「どれにしようかなぁ~?」
カケルが机いっぱいに入浴剤を並べ、目をキラキラさせている。今日、ファンに差し入れでもらった入浴剤だ。
カケルがSNSで「最近入浴剤にハマってる」「みんなのオススメ教えて欲しい」と書いたのは、つい一昨日の事。そして、それを見たファンにより沢山の入浴剤が入れられたのだ。
「すげぇ量だな」
「うん! 温泉地のイメージ入浴剤から、お肌すべすべ系、しっとり系、発汗系って、色々あるよ!」
嬉しそうなカケルの笑顔が眩しい。
「温泉、かぁ」
ありがたいことに、最近忙しくてなかなかゆっくりできていない。次にまとまった休みが取れたら、カケルと温泉旅行に行くのも悪くない。でも、俺たちの稼ぎじゃまだまだ豪華な露天風呂付客室とかは、無理だよなぁ……。カケルは実家は金持ちだし、昔はよく豪華なホテルに泊まってたんだろうな。
スイートに泊まっているカケルの姿を想像してみる。似合う。似合いすぎる。俺はと言えば、どう考えても場違いだ。
「タイガくん、難しい顔してどうしたの?」
「いや、おめぇといつか、豪華な温泉旅館に泊まれたらいいなって……」
「いいねぇ! お休み取れたら、旅行したい!」
「でも、おめぇが昔行ってたような豪華なのは無理だぞ? 今の給料じゃまだ、せいぜいこの間のロケで止まったビジホ程度の……」
言ってて悲しくなってきた。
そんな旅行で、カケルは満足してくれるだろうか? 俺と二人きりで、そこそこの宿の旅行……。
「タイガくんと一緒なら、このアパートのバランス釜のお風呂もファンの子からの入浴剤一つで、極上スイートのお風呂だよ。だから旅行先だって、どんな場所でもタイガくんとなら最高なんだから!」
心からそう思っているのが伝わってくる笑顔で、カケルは言った。そんなこと言われたら、俺も本気でそう思えてくる。
俺たち二人なら、どんな場所でも最高の場所だ。
「よし。休み取れたらどこ行くか考えながら、一緒に風呂入るか!」
「うん! ちょっと狭いけど、一緒に入ろう!」