィクトル」
    「ああ、最高だよ、勇利。勇利とまた、一緒に過ごしたい」
     俺の妄想は膨らみ、そして…萎んだ。
     彼からの応答は、一切無かったんだ。その後の世界的な大会にも、彼の姿は
    無かった。グランプリファイナルに出場する程の選手だ、当然また出会う、と
    思っていた。しかし居なかった。
     日本で行われる世界選手権には、流石に出場選手名簿をみて肩を落とした
    が、日本だ、ここは彼の居る日本だ。観客として見にきてくれる、と思ってい
    た。そして彼の匂いはどこにも無かった。
     世界選手権でカメラの前に記した金メダル。どこかで勇利は見てくれている
    のかな?

     俺はここに居るよ、俺の愛する勇利

     コーチの正式要請だけを期待していたが音沙汰が無い。
     俺は日本のスケート連盟に問い合わせたが、個人情報、ましては国の宝でも
    ある有能なオメガをロシアの俺、外国のアルファに会わせるなど言語道断だっ
    たのだろう。彼の情報は一切をヴェールに隠された。そんな折にリンクメイト
    のミラがRT(リツイート)してわざわざ教えてくれた情報。
     
     そこには俺に訴えかけるような、少しふっくらとした勇利が居た。
     俺のフリー、離れずに傍にいて をインターネットの海の中で演じていた。

     それからの俺の行動は素早かった。迅速にまずはマッカチンの検疫、そして
    己の一時休養願い。ロシアの選手が一日本の選手のコーチに成るなど、前代未
    聞だし、国の沽券にも関わる事だったのだろう。が、俺はそんな事で勇利を諦
    める積もりはない。全ての権利と、つてを利用してでも、彼のコーチになる。
    彼のSNS、動画のアップロード地点は、日本、九州、長谷津。
    『うち~温泉やってるんで~きてくださ~い』
     その言葉を頼りに押しかけてみると、なんと長谷津には温泉は1つしかなか
    った。なんという幸運だろうか、と俺はマッカチンを傍に侍らせながら蒼い、
    澄んだ空を見上げた。雲に覆われた陰鬱なピーテルの氷空と比べ、長谷津の青
    空は澄み切った綺麗な色をしていた。

     親切な温泉の男性に導かれて、マッカチンを玄関先に置いて貰い、勧められ
    た温泉に入ってみる。内風呂は湿気で俺には向かなかったが、外にあるという
    露天風呂はとても最高の気持ちになれた。これから、勇利と出会える。
     君は思い出してくれるかな?

     暫くして、着衣のままの着ぶくれた青年が露天風呂に走り込んできた。

     勇利は酷く驚いた顔で俺を見つめた。表情から察するに、感動的ハグがある
    と思っていたがそれは肩透かしにおわる。

     『あれ?記憶が戻っていない?』

     神のささやかな悪戯か、勇利の記憶は戻ってはいなかった。しかし戻らない
    のならばもう一度育めばいい。俺は一生離す気はないよ、一緒に家族を作ろ
    う?勇利。
    『この生でも初めから愛を育てなさい』という紳士の声が聞こえたような気が
    したよ。
     
     俺は立ち上がり勇利の芳香を嗅ぎながらゆっくりと優雅な仕草を装いながら
    手を伸ばして言った。

     「勇利、君をグランプリファイナルで優勝させるぞ!」

     これから俺は前生よりも頑なな勇利を俺の色に染めていく。
    ゾクゾクして、楽しい人生になりそうだ、とほくそ笑んでいたのは勇利は知ら
    ないだろうけどね。





































     囲われた時の中で


    「ファイナルで終わりにしよう」
     グランプリファイナル、ショートプログラムを終え、寛いだホテルの一室
    で、師弟は互いに躰を震わせながら話し合いをしていた。勇利はぎゅっと拳を
    握り、ヴィクトルの瞳を見ないように俯いて、ヴィクトルは瞳から出る涙を抑
    えきれずに居た。

