「私」という存在三宅葵依は一人悩んでいた。しかし、その事は本人以外知らない・・・。
「あ、あの後ろ姿、葵依だ。おはよ・・・っ!?」
「誰かと思えば椿じゃないか。おはよう・・・」
「な、何かあったの?顔色が良くないけれど」
「大丈夫、気にしないで。昨日は眠れなくって・・・ふぁぁ・・・っ」
(葵依、何かおかしい。いつもは寝れなかったくらいで顔色は悪くならないし、こんなにぐったりしてない。絶対何かあったわね。こうなったら・・・)
その日の昼。椿はとある人物を呼び出した。
「あ・・・来た」
椿が呼び出した人物は、渚と緋彩。
「おっす椿ー。」
「あら?葵依くんは?」
「今日は一緒じゃないのか?」
「いや・・・今日呼び出したのは葵依の件で・・・」
「??」
「・・・なるほどなぁー」
「葵依くん、相当無理してたのかもね」
「いつもはそんな事無いのに、突然あんな感じだから心配で・・・。私が出来る限りの事は何かしてあげたいんだけど・・・」
「椿ちゃん、私達も力になるわよ。ね、渚ちゃん?」
「当たり前だろ?」
「2人ともありがとう・・・」
「で、何するつもりなんだ?」
「私に考えがあるの。椿ちゃん、渚ちゃん、ちょっと耳を貸してちょうだい。ごにょごにょごにょ・・・」
「・・・なぁ、ちょっと強引じゃあないかこの作戦」
「でも、葵依の為よ。やりましょう」
「ったく、しょーがねーな」
その日の講義終了後、葵依の家。葵依は一人で考えていた。
(何だろう・・・燐舞曲でDJをするようになってからの私は、何かちょっと違う気がするのは・・・。いやいや、きっと気のせいだ。そんなに変わっている訳・・・)
その時。インターホンが鳴った。
「!?って椿、そして渚と緋彩・・・?」
「みんな、いきなりな・・・」
「葵依、お邪魔するわよ」
「うぃーっす」
「お邪魔します」
「だから、急にみんなどうしたの!?」
「え、泊めて欲しいって、別に構わないけど突然過ぎやしないかい?というかそもそも何でうちに・・・」
「ほんと悪いわね・・・。ちょっと燐舞曲のみんなで話したい事とかがあってね」
「まぁたまにはそういうのも悪くない、かな」
(というか、椿達は何でこんないきなり・・・?まぁそのうち分かるか)
(何も聞けないまま、夕飯を食べ終えてしまった)
「やっぱ緋彩の手料理はうめぇな!」
「ふふっ、お粗末様でした♪」
「なーなー、デザートは?」
(いつもの光景が目の前に広がって・・・でも、こんな事をするようになったのっていつ頃からの話だっけ?燐舞曲を結成してからなのは分かる。でも、もしも燐舞曲を結成していなかったらこんな事にはなってない訳で・・・というか、高校時代と同じように誰とも組まずに今も一人でやっていたら私は一体どうなっていたんだろう・・・あ、あぁっ、考えれば考える程だんだん頭がおかしく・・・)
「・・・っ!!」
「葵依くん?何かさっきからおかしいわよ?」
「ごめん、私はデザートいいや。3人で私の分も食べて。お風呂入ってくる・・・」
(葵依、本当にどうしたのかしら・・・)
浴室。浴槽に浸かる葵依は考えていた。
(・・・私って何なんだろう。元々私は一人で、誰とも組まないつもりでDJをしてた。けど、いつの間にか自分はユニットを組んでいた訳で・・・。決して楽しくないとか、そういう訳じゃない。むしろ楽しい。だけど何か、燐舞曲としての活動を始めてから周りに勝手にイメージやキャラを押し付けられてる気がする・・・。いつの間にか男っぽい感じの扱いを受けてるし・・・。でもそれが嫌なのか、そうでないのかは分からない・・・)
その頃、椿達は・・・
「・・・やっぱり、何かおかしいな。今日の葵依」
「どうしちゃったのかしら・・・」
「でしょう?今朝も明らかにおかしかったし。来週はライブも控えてるし、心配なのよね」
「なぁ緋彩、この間何か葵依にまたコスプレさせるとか何とか言ってなかったか?」
「渚、急に何よ?今それは関係ないでしょう」
「いや、あえてこのような状況でいつもするような話題を出すのもアリかもしれないわ。自然と元に戻る可能性も」
「・・・やるしか無いようね」
数分後、葵依が3人の居る部屋に戻ってきた。
「ごめん。みんなより先に入ったりとかして・・・」
