「んっ、んっ……!」
「わ、タイガくん、何してるの?」
いつものようにお蕎麦屋さんでお蕎麦を食べていたら、女将さんに「タイガが寄っていけと言ってるから」と自宅スペースに招き入れられた。タイガくんといつも遊んでいる居間に向かうと、そこではタイガくんが腕立て伏せをしていた。
「カケル……!」
しんどそうな表情をしていたタイガくんは、僕に気付くとパッを笑顔になった。腕立て伏せをする手を止め、身体を起こすと僕に駆け寄ってきた。
「わ!」
「カケル、俺、筋肉ついたかな?!」
顔の目の前にずいっと腕を出された。タイガくんの腕は、まだまだ子供の腕だ。筋肉がついているどころか、なんだか柔らかくて、美味しそう……。
「どうして急に?」
返事を誤魔化すように、タイガくんに聞き返す。
「昨日テレビで見たんだ! コイビトの事カッコ良く守るヒーロー!」
「ふんふん」
なるほど。ヒーローに憧れてるんだ。可愛いなぁ。まぁ、僕もタイガくんみたいにヒーローに憧れていた頃があるから、よくわかるなぁ。
「だから俺、鍛えてカケルの事守れるくらい強くなるんだ!」
「へ?」
僕を、守る?
「なんで、僕を?」
「だって、将来カケルは俺の恋人になるだろ? だから、俺が守ってやんねぇと!」
イキイキした表情で答えるタイガくん。当たり前のように、僕が将来タイガくんの恋人になることになってるんだけど……どういうこと?
「あの、タイガくん、恋人って……」
「カケル! 今度はフッキンするから、足抑えてくれ!」
タイガくんは言うやいなや、ごろん床に転がって膝を立てた。
「ほら、早く!」
「え、あ、うん!」
タイガくんに言われるがまま、僕はしゃがんでタイガくんの足を抑えた。こんなことも割れるがままだから、きっと「俺の恋人になれ!」なんて言われたら、今みたいにあっさり「うん!」って答えてしまいそうな自分が怖い。