シスイのワーム討伐ここは小さな宿屋を経営するシェアハウスも兼ねた建物。
関係者以外立ち入り禁止のシェアハウス部分の一部屋、会議室には二人の影があった。
「今日も今日とてキョウ兄さんはキョーヒーを飲んで興味のあるところを…」
「キョーヒーはさすがに無理があるだろ…」
水色のウェーブのかかった短めの髪にモノクルをつけていることが特徴の女性セツは、おやじギャグが好きなので今日も言ってはその場を凍り付かせている。
また、キョウ兄さんと呼ばれた青い髪に黒いコートの2色の伊達眼鏡をつけた男性はこのシェアハウスに住む帝の一族のまとめ役であり、リアスの街やその近郊に変化がないか周辺を探っていたところである。
いくつかあるモニター画面にはどこから撮影されているのか、町全体を大まかに見れる画面や、森、丘、浜辺などの景色が一望できる、その中でキョウが気になっていたのは森と丘の間に大きなくぼみができていることだ。ある程度くぼみを拡大すると、何かがうごめいていることがわかる、おそらくグランドワームが巣を作っているのだろう。キョウは目の前にいるセツに現地調査を頼もうとしたとき、会議室のドアが開いた。
そこにはクリーム色の髪首元で二つ結びにした軍服を模した衣装の女性であるシスイの姿があり、機嫌がいいようで、何かやることはないかとキョウに話しかけに来たようだった。
「キョウ兄さん!今暇なんだけどさ、何かやることある?」
「ちょうどいい所に、町はずれの森と丘の間のあたりにグランドワームの巣ができてるようで調査してほしいと思っていたところだ。」
「どれどれ…、なるほど!このままだと森が砂漠化しちゃうし、ぶっ放して水流し込めばいいんだね!」
モニター画面を覗き込みながらシスイが場所の状態を確認すると、いつも通りの口癖「僕一人で十分だ」といい、同伴しようとしたセツにもここは任せてほしいと言わんばかりに、同伴を拒否し、1人で準備を進めてシェアハウスを後にした。
会議室に残されたセツは心配してるか否かわからない親父ギャグ交じりの一言をキョウに言う。
「いや~、蝶のように超舞い上がる調子ノリノリ味付け海苔むしゃぁ~なシスイは何かに引っかかって転ばないといいんだけどねぇ~」
キョウは無責任に大丈夫だろと言い、手元のコーヒーを口に運ぶが、セツの冷めきった親父ギャグのせいかかなり冷たい…
思わず体を震わせ、「冷たっ」と反射的に声が出た。
「あ、コーヒーがこう、ひ~んやりと…」
なおも親父ギャグを続けるセツをキョウは冷たい目線で睨みつけた。
それから、数十分が経過し、シスイは森を抜け、丘のある方向へ歩みを進める、一面に草原が広がっているが、ある程度歩くと、足元の草は徐々に減っていき土がむき出しになっている。今いる場所から少し奥を見てみるとクレーターのようにくぼみができているところがあり、近くまで行くと蟻地獄のようになっている中に小さなグランドワームがうじゃうじゃと蠢いていた。
シスイは、気持ち悪いしさっさと終わらせてしまおうとくぼみに落ちないギリギリに立ち、魔法陣を出す、その魔法陣から大きなガトリング砲を召喚し、くぼみの中をまんべんなく撃ち続ける。勢いで同じ場所を何回も何回も撃ちが手持ちの弾が切れたところで撃ち残しがないかどうか、くぼみの中に足を踏み入れる。
パッと見て動いているような気配はないが数歩歩いたところで、シスイは小さなグランドワームの死体を踏んだことで足を滑らせ、一気にくぼみの真ん中あたりまで落ちてしまった。
軽い痛みと、土で服が汚れたところを手で落とすことに気を取られているとシスイのいる周りは一気に暗くなる。シスイが上を見ると土から巨大なグランドワーム現れており、太陽を隠している、逆光でその姿は黒く見え、その大きな口が開いたことに気づかなかったシスイはグランドワームの口から大量に出てきたよだれのような体液を全身に浴びることになった。
