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    vicjuli69

    @vicjuli69

    ヴィク勇オメガバ沼から這い上がれない人です。
    普段はあつ森配信やりながら影では支部でコソコソヴィク勇R18オメガバで
    ハピエン話を書きなぐっております。ハピエン厨です。ご注意ください。
    目下の頭痛の種は 表紙絵を塗る事。下書きは好きなんだけど…

    pixiv https://www.pixiv.net/users/21559710

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    vicjuli69

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    氷奏22で配布した 無配本です。
    ヴィク勇 ハピエンは固定として
    なんだかよくわからない異世界ものになってます。
    ユウリの死ネタ(転生するけど)があるので苦手な人は回れ右で。

    #ヴィク勇
    vicCourage
    #異世界
    isekai

    氷神氷奏ストラースチ22 無配本
         百合庵
    この世の中は神という種族と、ヒト、動物、植物が混在していた。
     神と呼ばれる種族、それをヒトは『デウスゲヌス』と呼んだ。デウスゲヌス
    はこの世界で生命トライアングルの頂点に属し、不老不死、そして異形に変化
    できた。
     そしてその神から愛されたものを『テオフィロス』と呼び、神々が戯れに作
    って捨てた異形の人形を『アウフェルテ』と呼んだ。

     神から唯一愛されたテオフィロスは神々の直属に配され、不老不死となりそ
    の特定の神と永遠の愛で結ばれる。デウスゲヌスが心の底から愛する「ヒト」
    の項に牙を立て唾液を傷口に送り込む事により、テオフィロスは産まれる。
     しかしその一方で神々、デウスゲヌスは自分達の眷属を産んだ。項ではな
    く、愛されない、戯れに作った異形の人形。デウスゲヌスがヒトの血を啜るこ
    とにより、彼らは産まれる。彼らはデウスゲヌスを守護する。そして・・・彼ら
    の食料は ヒト であった。戯れに作られたアウフェルテはヒトを食らう。元
    はヒトだが、眷属になった事により、元は同種族だったヒトを食らうのも意に
    介さず、そして、本来の姿は異形だった。
     アウフェルテはふらりとヒトの姿で現れ、異形に変化して人々を食らう。故
    に、人々は神々デウスゲヌスを畏れ、アウフェルテを恐れた。
     デウスゲヌスはヒトは食らわない。何も食べずに永遠の時を彷徨い、そして
    神デウスゲヌスとアウフェルテを葬る事ができるのは同じデウスゲヌスだけで
    あった。

     一人の銀の髪を揺らした青年がとある辺鄙な街に現れた。当然街人はよそ者
    を警戒する。『アウフェルテ』かもしれない・・・素性の知らぬ者を歓迎する街
    はこの世にはないといっていいだろう。警戒心丸出しの街中を青年は進む。
     くたびれた茶色の旅装に緑のマフラーを巻き、黒のズボンを履いている。服
    装は所々破けて煤けていた。
     酒場の扉を開けると、アルコールの匂いと精液の匂いが漂っていた。複数の
    男達が丸裸の幼さを残した少年に群がり、彼を犯していた。酒場にいる誰もそ
    れを咎めようとしないどころか、気分が向いたものはその列に加わった。
     酷い嬌声と甲高い悲鳴が響く中、彼は大きく左右の脚を別々の男に開かさ
    れ、複数の陰茎を飲み込まされた秘部は真っ赤に腫れあがり、ドクドクと朱い
    液体を流していた。
    「・・・あれは・・・」
    絶句している青年に近くにいた酒を食らう男が事もなげに告げる。
    「アイツはオモチャさ。この街では花街や婚前の性行為は死罪になるんでね。
    アイツは身よりが無い。小さい頃から性欲をもてあました男どものオモチャと
    してだけ生きている存在さ。かわりにエサを貰って生きている。男だと妊娠も
    しないから丁度いいのさ・・・驚いている所をみると、旅人かい?珍しいな」
     煤けた銅貨を何枚か店主に渡すと、銀の髪の青年は男の横に腰を降ろした。
    彼に酒を馳走しながらも酒場の中には淫猥な音が響き渡っていた。永遠に続
    く、毎日の性欲処理の人形・・・
    「・・・誰も助けようとしないのかい?酷いな・・・」
    酒を奢られた男はハハハ、と乾いた笑い声を上げながら酒を啜った。
    「保護者の居ない者の、女は誰かの嫁に、男は慰み者というのがこの街では当
    たり前のことさ。アイツは5歳位の頃両親をアウフェルテに食われたのさ。ア
    イツだけが生き残って。普通生き残りなんてありえねえんだがよう?もしかし
    たらアイツもアウフェルテに魅入られたのかもしれない・・・で。アイツもアウ
    フェルテ同様に忌み嫌われている。アイツを助ける奴なんてこの街にはいない
    だろうぜ。それからは酒場で慰み者さ、それしか役にたたねぇからな」
     アウフェルテに両親を殺された子供・・・
     全員を相手にし終わったのか弛緩しきって大の字に打ち捨てられた裸のまま
    の少年はアヌスから大量の白濁と血液を垂れ流して涙にぬれた顔は意識が無い
    人形のようだ。身動きしない姿を性欲を満たした男達は放置し、鑑賞しつつ酒
    をかっくらう。酒場の隅に放置されたまま、彼は人形のようにまた誰かの性欲
    の相手になるのだろう。
     銀の髪の青年は酒場の店主に歩み寄った。
    「あの子は買い取れるのかい?気に入ったのだが・・・」
    みすぼらしい旅装をした青年をジロジロみながら店主が値踏みをするように不
    躾な視線を巡らせてから手をヒラヒラ振りながら無駄無駄、という露骨な表情
    で言った。
    「お前さんにゃとても払えねぇ金額だ。毎日食わせて育てて看板メニューにな
    ってるからな・・・金貨30枚だな」
     無理だろう?という下衆い表情を浮かべた店主を一瞥した後、青年は袋から
    金貨を30枚少しづつ取り出しては乱雑にカウンターテーブルに投げ落とし
    た。金色の光が汚い木のテーブルのキラキラと跳ね落ちる。
    「契約成立だな、貰い受ける」
     呆気にとられている店主を後目に青年はゆっくりと歩みを進めた。
     目が映ろな彼はまた次の相手がきたのかと悲しそうに目を細めた。
    「君の名前は何ていうんだい?」
    名前を聞かれた事などない「人形」の彼は驚いたように目を見開いた。
    「僕は、人形・・・でも前の名前は・・・ユウリ」
    「そうか、俺は ヴィクトル、君を立った今貰い受けた。さぁ一緒に旅に出よ
    う。もうここからはおさらばだ」