     『一体、どうして今こんな事を勇利は言うのだろう…俺の脳内は混乱してい
    た。勇利が引退?なんだそれは?じゃあ何故こんな指輪をくれた?』
     瞳の端に移る右手にはまる指輪が鈍く光って見えた。言い訳は分かった。俺
    に競技復帰して欲しい、だから自分のコーチをしてては俺が氷盤に戻れない、
    だから、という事だろう。俺は半ば衝動的に勇利の肩を力任せに押してベッド
    の上に倒した。
    「俺がどれだけ我慢してたか、勇利は分かってるの?」
    「…そんなの、分からないよ…何度も僕言ったよね、ヴィクトルは僕の神様な
    んだ」
    「勇利も俺を特別視するのかい?…悲しいよ、俺自身を、中身を見てくれてる
    と思っていたのに。俺が優性アルファだからかい?お前だって、オメガじゃな
    いか、何故釣り合わないとか発想が出て来るのか分かりたくもないね!」


     俺が長谷津に来て約8カ月、初日に俺が勇利に告げられたのは驚きの内容だ
    った。俺の私品の段ボールであふれたクラシカルな部屋の中でタタミの上に正
    座した勇利は言いにくそうに俺に告げた。
    「…ヴィクトル、僕、ヴィクトルが嫌いな、……オメガなんだ…、だから今の
    内に気が変わったなら帰った方が良いと思って…」
     俯いて少し肩を震わせながら勇利は言いにくかっただろう自分の二次性の事
    を俺に打ち明けた。普段は抑制剤でフェロモンを抑えているという勇利からは
    確かに使っているボディーソープの匂いしかしなかった。コーチングしてもら
    う以上、隠しとおせない事、と自覚していた勇利は俺に真実を打ち明けた。ヴ
    ィクトルヲタクだという、昔から俺のFANだったという勇利の事だ、俺がオメ
    ガを心底嫌悪している事を知っていただろう。だからこそ、初日に打ち明けよ
    うと、したのだろう。震えている勇利の肩に俺は掌をおしあてて優しく撫で
    た。

    「…知っていて、来たんだよ、勇利。勇利がオメガだというのはバンケットで
    知っていた」
    「え?…バンケット?…」
     記憶を飛ばしているのだろう、心底分からないという表情を浮かべ首を傾げ
    る仕草さえ、俺は下半身が滾るのを感じる程だ。
     そう、俺はバンケットで勇利が俺の番だと確信していた。離してはいけない
    と脳が警告を出す程に。そして半ば押しかけるように長谷津にやってきた。ま
    さか、勇利から自分がオメガだと公言されるとは思ってもみなかったけどね?
    「そう、俺は勇利、お前を番にしたいと思っている」

     勇利の顎があがり、俺を見据える瞳は大きく見開かれていた。歓喜の表情を
    見せた刹那、凄く悲しそうな表情に、絶望の表情に戻し、再び勇利は俯いて呟
    いた。
    「…ごめん、無理、なんだ。僕はヴィクトルの番にはなれない。コーチしてく
    れるのはとても嬉しい…でも、ヴィクトルの期待にはスケートでしか返せな
    い」
     言い切る言葉は少し震えていたが、最後はしっかりとした口調だった。俺は
    初めて、失恋を経験した。しかし、それで諦める事なんて、できやしない。勇
    利の心が変わる事を期待しながらも、俺は勇利をグランプリファイナルに導く
    べく彼のコーチを続けた。

     あれはロシア大会の後だったか。俺が空港に迎えに行ってゆーとぴあかつき
    に二人と1匹で戻った時、寛子マーマが凄く悲しそうな表情で黄色い大きな封
    筒を勇利に差し出した。日本語だから何を言ってたかは俺には分からない。寛
    子マーマは殆ど泣きながら、そして勇利は表情を崩さずに笑ってマーマを抱き
    しめていた。俺はただ、それを見るだけしかできなかった。
     グランプリファイナルを決めて、親子の歓喜の情景だと、信じて疑っていな
    かったんだよ。

