悪酔いニーズヘッグを討伐し、イシュガルドの騒動が落ち着いてから暫く経った。
一人で旅に出た。英雄としてではなく、光の戦士としてでもない「私」の追憶行。その最中。
本当に久しぶりにひとりの時間を過ごしていた。
忘れられた騎士亭、その一室。
誰もいないのを確認し、久しぶりの晩酌をする。
手持ちの酒は切れていたのでボトルを一本購入した。
「英雄サマってのは何かと大変だろう?大丈夫、部屋には誰も入れないし姐さんがここにいる事も伏せておくさ。ごゆっくり。」
そう言って渡されたのは銘柄もよく分からない得体の知れない酒だったが、それで良かった。ここのマスターは信頼出来るので問題はないはずだ。
「寒い夜にはよく効く喉が焼けるほど強いやつだ、飲み過ぎには気を付けろよ」
言われた通り喉が焼けるほど強くクラクラとする強さだ。酔いたかった私には願ったり叶ったりだった。
グラスを傾けぐいと飲み干す。
あまり美味いと言える代物ではなかったが、どんなに高級な酒よりも今の私にはこっちの方が嬉しかった。
ため息をつき、壁に立て掛けてある槍を見つめる。
何もかもが変転し、イシュガルドに転がり込んだのが遠い昔のように思える。
あの時は己の無力さと不甲斐なさに酷く怒りを覚えたものだ。…そして今もその感情と折り合いがつけられていない。むしろ悪化してしまっている気がする。
何も出来なかった無力な自分
策略に嵌る愚かな自分
友に守られ、友を守れなかった自分
仇を取っても晴れない心
結局私は誰かに守られてばかりではないか
私は何の為に戦っているのか
自分のため?仲間のため?世界のため?
私の行き着く果ては
ひかりのせんしとは
わたしとは
嗚呼、これは
「悪酔い、か」
久々に強い酒を入れたのが悪かったか、どうしようもなく思考がまとまらない。
頭を抱えて机に突っ伏す。
「…くそ」
大きくため息をついて勢いよく立ち上がる。
頭がクラクラして、足元がふらつく。
ああ、最悪な酔い方だ
酒も片付けずにそのままベッドに倒れ込む。
意識が遠のくのと同時、目から涙が流れるのを感じた。