     「信じられない・・・!お湯なんて・・・!!」
    布切れだけを身体にまきつけただけのユウリは、宿屋で異臭が漂う姿を拭う為
    に青年に湯場に連れていかれた。
     洗い落される事がいままでなかった、ただ川の水で汚れを取っていた少年
    は、温かいお湯に信じられないように驚き。そして石鹸の泡立つ香にうっとり
    と目を細めて笑った。こんな当然な事が彼にとってはもう数年も当たり前では
    なかったのだ。彼の身体は鬱血や傷だらけで、特に尻は酷い有り様だというの
    に笑顔をみせる。ヴィクトルは何か心をわしづかみにされた想いを感じた。
    「ほら、あの湯の中で暖まっておいで。気持ちがいいよ?」
    「はい!」
     ユウリは自分の置かれた状況に全く動じない。彼の日常を考えると些細な事
    でも幸せなんだろう。ヴィクトルも身体を洗って旅の汚れを落としてから は
    しゃいで湯の中で歩き回る彼を微笑しながら湯につかった。
    「ほら、ちゃんと温まって。この後は君の服だね。布を巻いてちゃ旅もできな
    い」
    ユウリの脚が止まり、バシャっと音をたてて首まで浸かった。
    「僕、またどこかに売られちゃう、のかな・・・」
    少し逆上せた顔がとてもヴィクトルには可愛く見えた。幼いユウリはヴィクト
    ルを見つめながら言った。
    「今度は、余り痛くないところがいいなぁ・・・」
    「君はずっと俺と一緒だよ?ユウリ。いろんな所を見て、いろんな所で楽しむ
    んだ」
    「え?!!」
    驚いたように立ち上がった彼は真っ裸のままヴィクトルに抱き着いてきた。
    「本当?!僕売られないの?!」
    両親を亡くしてから初めて得られた「親切」にユウリは涙を流して泣いてい
    た。うれし涙だ、とユウリはヴィクトルに告げた。
    「それじゃあ、ユウリ、お留守番頼むよ?外には出ないようにね?」
     宿屋の一室でヴィクトルはある用事を済ませる為、こぎれいに整った身なり
    をしたユウリに話しかけた。
    「うん、わかった!いってらっしゃい!ヴィクトル!」
     青年は心から出る笑みを浮かべて扉を閉めた。