    「勇利、それはスケ連からの手紙かい?」
     話しかけると言葉を少し詰まらせたあと、うん、そんな感じ、と勇利は言っ
    た。


    ◆◆◆
     
     それから勇利は変わったような変化を見せた。どうしてもグランプリファイ
    ナルで金を取る為にもクワドフリップを完成させたい、と。彼のグランプリフ
    ァイナルに照準を合わせた気合いはそれまで以上の気迫に満ちたものだった。
    か弱い豆腐メンタルの勇利はそこには居らず、猛獣のようにギラギラとした気
    迫をもった勇利が居た。
     そしてバルセロナのショートプログラム、点数は悪くは無かった。しかし手
    をついてしまったクワドフリップの失敗に、勇利は氷盤上で膝を崩して泣い
    た。とても悔しそうに。俺はその情景をただ見守る事しかできず、もどかしい
    想いに心の一部が潰れるのを感じた。勇利の悲しみが俺にも伝わってきて、そ
    れを共有し、心で泣いた。こんな事は一度も、俺の人生の中では無かったん
    だ。

     そして彼は俺に別れを切り出した。コーチの解消、そして俺の復帰を強く願
    っていると俺に告げた。自分は、長谷津に帰り、引退すると…。気が付くと衝
    動的に押し倒していた。

    「俺の気持ちは最初の日に言ったよね…?勇利、答えは変わらないの?」
     俺の銀の髪が重力に従うように勇利の額に重なる。勇利は俺の目から逃れる
    ように視線をずらす。
    「……変わらない、仕方、ないんだ…」
     何か含むような言い方が俺の衝動を僅かに止めた。

    このまま犯して、項に齧りつきたいー…

     衝動をなけなしの理性が押しとどめる。勇利が今発情期だったならばそんな
    理性などふっ飛ばされていただろう。しかしかなり抑えられた彼からはいつも
    の体臭しかしなかった。オレンジのいつものソープの香り。アルファはオメガ
    を威圧で屈服させられる。そうすれば、勇利は俺だけのものになる…でも、俺
    は欲張りだ。身体だけではなく、心も俺のモノにしたかったんだ。
     勇利に被さろうとした自分を押さえて俺は身体を起こし、少しはだけたバス
    ローブを其の儘脱ぎ捨てると 勇利の横のベッドに潜り込み、勇利に背を向け
    た。
    「・・・・」
     室内にはそれから言葉はなく、静寂が室内に流れた。


     翌日、俺は勇利から姿を消した。勇利と一緒にいると襲いかかってしまうか
    もしれない。大事なフリーを目前にしてコーチが姿を消すのは言語道断だと思
    っていたが俺の本能が剥きだしにならないようにと勇利が目を覚ます前にホテ
    ルを出て街中を歩き回った。
     勇利が公開練習に出なかったと知ったのはその夜の事だった。互いに言葉も
    発しないまま夕食を一緒に取り、何事もなかったように眠る。本番前、大事な
    フリーの前に俺達は心を共有できないままその日を迎えた。
     『大丈夫、勇利ならできるよ』
     とってつけたような言葉で送り出そうとした俺を勇利が制した。彼の瞳はと
    ても闘志に満ちていた。どうか、引退を取り消して欲しい、しかし素晴らしい
    演技をしてほしい…
     勇利がYuri On Iceで素晴らしい演技をすれば、俺も嬉しい、しかし彼は引
    退を覆さないだろう。
     勇利が演技を失敗すると彼の心が壊れる。それは俺の心も壊れてしまうのと
    同義。
     どちらに転んでも、勇利の引退の決意を覆せる事はできない。俺は泣きなが
    ら勇利が俺に向かって手を伸ばす姿を見ていた。俺も彼に手を伸ばしい衝動に
    駆られた。俺を求めてくれるのかい?勇利、俺に向かってそんな表情で、そん
    な潤んだ瞳で手をのばしてくれるのかい?
     俺はリンクの中央から戻ってくる愛しい片思いのオメガに向かって両手を広
    げて待ち受ける。
     しかし彼は暫く中央で涙を浮かべたまま、俺を凝視して直ぐにリンクサイド
    に戻ろうとはしなかった。俺は悟った。彼は、勇利はまだ引退の意を崩してい
    ない、と。俺がキスクラで現役復帰を匂わせると勇利は凄く素敵な笑顔をくれ
    た。彼の願い、ひとつ叶えてあげる。そして諦めの悪い俺はまた策を練る。ユ
    リオに最高の演技をして貰いたい、ダバーイ、そして、俺の大切なオメガの点
    数を超える演技をしてくれ、お願いだ…
     ユリオにハグをした腕を強める。ユリオは一言だけ発した。
    「ジジィでもできねーことをやってやらぁ、さっさと戻って見とけ」