「葵依くん、突然なんだけど今度またコスプレしてもらう事とかお願いできるかしら?」
「あはは、今回は何?」
「こんな感じのなんだけど・・・」
(また男装系の衣装か。悪くはない。けど私に着こなせるかな・・・って、ふと思ったけど私っていつも男装系の衣装しか着てない??私服も、衣装も、コスプレもいつもこんな感じで。女の子っぽい服なんていつから着てないだろうか。大学生になってからキッパリ、かもしれない。けど、たまには柄じゃないけど女の子っぽい服も着たい。・・・あぁ、そういうの気にした事無かったけど、そう思えば思うほど何か男扱いがだんだん嫌に・・・)
「・・・葵依くん?」
「・・・ごめん。今回は断る」
「あら、お気に召さなかった?」
「違う。いつもみんな私を男みたいな扱いするし男みたいな目で見る・・・。いい?私だって一応女だし・・・たまには柄じゃないかもしれないけど女の子っぽい服も着たいんだ・・・あぁっ、もう耐えられない!3人共今日はごめんだけど帰って。一人にさせて・・・」
「葵依・・・」
「葵依くん・・・悪かったわね」
帰り道。3人は話していた。
「・・・結局、逆効果だったな」
「葵依・・・色々な意味で酷い事になってる」
「あれはかなり精神的にきてるわね。いつ悪化してもおかしくないわ」
「私、もう一度葵依の所に行く」
「椿?でも葵依は・・・」
「分かってる。けど、もう一度葵依と話がしたい。だって、葵依が居なかったら私達燐舞曲は無くて、今頃こんな事になってない訳だし・・・」
「・・・椿。分かった、アタシ達の思いは託したぞ」
「後は頼むわ」
「うん、絶対成功させるから」
葵依の部屋。葵依は涙を流していた。
(うぅっ・・・さっきは言い過ぎた・・・私の面目は丸潰れだ・・・もう、何もかも嫌になってしまいそう・・・どうしていいのか分からない・・・)
(葵依・・・さっきは辛そうに訴えている感じがした。葵依はずっと、我慢してまで私達に合わせてて、自分で自分を苦しめていたのかもしれない・・・。大丈夫かな。でも、インターホンを押しても出てくれないのは知ってる。一人にさせてって言ってたから。でも、放ってなんかおけない・・・!)
椿はインターホンを押した。
インターホンを押して少し後。鍵が開いた。
「!葵依・・・!ありがとう、開けてくれて」
「椿・・・たす・・・助けて・・・っ」
葵依は泣きながら必死にそう言い放った。
「葵依?どうしたの??」
「じ、実は・・・」
「どうしたの?話せる限り、話してちょうだい」
「椿達、私の事を気にかけてうちに来てくれたのに追い出したりなんかしてごめんなさい。私が今朝からあんな感じだったのは、考え事をしていたからで・・・。最近、私は何なんだろうとか、勝手にキャラとか押し付けられてる気がするとか、自分を攻めるような事ばかり考えてしまって・・・。一人になるとそういう事ばかり頭に浮かんで・・・。一人で居たくない。けど誰かに何かを言われるのも怖くて誰かと居るのも怖い。だから、どうしていいか自分でも分からなくて・・・」
「葵依・・・。話してくれてありがとう。そんなに苦しんでいたのね・・・。でも、私は葵依の事、嫌いじゃないわ。だって、燐舞曲を結成するきっかけは殆ど葵依だし。というか、今の私は葵依や渚、緋彩が居なければ居なかったかもしれないのよ?だから・・・」
椿は葵依の頭を優しく撫でた。
「う、うぅ・・・」
葵依は少し頬を赤くしてこう返した。
「ありがとう、椿。椿に話したら少しは気楽になった、かな。ねぇ、椿」
「何?葵依」
「また何か壁にぶつかったりなんかしたら、また相談に乗ってくれる、かな?」
「えぇ。もちろん」
「ふふっ、ありがとう。頼りになるよ。」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。今日はもう遅いし、私は帰って寝・・・」
「あっ・・・椿。お願いが」
「え、まだあるの?何?」
「今日はこのまま返したくない。椿が良かったらだけど、今夜は一緒に寝てくれないかな?また一人になったら暗い事ばかり考えてしまわないか心配で」
「・・・いいわよ。もう、葵依に寂しい思いはさせないから」