     この街の領主の遣いで彼はここにやってきた。粗末な街の中で異彩を放つ綺
    麗な建物の中に彼は名前を告げると招き入れられ部屋で待機させられる。街の
    者とは全く違う、豪華そうな衣装をきた男が部屋にはいってきた。
    「君が、『インテルフィケレ』か?随分と若くみえるが大丈夫なのかね・・
    ・」
     インテルフィケレ、アウフェルテの殺し屋
    「はい。しかし報酬は頂きますよ。この近くでアウフェルテが暴れているとい
    う噂は聞きましたが」
    はぁ、っと大きなため息を吐く領主は豪奢なソファーに背を凭れかけて天を仰
    いだ。
    「何本もの手を持った巨大なアウフェルテが郊外に棲み付いている。それを倒
    してくれるならば」
    「成功報酬は金貨で300枚頂きます」
     金額に少し驚いた表情だが払えないわけがないだろう。この佇まいだ。仕方
    ない、という顔をしながら彼はヴィクトルに了承の首を縦にゆっくり動かし
    た。
     ヴィクトル・ニキフォロフ、彼はインテルフィケレ、アウフェルテを始末し
    て回る旅人であった。その噂は方々に広がり、依頼が舞い込んではその地へ赴
    いてアウフェルテを退治していた。けれど退治の際のアウフェルテの叫びを聞
    くたびに彼の心はヒビが入っていった。彼ら、アウフェルテも元はヒトなの
    だ。好きでヒトを食らうわけではない。
     眼の前の無数のアウフェルテの腕が転がる中、彼は剣をアウフェルテの眉間
    に突き立てた。
    「ごめんね・・・安らかに」
     サラサラ、と砂の様に突き立てられた眉間からアウフェルテは砂化して散ら
    ばっていった。心臓にあたるだろう魂の欠片が宝石となってコトリと地面に落
    ちた。アウフェルテが唯一残す欠片。それはオレンジ色に輝いていた。
     退治の証拠でもあるそれ。かつてはヒトの魂の塊を恭しく拾い上げて大切そ
    うに袋にしまいこんだ。
    「君も好きでアウフェルテになったわけじゃないのにね・・・嫌われるのって、
    辛いね・・・俺も仲間から忌み嫌われているから気持ちは分かるよ・・・」

     ヴィクトル・ニキフォロフは デウスゲヌスの中でも高い地位にある、強さ
    と蒼い光を称えた氷や水を司るデウスゲヌスだった。デウスゲヌスは力こそが
    全て。眷属を持ち、力強くなろうとするデウスゲヌスの中でヴィクトルは異彩
    を放っていた。眷属を忌み嫌い、しかし圧倒的な力を持つデウスゲヌス。彼に
    対峙できるのは2人のみ。火を司るのデウスゲヌスと雷を司るデウスゲヌスだ
    けであった。
     袋にいれた魂の欠片を見ながらヴィクトルは天を仰いだ。真っ蒼な青空が広
    がっていた。
     戯れに作られ捨てられたアウフェルテは知能を持たず、ただヒトを本能のま
    まに食らう。ユウリの両親を食らったのもこのアウフェルテだろう。ヴィクト
    ルは自分を含めたデウスゲヌスを忌み嫌い、そして同族が創って放置しただろ
    うアウフェルテを始末しながら旅を続けていた。
    「・・・帰ろうね、君の居た街へ」
     誰に語るともなく呟いて、見上げた空から遠くに陽炎のように映る街を見据
    え、彼は街への道程に脚を運びはじめた。

    「なんだと、本当に倒したのか?信じられない」
     領主はいかにも訝し気な表情を隠さずに応接間に入って来た男を睨んだ。
     いかにも渋った顔を気にせずにヴィクトルはズボンのポケットから拳大のオ
    レンジ色に輝く宝石を取り出し、大切そうに撫でてから掌にのせ、領主へと差
    し出した。
     ヒトだった命の欠片の成れの果て
    「これは・・・、確かに・・・」
     ずしりと重いその宝石に領主の目の色が変わる。領主はチラリと付き人に目
    くばせをすると付き人は重そうな袋をもって現れた。
    「これは報酬の金貨300枚だ、検めるか?」
    「いえ、貴方を信じます。それでは俺は失礼」
     袋はずしりと重く、それを汚らしい背負いバッグに入れるとヴィクトルは応
    接間から踵をかえした。部屋から出た後、とても聴力の良いヴィクトルの耳に
    入る言葉に眉間に皺を寄せた。
    『これを細かく割って売れば金貨千枚にはなる、素晴らしい宝石だ』
     仮にもヒトだった命の欠片を、いやあの大きさだ。相当の命を食らったのだ
    ろうアウフェルテに食われた人々の魂の欠片の塊、を喜んで売ろうとする、そ
    んなヒトの考えにヴィクトルは瞳を細めた。
    「どちらが、獣なんだろうね」
     小さく呟きながらヴィクトルは ユウリの待つ宿へと向かった。