    ◆◆◆
     長谷津はとても暖かい。人の心も全て。グランプリファイナルで銀メダルに
    輝いた勇利と、コーチの俺を迎えてくれた。しかし勇利の顔はどこか冴えなか
    った。愛想笑いで祝勝会をゆーとぴあかつきの休憩室で派手に行ったあと、酔
    いつぶれて勇利はそのまま畳の上で寝てしまった。
     その様子を悲しそうにみる寛子の表情に俺は違和感を感じた。何故、そんな
    に悲しむ?
     同じく酔っぱらってはいたが、正気は保ち、帰り支度をしているミナコが俺
    を呼んだ。
    「ちょっと、ヴィクトル、うちの店まで送ってくれない?」
     普段は自分でさっさと帰っていくミナコが俺に付き添いを頼んだ。俺は軽く
    頷いて彼女の後に続いた。

    「まぁ、1杯、のみな」
     ブランデーの水割りをミナコは手慣れた手つきで作って俺の前に置いた。
    「どうしたんだい?俺に話があるんだろう?」
     ミナコが俺を暗に呼んだのは何か話があるのだろう。誘われた時から何かを
    感じていた。
    「…勇利のこと?」
     自分の分の少し濃い目の水割りを煽りながらダン、とグラスをミナコは置
    き、俺を凝視して言い放つ。
    「あんた、勇利を一生護る気、あんの?」
    「当然だろ、俺は勇利を番にするために長谷津に来たんだから」
     ミナコには告げていた俺の本音。同じコーチ同志、そしてアルファ同志、彼
    女は普通のアルファだが俺の隠しているフェロモンに気が付いた。優性アルフ
    ァのフェロモンを他のアルファに悟られるとは情けないな、と少し思ったけれ
    ど、ミナコの洞察力は俺も認めている所だ。
    「…一杯障害もあるし、金もかなりかかる。それでも気持ちは変わらないん
    だ?」
    「金や障害なんて 勇利と別れる事と比較したら天秤にすら計れないよ?」
     カラン、と氷がグラスにぶつかる音がする。店は今日は閉店中にしてあるよ
    うで人の気配はない。
    「…勇利に黄色い封筒がきちゃってね、あの子、気丈だから言わないけど…」
     記憶にうっすらと蘇る記憶。泣いている寛子マーマと表情を変えない勇利。
    少しの違和感。日本語で会話されているだろう俺には分かり得ない事。
    「ああ、来ていたね それが?」
    「あれ、マッチングテスト結果だよ、強制的なね…本当この国どうかしてる、
    腹立つわ」
     苛々しげにミナコは語り始めた。


    「この国はね、普段平和に見えるけど結構残酷なんだよ。…黄色い封筒はマッ
    チングテスト結果表。
    番の無いオメガは強制的に国からマッチングテストを受けさせられて、一番良
    い結果の出た相手に番わされるのさ。反吐がでるよ、まったく…。あの子は何
    も言わないけど、あの子、あんたが好きだよ。だから見て居られないよ。競技
    が終わるまで、延長されてたけれど、もう年齢的に先延ばしにする事は限界っ
    てスケ連からも言われてたはずだよ。そして黄色の封筒さ。…グランプリファ
    イナル後に、あの子は国から決められた相手に犯されて孕まされる。そして番
    わされる、最低二人は子供を産まされる、それが決まってるんだ。あの子はそ
    んな運命に文句ひとついわないけど…」

