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    オルト

    どうしようもないものを投下

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    オルト

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    昔馴染み設定を何とかしたいタイカケ

    ある年の夏、僕は青森に来ていた。お仕事で忙しいお父様とお母様の代わりに、「先生」が旅行に連れて来てくれた。一週間の予定だったけど、青森に来て三日目、先生は風邪をひいてしまい、僕は一人でお宿の近くをお散歩していた。ホントは一人で出歩いたらダメだから、こっそり。
     そこで僕は、一人の男の子と出会った。

    「きゃあ!」
    「な! すっげーだろ!」
     そう言って笑うのは、名前も知らない男の子。道に落ちていた大きな石を拾い上げて、楽しそうに笑っている。彼が持ち上げた石の下からは、図鑑でしか見たことのない虫が、わらわらと姿を現した。
    「これ、つつくと丸くなんだぜ!」
     彼はひと際大きいダンゴムシをつついて見せる。こ、こんなのを素手で触るなんて。僕は一歩引いて彼を見る。すると彼は右手にダンゴムシ、左手にミミズを掴んで僕の方に差し出した。
    「ひぃっ!」
    「なんだよ、虫こえーの?」
    「怖いって言うか……ホンモノ初めて見た」
    「え! 嘘だろ!」
     彼は凄く驚いて、両手の虫をぽとりと落とした。虫たちは慌てて逃げていく。
    「なんで? トーキョーには虫もいねぇのか?」
    「い、いないことはないと思うけど……」
     実際にこういった虫を見たことは、殆どない。もしかしたら、どこかの公園の石を持ち上げたらいるのかも知れないけど……。
    「僕、あんまり公園とか行かないし」
    「じゃあ、何して遊んでんだ?」
    「おうちで……ご本読んだり?」
     基本的に家庭教師の先生が来て、僕にお勉強を教えてくれている以外は、本を読んだりして過ごしている。時々こっそりお父様の持っているビデオを見たりするけど……。
    「え~、遊んでねぇじゃん!」
    「そう、なのかなぁ?」
     好きなご本を読むのは、僕にとっては遊びの時間だけど……。
    「俺が、遊び方教えてやるよ!」
     そう言うと彼は、僕の手を掴んで駆け出した。引っ張られて僕も走る。ぐんぐん、大自然の中を進む。凄い。僕もこんなに走れたんだ!
     それから、川で遊んだり野山を駆け回って遊んだ。木登りも挑戦してみたけど、全然登れなかった。高いところまで登って、僕を見下ろして手を振る彼。凄い。軽々と飛び降りて僕の目の前に着地した彼は、ホントのヒーローみたいだった。
     それから最後の日まで、いっぱい一緒に遊んだ。いろんなことを教えてもらった。僕は、彼の持っている絵本の漢字にふりがなをふってあげた。
     僕が東京に帰る日、彼は泣きそうな顔でお見送りしてくれた。僕も、お別れが悲しくて泣きそうだった。また、絶対会おうね、なんて約束したけど、それから彼に会えることはなく……。

    「っていうのが、今考えるとおれっちの初恋かにゃぁ」
    「わぁ! 素敵ですぅ!」
     レオが目を輝かせて声を上げた。どうやら二人は「初恋」について話しているらしい。俺は途中からだがその話をこっそり聞いていた。だって、カズオの初恋だぞ? 盗み聞きなんて卑怯だけど、聞かないわけにいかねぇだろ。
     まさか青森にカズオの初恋を奪ったやつがいるなんて。
     なんだか悔しくて仕方なくて、俺は部屋に戻ると頭から布団を被った。目を閉じて、幼いカズオの姿を想像する。
     チャラチャラした子供だったんだろうか? 小さい頃から目が悪かったんだろうか?
     そう言えば、カズオの小さいころを俺は全然知らない。後で写真を見せてくれって頼んでみようかな……。
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