    「ただい・・・」
    「おかえりなさい!ヴィクトル!」
     小さな艶やかな黒髪の少年が嬉しそうな顔で駆けて来た。ヴィクトルの心が
    跳ねる。とても嬉しそうな小さな笑顔にヴィクトルの冷めていた心が段々と解
    けていくのを感じた。永久凍土と思われた心が少しづつ溶けていく、そんな感
    じに抱き着いて来たユウリの顔をみながらヴィクトルは頬を僅かに朱に染めて
    いた。
    「今日は少しお金が入ったから肉でも食べようか?」
    「に、お肉?!僕、食べたことないよ・・・」
     匂いは嗅いだことがあるらしい肉を想像してユウリの口端から涎がたれてい
    る。
    「ユウリ、涎がたれているよ」
    「えっ、あ、ごめん」
     涎を腕の甲で拭い勇利はにっこりと微笑んだ。
    「ねぇ、ヴィクトルー、次の街はどんな街かなー?」
     旅装の二人が土路を歩いていく。あれから数年経ち、ユウリは歳を重ねて少
    年から艶やかな青年へと姿を変えていた。少し視力が悪いのは少年時代の栄養
    不足か。それ以外はしっかりと発育の良い、少し食べ過ぎるとすぐに贅肉のつ
    く青年はヴィクトルの傍らを歩きながら問いかけて来る。
     数年を生活を同じくしヴィクトルの心は溶け切ってユウリが唯一無二の存在
    に変わっていた。愛しくてかけがいの無い存在。しかしユウリには性を交わせ
    ずにいた。ベッドで腕に抱くだけでビクリと脳内に植え付けられた過去がフラ
    ッシュバックするのかユウリは身体を固くして震える。蛇を眼の前にした小う
    さぎのような姿にそれ以上進めずにいた。それにヴィクトルは己の正体を明か
    せずにもいた。彼に畏怖される事が怖くて仕方が無かった。
    「まったく・・・ユウリは魔性だよ」
    「え、何?」
    「いや、なんでもないよ、もうすぐ次の街につくかな」
     曖昧な返事と別の話で話題を反らし、ヴィクトルは薄く微笑んだ。
    ◇◇◇
    「ねぇ、ヴィクトルー、この街、凄く変だよね」
     街の中は夕方に差し掛かったこの時間とは珍しい位に人の姿がなく、閑散と
    していた。市もなく、酒場にさえ人が居ない。店じまいの早い街をみてきた
    が、このような大きな街でこんなに早く人が家に閉じこもる街に勇利は首を傾
    げて呟いた。
     おそらく余程残虐なアウフェルテが居るのだろう、という事はすぐに理解で
    きた。必要最小限以外は外へ出ない人々を見るとそうであると俺は気づいた。
     宿屋の木戸も締まっており、ドンドンと叩くと漸く薄く扉を開けてくれた。
    開けたヒトの表情はとても強張っていた。
    「あの、1部屋あいてますか?暫く滞在したいのですけど!」
     ユウリが明るく笑顔を見せて問う。アウフェルテ同士は普通は仲良く歩いた
    りしない。二人組の暮らしをはじめてから俺とユウリは割とヒトに受け入れら
    れやすくなっていた。
    「早く入ってくれよ、とりあえず中へ早く」
     扉をヒト一人入れる分だけ開けて貰い素早く宿の中に入り込むと意外とこ綺
    麗な部屋に通された。
    「何泊くらいかね?」
     先程とは表情を緩ませた安堵の顔の宿主が聞いて来た。
    「そうだね、そんなには長くはないとおもうが、とりあえず前金で7日分を支
    払うよ。それと今街へ着いたところで腹を空かせているから肉料理を中心に何
    か見繕って頼む」
     俺は宿主の言う金額より少し多めの銀貨を渡して扉を閉めた。
    「いいの?ヴィクトル、あんまり無駄遣いはー」
     この頃俺の懐具合まで気にするユウリに苦笑が漏れる。もう少年ではなく青
    年だ。相場なども理解しているのだろうユウリは時々このような心配をしてく
    る。
    「たまにはいいじゃないか、こんなに大きな街は久しぶりだろう、今日はフタ
    リで酒宴がしたいんだよ。美味しいぶどう酒があるらしいよ?」
    「えっ、ぶどう酒?!」
     明らかに渋っていた表情が一転ふりゃりと眉が下がる。ユウリは酒好きだ。
    久しぶりのぶどう酒という言葉に先程の言葉はなんだったのか、早く食堂をい
    こう、と急かしてくる。
    「その前に着替えだよ、ユウリ。埃だらけだ」
    「OK、ヴィクトル!」
     その場で下着のみになり、そのまま丁寧に衣類を畳む姿に目の置き場に困
    る。慎まし気に熟れた淡い桃色の突起を晒しながら俺は何も感じないような振
    りを装う。今にもしゃぶりつきたい愛しい青年の裸体を前にしてこれは拷問だ
    な、と俺は瞳を伏せ銀糸の髪をグシャグシャと引っ掻き回した。
    「随分飲んだから、ユウリほら、しっかりして部屋まで歩く」
    「よぱらーないとー?びくとー、きれかーすいとーよぉぉ」
    「もう、何言ってるかわからないよーユウリー」
     完全に正体を失ったユウリを引っ張りあげてどうにか寝台に沈めるとそのま
    ま涎を垂らした侭顔を真っ赤にして眠っている。まったく襲いたくなるくらい
    無防備な姿をみながら焦る必要もない存在はその姿を微笑みながら眺めてい
    た。
    「それで、それは本当にアウフェルテ、なのですか?獣の類ではないのです
    ね?」
     市長の役所の一番上の特別応接室で静かな声が響く。人払いをしている為に
    人の気配の無い部屋に
    二人と一人、会話をしている。
    「アウフェルテに間違いがない。巡らされている塀をも簡単に飛び越える、
    狒々(ひひ)のような姿で尾が三つ、サソリのように毒針を持ち蠢きまわる、とても巨