     告げられる言葉に俺は声を失った。勇利が他の誰かに犯される?!冗談じゃ
    ない。そんな事は俺は認めない。少し震えた声で、落ち着きを失ったまま俺は
    告げる
    「認めない、何か、方法はないのかい?先に俺が番えば…!」
     ミナコは首を荒々しく左右に振った。
    「この国じゃマッチングテスト結果が全てなんだ、だからヴィクトル、あんた
    を呼んだんだ…一つだけ、可能性がある。あの子がみすみす幸せを逃すなんて
    あたしにゃ見てらんないからね。」
    「なんでもする」
    「金もかかるよ?なにせ、スケートの後押し費用、ゆーとぴあかつきへの支援
    も返還しないといけない。それに、これは可能性であって、完全にマッチング
    テストを覆す事じゃない、それでもやるかい?」
    「Дa」
     俺は即決でミナコの策に食らいついた。

    ◆◆◆

     ヴィクトルが長谷津から去って数日、僕は僕の役目を果たさないといけな
    い。それは分かっているけど心は引き裂かれそうに悲鳴をあげていた。僕はこ
    れから誰かに抱かれる。矢張り、スケートを続けるのは年齢的に難しそうだ。
     ただ、番う事だけは僕の意志で決められる。
     封筒を入れたリュックが重い。簡単な着替えを持ち、あとは全て国からの支
    援でなりたつ施設への移動をしている僕。家への支援の事なら気にしないでい
    いから嫌な人なら帰っておいで、と何度も何度も言い含める母さんの涙が忘れ
    られない。そして、ごめんね、と。
     オメガが発覚した時点でこれは避けられない事だと、僕は小さい頃から教わ
    っていた。それが当たり前のことだ、と教わり、刷り込まれてきた事だけど、
    僕は小さい頃にヴィクトルを意識してしまった。銀色の髪を優雅に揺らして威
    風堂々と舞う姿に僕は心の中に強い衝撃と畏怖を覚えた。
     僕が望んでも、僕だけの意志では何も変える事はできない。伸ばし伸ばしに
    してきたマッチングももう伸ばせない。僕の年齢的に、二人を産むには難しい
    年齢に差し掛かってきたのだから。
     しかし、手を伸ばせばそこにいる、僕を欲してくれる、…番にして欲しいと
    願いをぶつけてきてくれたヴィクトルの意志に応えられない。
    「ヴィクトル、、ごめんね…」
     僕はオメガの施設の扉を開いた。

     僕はこれから数年間、ここで暮らす。もっとも番になれば、その人の下につ
    いてここを出ていく事ができる。だけれど、番を拒否すれば、ここで二人を産
    むまでは自由にはなれない。先に淡々と説明される言葉は僕の脳内をすり抜け
    ていった。何も、聞きたくない。
     宛がわれた部屋はホテルの一室かのように豪華だった。ただ、一人用にして
    は大きすぎるダブルベッドを見る度に溜息がでた。そう、そういう場所なん
    だ、と。
    取り敢えず、持参した銀メダルと、グランプリファイナルでヴィクトルと共に
    キスクラで撮った記念写真を入れたフォトフレームを机に置いた。ポスターま
    では…貼れないかな。
     僕はここで 更にマッチングテストを比較されて僕に一番適合する相手が来
    るのを待つ。反吐がでそうだった。


