『カケル、今どこ?』
「え~? んとね~、駅!」
『どこの?』
「……どこかな?」
『あぁ?』
電話の向こうのタイガくんは、その後も続けて何か言っているけど、フワフワした頭には入って来ない。
『迎えに行くから、そこ動くな』
「ん? うん」
返事をすると、ぷつりと電話が切れた。迎えに来る? いったいどういう事だろう? お迎えに行くのは僕だよ? タイガくんの幼稚園まで。だから、タイガくんが僕を迎えに来るのは変な話だ。一人で小さいタイガくんが表を歩くのは危ない。
あれ? タイガくんって、そんなに小さかったっけ? それに、幼稚園……って。ん?
なんだか違和感がある。あ、そうだ。タイガくんはもうとっくに幼稚園は卒園している。小学校も、中学も、高校も……。
あれれ? なんで僕、今タイガくんを幼稚園までお迎えに行かなきゃって思っていたんだろう。
顔を上げると、さっきまでわからなかった駅名が読み取れた。なんだ、最寄り駅じゃないか。もう疲れたし、なんだか頭はフワフワするし、早く帰ろう。あ、でもタイガくんが動くなって……。
「カケル!」
突然名前を呼ばれて顔を上げると、大きなタイガくんがいた。
「あれぇ? タイガくん、急に大人になったねぇ」
「はぁ? なに言ってんだおめぇ」
「今ね~、タイガくんを幼稚園までお迎え行かなきゃって思ってたんだけど、タイガくんは~えっとぉ、高校は卒業してぇ……」
「相当酔ってんな、どんだけ飲んだんだよ」
「あ~、そうだ、僕お酒飲んだんだぁ~!」
「……はぁ」
タイガくんは大きく息を吐いた。よく見ると額には汗が滲んでいて、肩で呼吸をしている。
「もしかして、タイガくんおうちから走ってきたの?」
「あぁ。なんかカケルの様子変だったから、迎えに来た。ほら、帰るぞ」
タイガくんはそう言うと、僕を支えるように背中に手を回した。僕に合わせて、タイガくんhあゆっくり歩き出す。
「カケル、酒そんなに強くないんだから、飲みすぎるなよ」
「うん、ごめえんねぇ」
「まぁ、ちゃんと俺の言った通り動かず待ってたからいいよ。これからは、俺がカケルを迎えに行くから」
「……えへへ、昔と逆だねぇ」
なんだか嬉しくなって、僕は笑い出した。タイガくんは呆れた顔をしていたけど、どこか優しい目をしている。
あぁ、そうだ、この目。思い出した。タイガくんはあっという間に大人になって、子供の頃に約束した通り僕の恋人になったんだ。
「ふふふ」
「何笑ってんだよ?」
「なんでもなぁい」
そうだそうだ。タイガくんは今僕の恋人なんだ! 幼稚園にお迎えに行ったときに嬉しそうにしていたタイガくんも可愛かったけど、今こうして僕の隣にいる大河くんはカッコよくてとっても素敵だ。
「ふへへぇ」
「……変な奴」
タイガくんもそう言うとクスリと笑った。
子供の頃、手を繋いで歩いた道を今日もこうして寄り添って歩く。きっとこの先もずぅっとこうしているんだろうな。あぁ、僕って幸せ者だ。