    大なアウフェルテだ。お前の訪れた町長からの親書で会合をもったが、本当に
    倒せるのか?」
     じろじろと旅で煤けた衣類を見渡しながら瞼を細める相手に俺は瞳を細めて
    口角をあげた。
    「問題ない。ただ報酬はそれ相応にいただくけど。成功報酬で構わないよ」
     明らかに不信感を抱いている相手、いつもそうだ。アウフェルテを狩りなが
    ら旅をする俺達に向けられる瞳はいつも不信感と異端の者を見る目だ。
    「・・・となると、君、いや貴方は・・・デウスゲヌス、という事にな・・・いや、ま
    さかな」
     俺は苦笑する。アウフェルテを倒せるものは伝説ともいわれている少数の邪
    神、デウスゲヌスしかいないのだから。
    「証明が必要かい?」
     表情を変えぬ冷えた笑みを浮かべると、市長は明らかに動揺を見せた。怯え
    を纏いながら言葉を俺は続けた。
    「この街の様子からみて、金貨1000枚、成功報酬。これで如何かな?」
     その金額にも驚いたようだが、市長は頷くより他の選択肢はなかった。
    「・・・頼む。このままでは街が機能しないのだから」
    「了解した。それでそのアウフェルテが良く出没するのはどの時間帯で何処が
    多いのか、色々話をしなければいけないね」
     改めて俺は椅子に座り直し、長い話を聞く事にした。
     時間帯は夜半、エサを求めて夜目がきくフクロウのようにぐるりと350度
    首を回す狒々の頭部の巨大なアウフェルテ、夕方から夜中にかけて襲いまくる
    その化け物は、非常に飢えていた。話によると
    100人以上にものぼる人々が襲われ、喰われたらしい。そして人々は自衛の
    ために引き籠ると、エサが減ったアウフェルテは腹を空かせ、時には昼間にも
    現れるようになった。だんだんと街の機能は麻痺していき、この街は街として
    限界に達しようとしていた。
    「ここは楽だね・・・俺が囮になれば向こうから来るのだから」
     街の広場、噴水の前で佇んで光ひとつない暗闇の中で夜空の星だけが明るく
    光っていた。今日は月も雲に隠れ、一層闇を深くしていく。深淵の中で一人足
    を組んで佇む俺は何かが重く飛び回る音を聞いた。
     おそらく皆この音に毎夜震えているのだろう。まもなく猿の頭をもった異形
    な生き物が闊歩していた。 涎をたらし、巨大な生き物は俺を見つけて嬉々と
    して寄ってくる。
     長く伸びる三本の尾の先についたサソリの毒針のようなもの、それを躱して
    その毒針の付け根を素早く移動して片手で握ると激しく暴れる力が俺を吹っ飛
    ばした。
    「ワァォ・・・凄い力だね、」
     アウフェルテは明らかに酷い畏怖で動けなくなる。広い広場にアウフェルテ
    より一回り大きな鋭い一角を持つ堅い氷の皮膚で覆われた巨大な狼のような獣
    が現れていた。口からは白い息を吐き、それが触れたものはすべてが凍てつい
    ていく。爪は異常に大きく、その全てが毒牙のようなものでできていた。
     背中にはその瞳と同じ色合いの蒼い翼が生えており、音もなく羽ばたいた。
     アウフェルテはデウスゲヌスに歯向かえない。ただそれは己を創り出したデ
    ウスゲヌスだけだが、他のデウスゲヌスにもアウフェルテはそれなりの畏怖で
    動きが鈍くなる。
    『今、楽にしてあげるから・・・』
     それが狒々の姿をした異形が聞いた最期の声だった。背中に回された首と赤
    い瞳が見開かれる。その首に氷の獣が食らいつき、一気に引き裂いた。
     刹那サラサラとその生き物は形を砂に変えて風に救われて消し飛んでいく。
    ゴトン、と巨大な宝石が床に音をたてて落ちた。深紅の宝石を見ながら氷の獣
    はヒトの形をとり、赤ん坊の頭程もある魂の欠片を持ち上げた。
    「こんなに大きくなるまで・・・嫌だっただろうね、安らかにお休み」
     アウフェルテの残す魂の欠片は創り出した者の属性を表し、そしてその大き
    さは食らったヒトの数に比例する。
    「・・・火の属性の・・・デウスゲヌス・・・」
     深紅の宝石を優しく抱かえて俺は市庁舎へと向かった。夜番のものが恐怖に
    顔を引き攣らせながら少しだけ石造りの扉を開けると俺はスパシーバ、と唱え
    て扉を潜った。
    「まさか・・・昨日の今日で始末するとは・・・」
     テーブルに置かれた巨大な深紅の宝石を目の前にし、市長が驚きの声をあげ
    る。その横には大きな金袋がいくつか置かれてあった。
    「もう、あの狒々は現れないよ、安心して暮らすといい。それがその魂の欠片
    の宝石、それは其方に。できれば弔ってもらいたい。亡くなった人たちの魂だ
    からね」
     俺は金袋を粗末な袋にいれるともう用もない、とばかりに席を立ち、出口へ
    と向かった。外にでると雲に隠れていた月が雲をかき消して煌々と煌めいてあ
    たりを照らしていた。
     ゆっくりとした足取りで帰路につく。夜中にもかかわらず、自分が跡にした
    市庁舎から号砲が放たれた。それは安全の合図。恐る恐る窓から顔を出す人々
    を無視して俺はユウリの待つ宿に向かった。
    「おかえり、ヴィクトル、大丈夫?怪我はない?」
    「ああ、平気だよ、ただいまユウリ」
     少年とは違い、ユウリは俺の生業を既にしっている。獣退治、という名目だ
    が薄々真実の俺の生業を知っている様だったが口にはださない。ただ微笑みな
    がらお帰り、と言ってくれる青年をきつく抱いて一つしかない寝台の上でユウ
    リを抱きながら俺は眠りについた。