     数日経って恐れている日が来た。テストの最終結果が出てこれから性行為を
    行う、と。施設の医師に言われるがまま、僕は左程痛み感じない細い針から液
    体が僕の腕に注入されるのを見ていた。
     発情促進剤、これから僕は発情する。医師がいなくなった部屋で僕はベッド
    に腰をかけた。暫くすると兆候が表れてきた。身体全体が熱くなって、考えが
    おぼつかなくなる。ベッドの上で丸まりながら初めて味わう本格的な発情に僕
    は悶えた。身体の奥がアルファを求めている。誰かに疼きを癒してほしい、ヴ
    ィクトル、ヴィクトル、貴方に今すぐ抱いて貰いたい…
     煩悩が僕を支配始めた頃、ギィ、と重い扉が開いた。僕は香り立つ匂いに敏
    感に反応をはじめた。
    僕の中のオメガが、アルファのフェロモンを察知し、ゴプゴプ、と粘液を後孔
    から垂らし始めた。
     だんだんと、僕の精神が薄れていく。吸い込むフェロモンが心地良くて、僕
    は誰でもいいんだろうか、と自分に嫌悪した。それくらい、吸い込んだ匂いは
    僕を高揚させて、離さない。
     丸まったまま顔を紅潮させた顔が入ってきた人物によって優しく撫でられ
    た。
     虚ろな瞳が像を結ぶ。
    「銀…色…、ヴィクト…同じ、、蒼」
    「待たせたね、辛いだろう勇利、迎えに、来たよ」
     『彼』は僕を優しくかき抱いた。

    ◆◆◆
     ゆっくりと目を覚ますと誰かの厚い胸に包まれていた。顔をあげるとヴィク
    トルの長い閉じた銀色の睫毛が見える。首裏、項には彼の刻印が為されてい
    た。
    「え…なんで、ヴィクトル…」
     驚きに身を震わせているとヴィクトルの睫毛が震えて蒼い双眸が現れた。
    「おはよう、勇利」
     僕は何がなんだか、分からなかった。何故ここにヴィクトルが居るの?!
    「え、なんで…帰ったんじゃ、あれ?!なんでさ!!」
     僕はヴィクトルに項を噛まれて居た。番になった、という事だ。鈍い痛みを
    感じる。でもでも…
    「俺は案外諦めが悪いんだよ、マッチングテストを受けさせてもらった。色々
    なコネを使ってね?そりゃもう必死でなりふり構わず。俺は勇利が運命だと感
    じていた。勇利は全く気が付いてくれなかったけどね?」
     少し瞼を閉じて笑うヴィクトルに僕は耳まで顔を朱く染めてかぶりをふっ
    た。
    「でも、どうやって、ええ…う、ぁああっ」
     僕の尻の間から昨夜の名残が腿を伝い、変な声がでてしまった。恥ずかし
    い。

    「…運命同士のマッチングは100%さ、分かるだろ?俺は信じて疑わなかっ
    た。ミナコにマッチングテストの事をよく教えてもらい、掛け合い、テストを
    受けた。国際法上も、運命と番を無碍にはできないからねぇ?あ…、昨日はご
    馳走様、最高だったよ勇利」

    「い、い、言わないで!僕昨日発情させられててーーーあ、あーーーーーもう
    忘れて!!」
     恥ずかしくてヴィクトルの顔を見る事ができない。僕は背を向けて丸まっ
    た。もうこのままアルマジロにでもなってしまいたい…。

    「う、ひゃあ?!」
     項の刻印を暖かい掌が愛おしそうに撫でる。撫でられる度に電流が走って変
    な声が絶えず出てしまう。
    「俺の、しるし」
     ヴィクトルは僕につけた自分の刻印を愛おし気に優しく撫でてから僕を抱き
    しめた。何度も何度もぎゅっと抱きしめられ、僕は温泉に身を委ねるような、
    そんな心地よさを感じていた。

    「ヴィクトル…、きっと一生の失敗だったかもしれないよ、僕なんかを選んで
    …」
    「ないね?断言してもいいよ、俺の一生の番、勇利」
     そのまま暫く僕らは抱きあい、昨夜の名残を残したまま新たに愛を確かめあ
    っていた。
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