今の状況に気づいたシスイは、「ひっ」と弱い声をあげ、迫りくるグランドワームの口から咄嗟に逃げるが、その際に体勢を崩し、さらに体液がまとわりつきうまく身動きが取れない状態になる。水属性魔法でどうにかしようと思ったが、困ったことに魔法がうまく出せない状態になっていて、再びグランドワームの大きな口がシスイを食らおうとしたその時だった、何かの小さな影がグランドワームを捕らえ、グランドワームは大きくのけぞり、大きな口はシスイのほうではなく、空のほうに向いていた。
何が起きたのか、シスイはグランドワームのほうを見ると先程の逆光の状態よりもずっと空がまぶしい…いや、これは空のまぶしさではない…光属性魔法だ。そう気づいた瞬間、シスイの体は何かに引っ張られる。シスイをつかんだその手はとても暖かかった。
時を戻して、シスイが森を抜けたころ、会議室にはいつの間にかセツの姿はなく、キョウが一通り仕事を終えて休んでいたところに、また一人会議室に足を運ぶ姿があった。
「シスイの姿を見ないのだが、どこかに出かけたのか」
「彼女ならとある調査に向かわせたぞ、そろそろ現地についている頃だろう」
「何か言ってたか?」
「一人で十分だって、とある魔物の巣があったから調査に行ってもらっただけだが?」
顎に手を当て、不安そうな顔をする黒髪で小柄な男性ピュロマーネはシスイの事を心配していた。シスイがいつもの口癖をするときはだいたい大丈夫じゃないことは分かっているし、なにより魔物だ、どんな魔物か気になるのだ。季節は春先、魔物の種類によっては繁殖期にもなる、小さな子供が多いといえど油断はできないし、何より親玉が出てきたら子を守るために気が気じゃないだろう。魔物の詳しい情報を聞き出そうとした瞬間、いつの間にか会議室の中にはもう一人の人影があった。この中では一番背丈が高いのに気配を消すのはかなり得意な彼がそこにいたのだ。
「おやおや、グランドワームか」
「グランドワームだって!?おいおい、予想通りじゃないか!今が繁殖期の魔物だ!シスイ一人には危険すぎる!」
「そうだねぇ~、助けに行く?行ったら彼女に文句言われるだろうけど。」
「当然行く。お前もついてこい。」
「仕方ないね~、まぁ奴らの体液は研究の余地はあると思うよ?」
ピュロマーネと話す黄色い結い髪に糸目で長身のその男イデンはキョウに何かを訴えかけるように話した。キョウは2人に仲間割れだけはしないようと一言の残し、2人をシスイのもとに向かわせた。
そして今に至る。
シスイはくぼみから引っ張り上げられ、くぼみの方向を振り向く、巨大なグランドワームはぐったり倒れていて、シスイの後ろには男性2人がいた。助けてもらったお礼とは裏腹にシスイは二人が何となく想像ついていた一言を口にする。
「なんで助けに来たんだよぉ!」
それに対してピュロマーネは怒声をあげシスイを叱った。イデンは汚れたシスイの服を見て言う
「その体液は魔力を抑制するんだ、魔力を使えなくして相手を食う、それがグランドワームの特性。にしてもここまで派手にやられてるとは…」
随分詳しいなと思いながら、水魔法で体を洗い流そうにも上手く魔法が使えず、苛立つシスイにとどめを刺すようにイデンは話をする
「さっさと帰ろうか、シスイは動けそうか?動けそうになかったらおんぶでもしてもらえ、あぁ、殿はしないからね?そんな汚れた服触りたくないから。」
苛立ちが最高潮なシスイは顔面を真っ赤にして体を動かそうとするがうまく動かない。それを見てピュロマーネがシスイをおんぶする。シスイは悔しそうな顔をするが、次第に怒りは収まり、ピュロマーネの暖かい背中に身をゆだね、目を閉じていたのだった。