     それは夜明けになるかなるまいかの青空が白く霞みはじめた時間だった。突
    然に宿の俺の部屋の扉が轟音と共に開け放たれた。長い槍を構えた衛兵、剣を
    構えた衛兵の遥か後ろに市長が下卑た薄笑いを浮かべて立っていた。
    「この者達は獣退治をすると銘うって街々を渡り歩く詐欺を繰り返している。
    それは死に値する。この野卑た者たちめ!」
     俺より先に跳び起きたユウリが衛兵の前に立ちふさがった。
    「僕達は詐欺なんて働いていません!前の町の町長に聞けばわかります!僕達
    が離れてから、アウフェルテはでましたか?!出ていない事は町長が知ってい
    る筈です、問い合わせてください!何の証拠もなく、これは卑怯だと思いませ
    んか」
    「町長にはここに金貨200枚を奪い取られたという手配書がきておるわ」
     衛兵の一人がその書状の紐を解き、ユウリに見せつけた。
    「そんな、何かの間違いです!!僕達は詐欺などやっていない!」
     寝着のままのユウリが手を大の字に広げる。その刹那俺は跳び起きて勇利の
    前に立ちはだかった。
    「これはどういう事かな、市長」
     それに対する返事が返ってくることはなかった。返って来たのはただ短い号

