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    rui__desu_

    @rui__desu_

    妄想の掃き溜め場/改行無

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    rui__desu_

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    跡取りの🦁と世話係の👟の話
    🦁👟/年齢操作有

    #lucashu

    「今日からお前は坊ちゃんの世話をしろ」
    そう言われて連れて来られた部屋のなかにちょこんと座っていたのは、まだあどけない表情をした小さな男の子だった。ふわふわの髪の毛は太陽に透けてきらりと光り、眩い笑顔をこちらに向けた。
    「ねえ、お名前なんていうの?」
    無邪気にこう問いかけてくるその瞳は輝いていて、酷く庇護欲を掻き立てられる。あまりの輝きにひと呼吸遅れて下の名前を告げれば、元気な自己紹介をかえしてくれた。その子は頑なに、シュウが坊ちゃんと呼ぶのを嫌がった。生まれて直ぐに母親は亡くなり、父親はマフィアの仕事で忙しくしている。ルカにとってシュウは、家族のような存在なのだろう。身寄りをなくして組に引き取られてきたシュウは、ちいさな弟ができたみたいで嬉しくて、それはもう甲斐甲斐しく世話をした。ルカが小学校に行く前の身支度を手伝い、中学から帰るやいなやルカの遊び相手や話し相手になった。シュウは幸せだった。見た目こそ怖いものの組の人はみんな優しくて、そして何よりルカの存在がシュウを更に幸せにしていた。
    シュウが高校に上がって忙しくなっても、ルカの世話の必要などほとんどなくなってもシュウは変わらず世話係であることを望んだ。シュウの幸せはいつもルカのそばにあるから。どんなに忙しくても、ルカのふわふわした髪を横で結ぶのは変わらずシュウの役目だった。世話係になりたての頃、髪の結び方など分からずにぐちゃぐちゃにしてしまいながらも結んだこの結び方が、ルカのお気に入りになっていたから。シュウが自分の髪を結ぶ時間は、ルカが幸せを感じる時間でもあった。

    シュウが志望した大学はあまりにも遠くて、ひとり暮らしをする他なかった。シュウはルカ離れをするために、わざわざ遠い大学を選んだのだ。あまりにも自分が近く居すぎては、ルカの可能性を潰してしまいかねないと思ったから。まさかシュウが思う以上にルカがシュウのことを思っているなんて、シュウは想像すらしていなかった。こうしてシュウはルカの元を離れていった。当たり前だが、今まで欠かさずに続けてきた髪を結ぶことも同時にやらなくなった。シュウはルカへの依存を自覚していた。だからこそ新しい人間関係を築いて忘れようと務めたのだ。それでもルカ以上の存在など見つかるはずもなかった。当たり前だ。だってシュウはルカに救われたのだから。
    長期休暇に入ったからと、シュウは久々に帰ってみることにした。1年近くも会えていなかったルカはもう、シュウの知っていた無邪気でかわいいルカではなくなっていた。使っていた部屋は見知らぬたばこの香りが充満していて、シュウの居場所などどこにもなかった。ルカが嗜むたばこの香り。それはシュウにルカとの決定的な身分差を突きつけてきた。ルカはマフィアの若頭だ、身の程を弁えろ、と。
    長期休暇を終えて再び代わり映えのしない日常を過ごしていた。そこにひとつ、ルカの吸っていたたばこが加わったこと以外は全くもってなんの変化もない日常。シュウは元々たばこは得意でもなんでもないどころか、健康に害をなすからと吸おうとしないタイプだった。だから1週間に1本だけ。その1本を吸う時間だけはルカがそばにいる気がした。それでもシュウにとってこのたばこの香りは、知らないルカの一部分に過ぎない。火が煙となって消えていくように、シュウの心も少しづつ煙となって消えてゆくのを薄々感じているのに無理やり蓋をした。3年間の間、シュウは週に1本、ルカとの思い出に火をつけてたばこを吸った。一緒に公園に行ったこと、雨の日に濡れてみたこと、ルカの小学校で流行っている遊びを覚えて遊んだこと。全て燃やし、煙となってシュウにまとわりついた。
    シュウははじめの年以外、どの長期休みも頑なに帰ろうとはしなかった。


    他に行く宛てなどあるはずもなく、シュウは卒業後にまた元いたところへ戻ることになった。恐る恐る帰ると、用事があるようでルカの姿はなかった。迷いながらもシュウは昔暮らしていた部屋へ足を踏み入れる。そこには、3年前と変わらないたばこの香りが立ち込めていた。不意にシュウはいつものたばこに火をつけて吸った。シュウのはいた煙は部屋の香りと混ざって溶けてゆく。
    用事が済んだのだろうか、ルカが足音を立てながらこちらに向かってくるのが分かる。昔のようなトテトテといった音ではなく、ドンドンというような大人の男の足音。部屋の扉が勢いよく開いた。扉越しに見えたルカの姿は、やっぱりシュウの知らないルカだった。3年前と変わらないたばこを吸っている以外には。自分だけが昔に囚われているのはもう分かりきったことだった。
    ルカのはいたあのタバコの煙が部屋の空気に混ざってシュウを包む。生暖かい煙はそのままシュウの全身に絡まって解けない。ルカの瞳がふとどこか寂しそうな影をたたえた。それでももう、シュウの手はルカに届かない。届いてはならない。出しかけた手を引っ込めたシュウをルカはひとしきり眺めたあと、シュウの知っている屈託のない笑顔でルカは言った。
    「ねえシュウ。俺の髪、結んでよ」
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