フォーチュンドール1章6話幸は授業を受けていた。唯が来るのもただ待つだけでは時間がもったいないからである。というか今後、唯は雫と一緒に学校に向かわせた方がいいのではとも考えているが問題はこのまま雫が転校したりしないかという不安だった。授業はろくに頭に入らず、昨日の件を思い出す。雫のお兄さんはとても怖い顔をしていたからすぐに雫の家に向かっていってもそもそもうまく話せるかどうか、そもそも家の場所を知らないので唯に聞いたほうがよさそうだし、唯はいったいどこほっつき歩いているんだか…。フェルネリシアが幸に話しかける。
「雫ちゃんがチームから抜けることはやっぱり阻止したいけど、そのお兄さんが納得する理由って何かあるかな…?」
ただでさえ、まともに話せそうにもないのにまっとうな理由もなし、今の状態はかなり詰んでいる。はっきり言って勝ち目はない、ここで暴力沙汰になったところで、昨日の誘拐犯集団をやっつけるほどの実力者じゃとても歯が立たないだろう。
悩んでいるときにようやく唯が学校に来たようだ。難しい顔をしているときに唯がその顔を覗き込む。
「幸さ~ん、何難しい顔してるんです~?」
「うーん、いや、雫がチームを抜けたいっていうのよ。」
「えええええ、せっかく幸さんが誘ってくれたのにそんな…。」
「まぁ私も元々乗り気じゃなかったとはいえここまで来たら、みんなで勝ちたいわよね…。」
「え?乗り気じゃなかったんですか?」
「ま、まぁ、そんなことはさておき、どうにか雫を説得してそろそろ戦う練習もしたいところね。」
「それならサッサとしずの家に行って説得しに行こうよ!レッツゴー!」
唯はとさくさと走りだすがそっちは学校の校門ではない。とりあえず、幸は何も考えがまとまらないまま、唯に雫の家の住所を聞き、ともに向かっていく
雫の家に着いてインターホンを鳴らす。やはり出てきたのは雫の兄である澪だった。しかも向こうも予想がついていたらしく、鬼に形相で幸を睨んでいる。
「何の用だ?」
「あ…その…」
「まぁ、どうせ雫の事だろう?話はある程度聞かせてもらった、悪いがチームから抜けるか、戦いに関与させない方法をとってくれ、雫を危険な目に合わせるわけにはいかない。」
「で、でも…。」
「おい!」
「ひぃ!」
澪の威圧的な姿勢に完全に幸は押し負けている。唯も話に加わることにした。
「お兄さん!このチーム戦、成績に関与するし、俺たち頑張るからどうにか!」
「成績にかかわるくらいわかってる、僕も卒業生だからな。でも聞いた話、君たちは雫を守ることはおろかまともに戦えないじゃないか。」
「でも俺たちの絆で乗り越えて見せるから。」
「無理難題、どこからそんな勇気が湧いてくるんだ。僕が1歳年下なら雫をチームに入れただろうけど、君たちではとても信用ならないね。過去を見なくてもそれくらいわかる。」
「今年だけでもどうにか…お願いします!」
「お願いします…。」
もはや返す言葉が出てこない、自分たちの実力じゃ何を言っても無駄みたいだ。そう思ったとき、バッグの中からカーマインが思い切り飛び出し、澪の頭を蹴る。
「わっ…ごめんなs…」
「ごちゃごちゃうるせーでございますわ~!」
「いってぇ!何口調だ!」
「あなたの勝手な過保護にイライラしますこと。それは雫が求めている事なのかしら?あなたねぇ、家族を大切にするのはいいですがわたくしが雫の立場ならもっと暴れまわりたいですわ~。」
「あ、君は雫じゃないだろう?わかったような口ぶりすんじゃない。」
「そっくりそのままお返ししますわ。妹に何か起きないようにと束縛していたら妹は何もできません事、そのまま成長していけば恥ずかしい大人になりますわ。」
「人形ごときが何を…。」
「成長を見守ることも保護者の責任だと思いますこと、それがあなたに足りてないというのですよ!まだ反論があるようなら今度は金槌で殴りますわよ~。」
カーマインの言葉に反論しない澪、苦虫を嚙み潰したような顔でカーマインを睨んでいるが攻撃はしない、いや、人形に対しての戦術を持ち合わせていないのだ。
そうこう話しているうちに家の奥から雫が顔をのぞかせる。唯は雫に手を振り。雫もそれに応える。幸は雫に問いかけた。
「雫はチームから抜けたい?それとも私たちと一緒に戦いたい?」
雫は澪と幸の顔色を伺う。ここで答えを出したら何を言われるのか、瞳が震えていた。しかし、答えを出すまでみんな待っていた…。とても空気感も怖いがここで逃げるということをすればみんなに見捨てられてしまうかもしれない恐怖感もあり、勇気を振り絞って言葉を吐いた。
「みんなともっと仲良くしたいから、みんなと同じ時間を共有したい。お兄ちゃんと一緒にいてもお兄ちゃんが恥ずかしくないような立派な人になりたい。」
「別に僕は恥ずかしくは…。」
「やったー!しず、よくがんばったね!」
「これが雫の答えですわよ!認めることねお兄さん。」
カーマインのお陰もあり、雫はチームを抜けることなく、事なきを得た。
学校行事に本格的に参加するようになった3人は毎日学校に通い、負け続いているものの相手の戦い方も見ながら、人形たちの戦い方や自分たちの戦い方の研究をしていた。
そんななかでも、息抜きもたまにはいいものだ。
「あ、幸さん!夏祭り行きません?」
「この辺の地域でもお祭りごとがあるの?」
「あ、幸さん今年引っ越してきたんですもんね、案内しますよ~?」
「方向音痴のあなたに案内できるの?」
「あの…じゃあ私もいきますね…。」
「夏祭りか…どんな服装していこうかしら?」
季節は夏の後半、学校行事も折り返しに来たところだろう。
果たして、3人はどこまで成績のために順位を伸ばすことができるのか。
ここは作業部屋の片隅、その残骸はわずかながらに動いていた。
「サキ…サキ…ドコ…」
力の弱いその声に応えるのは小さな足音、その暗闇の中で紫色の目が光る。
「あら、まだ魂は抜けていなかったのね。随分しぶといこと、でもそんな体で動けるのかしら?」
「アリ…サ…ドウシテ…」
「幸が新しく作った人形達の力を使えばあなたを修繕することもできるかもしれないわね?それともあなたなら自分で修繕するかしら?」
「ドウ…ニカ…」
「やれるだけやるような感じね?でも…直したところでそれは本当にあなたなのかしら?テセウスの船のようね。あなたは完全に壊れてしまっているというのにそこから新しいパーツを使ってまた新しく生まれ変わるというのも。でもそれは本当に“サリア”なのかしらねぇ?」
不敵な笑みを浮かべ、アリサは作業場所の整頓に向かう、ただの暇つぶしだ。なぜマジックバッグの中にいないのか、それは幸が出したからである。ほかの人形達と仲良くさせるため、そしてずっと封印していたことを哀れんでのことである。アリサも少しずつ自分の居場所になればいいと願うのであった。
つづく???