    「捕えろ!」
     衛兵が俺にむかって突進してきた。一人なら姿を変えてと思ったがユウリに
    俺の真実の姿を見せたくないという感情が全ての思考と動きを一瞬鈍らせた。
     ズブ・・・グチャ、っと嫌な音をたてて俺の胸を槍が貫いていた。痛みは若干
    あるが造作もない。俺は死ねないのだから。
    「残念だけどそんな物では俺は・・・」

     告げようとした刹那、勇利の顎が俺の肩に落ちた。彼の口は鮮血で染まって
    いたけれど、俺の身体を力弱く抱いていた。
    「あは・・・ヴィク・・・ありが」
     其の儘力を無くした腕が重力に抗わずに下に垂れた。

     俺の胸を貫通した槍の穂先が勇利をも貫いていた

    「ゆ、ユウリ?!ユウリ?!」
     俺は槍をへし折ってユウリの首筋に噛みついた。間に合って欲しい、間に合
    って・・・死なないでくれ、ユウリ!!
     その間も背中にグサグサと槍が刺さる。しかし全く痛みはなかった。それよ
    りも間に合ってくれ・・・
     俺の愛するテオフィロスに・・・なって一緒に永遠を生きよう、何故早く行動
    を起こさなかったのか!!
     後悔と焦りだけが俺の中で渦巻いていた。
     幾ら血を啜り唾液を流し込んでもユウリが起き上がる事はなかった。既に息
    絶えた身体にはいかなる神の所業も奇跡を起こす事はできなかった。
     笑みのままで固まった勇利をそっと床に置くと俺の怒りが周りに立ち込め
    た。

    『ヒトの方が余程野獣ではないか、この獣たちめ、滅べ』

     氷の獣は怒りをぶつけその本来の姿を現した。
     ユウリの亡骸を咥え、獣の重みで家は崩れ落ち、それと共に朝陽ではなく厚
    い濁った色の雲が周りを覆い、鋭くとがった刃物のような氷が辺り全体に降り
    落ちる。阿鼻叫喚と吹き出す朱色の液体の中、獣は暴れまわり、街の全ての家
    屋を潰しながら悲哀の氷の涙を流しながら駆け抜けた。


     その日、一つの大きな街と近隣にあった町が滅びを迎えた。  


     あれからずっと俺はユウリの魂を探して歩いている。長い時代を経て、アウ
    フェルテは既に滅多に見かけなくなった。俺が殆ど狩り尽くした、と言っても
    いいだろう。
     世界は随分と様変わりしていく。技術の進歩とやらはヒトを闇に浮かぶ月に
    送ることに成功し、ヒトは偶に発見されるアウフェルテをUMAと呼んだ。
     然し、この世界でも『行方不明者』は増えている。恐らく秘密裡に犠牲にな
    ったのかと思われる。
     ヒトの記憶に介入するのはこれで百何回目か、もう数えるのも止めてしまっ
    た。何度も滅び、そして復興を繰り返すヒトの歴史。その中に埋まっているた
    った一つの魂を探し、俺はこの世を渡り歩いている。今度は俺はソビエト連邦
    という国に産まれついた赤子に融合した。
     激動の中、父母と死別し、幼児時代から教えを受けていたヤコフ・フェルツ
    マンという男の家庭に引き取られた。彼は俺を養子ではなく、教え子として家
    に住まわせ、そして彼の業であるフィギュア・スケートを俺に教え込んだ。
     俺にとって氷に囲まれて生きる事は非常に心地良かった。またこの時代でも
    ユウリには会えないのだろう。齢を重ね、諦めが早くなったように思う。
     果たして、ヒトは産まれ変わるのだろうか。ヒトの魂はいつになれば受肉す
    るのだろうか。
    「はは・・・神と呼ばれてもユウリすら見つけられない。 稼業、としていたア
    ウフェルテ始末人としての業を失ってもう気が遠くなるほどの世界を見てき
    た。
     ヒト、に擬態するようになってどれ位経つだろう。 他のデウスゲヌスに会
    う事も無く、彷徨いヒトは時を超える。時にはデウスゲヌスに愛されたテオフ
    ィロスが彼らのメッセージを伝えに来たこともある。 それを全て断り、あえ
    て水と氷の神は闇を選んだ。 何代も重ねるうちに、闇は深くなっていく。
     ヒトという器に居るうちに、彼の闇は漆黒に染まり、既にデウスゲヌスとし
    ての自我も消えつつあった。
     ただ、持つのは執着という暗い心。ユウリに執着して、待ち続けるだけの屍
    とも云えよう。
     他人への興味も薄れ続けていた俺はユウリの遺す痕跡にも反応が薄くなって
    きたのだろうか。
    『このままでは、お前が滅びるぞ』
     存在としては生き続けていても、自我の無いもの。 かつてのアウフェルテ
    のようになってしまうと同じ神からは幾度も告げられた。しかし、彼はそれで
    もいい、と思った。
    『ユウリの居ない世界で、生き続けて何の意味があろうか』


     視線を感じた。背中に突き刺さるようでいて、暖かさを感じるその視線に俺
    の肌は泡立った。
     振り向くと野暮ったいメガネをかけた青年が此方を向いて立って居る。首に
    掛けられた選手証から日本の選手だろうという事は判断できた。
     そして仄かに香るこの・・・匂いは・・・
     どうしても確かめたい欲が湧いて俺は高飛車に彼に向けて言葉を吐いた。そ
    れが彼を傷つけるだろうという事にどうして気付なかったのだろうか。
     俺の心は冷え切ってしまっていたのかもしれない。「・・・記念写真?いい
    よ」
     そう言えば彼は俺に近づいてくる、とそう思った。刹那、彼は酷く傷ついた
    表情を寄せ、振り返って立ち去ってしまった。
    「ジュニアの子かな?ユーリ、何か知ってる?」
     背後でヤコフの説教を受けていたユーリ・プリセツキーは信じられない物を
    見るような瞳と、眉根に皺を刻んで俺を睨みつけた。

    「お前、ファイナルのメンバーも覚えてないのかよ!馬鹿じゃねーの?日本の
    勝生勇利だろ。ったく、信じられねーな」
     心底呆れた表情を見せたユーリがまだ喋っていたが俺の耳には伝わらなかっ
    た。

    『カツキ・・・ユウリ』

     俺は彼が去った方向を見つめ、立ち尽くしていた。

     間違いない、と思った。俺が余りにも不甲斐ないから、ユウリが俺を見つけ
    てくれた、と思った。しかし俺は同じリンクに立ったユウリに気づく事も無く
    ・・・
     バンケットで酔いつぶれた日本のユウリは俺に絡んできてくれた。それがど
    れだけ嬉しかったかわかるかい?まぎれもなく、その香りは俺の探し求めた
    魂が持っていた匂い、だったのだから。
    『コーチになってくれるとやろ?ヴィクトール』
     鼻の孔を膨らませて腰を擦り付けるユウリを今すぐ攫って逃げたいと思っ
    た。その感情を理性で耐えるのがどんなに難題だったか。一瞬にして、俺は
    再びユウリに恋をした。



    『グランプリファイナルに残るユウリだ、きっと世界選手権にでてくるだろ
    う。今回は東京だ、きっと、俺はそこでユウリに告げよう、君を愛している、
    と』

     然し、ユウリは世界選手権に出場してこなかった。 俺は日本のマスコミに
    手を回し、彼の行方を追おうとしたが、本人からまだ表明を受けていない、と
    の事で、彼の今を知ることができなかった。

    「俺も日本にいこうか」
     その頃から俺は彼の住むという日本への移住を念頭に置いた準備を始めた。
    おそらく、あれはユウリだ。漸く、漸くだ。
     そして・・・四カ月を過ぎても彼の消息は知れず、俺はただ自宅でマッカチン
    という名の飼い犬と戯れながら彼の、全く更新されないインスタグラムのアカ
    ウントを眺めて何百ともつかない溜息を吐いた。

     しかし、ユウリはそれから俺に手がかりを残してくれた。

    「ちょっと、見た?ヴィクトル!」
     それはリンクメイトのミラからのSMSだった。
     俺のプログラム、アリアをニホンのユウリが踊っている動画が拡散されてい
    る、と。
    「直ぐにURL送って!」
     それは彼のアカウントではなく、別のアカウントだった。俺の知らない所
    で、俺の『アリア』をこんなに情熱的に踊るユウリに俺はワクワクが止まら
    ず、心臓がはじけ飛ぶ衝撃を受けた。
    「勇利が、俺を呼んでる。行こうね、マッカチン」
     彼の今いるリンクはキュウシュウのハセツという所らしい。少しぽっちゃり
    してしまっているが、それも健康的ではあるが、スケーターとしては有るまじ
    き。
    「子豚ちゃんをどうやって磨き上げようか」
     
     俺はそれから間もなく、ヤコフが止めるのも聞かず、休養を申し出てその
    まま日本へと向かった。

    「日本は暖かいと聞いたけど、随分と雪が降っているね、マッカチン」
     
     俺がキュウシュウ、ハセツに着いた時、一面の銀世界が広がっていた。恐ら
    く俺の所為だろう。これからが楽しみすぎて、力が仄かに漏れ出てしまう。

    「ここか」
     和風な門を潜ると俺はカタコトの日本語を駆使し、受付を済ませた。
    「ユウリ・カツキ、会いたい、私、ヴィクトル・ニキフォロフ これ、マッカ
    チン」
     メガネをかけた面差しがどことなくユウリに似ている男性が声をかけてくれ
    た。
    「勇利ならまだ寝とるばい、温泉でも入って温まってこんね、外は寒かばい」
     言われるが儘、俺は初めて露天風呂というモノに身体を浸した。冷たい身体
    がじわりじわりと暖かくなっていく。
    「タ─────────ン」
     扉が勢いよく開く。そして俺は慌てふためくユウリに向かって告げた。

    「ユウリ~、今日から俺はお前のコーチになる」

     勇利の驚きの声がどんよりと雪の降る灰色の空に
    響き渡った──────────────── 
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