「カケル」
「う?」
朝が近づき、カケルが自分とユウの遣っている寝室に入ろうとしているところで声を掛けて。カケルは目をしょぼしょぼさせて俺を見ている。キョンシーと言えど、自我が戻り始めているから眠くなったりするんだろうか?
鍛えれば、短時間なら日中も外を出歩けるらしく、最近は陽が沈む頃からこの薄暗い森の中を歩かせているが……。
「カケル、眠いのか?」
「んー……」
カケルはこくんと頷いた。俺はカケルの手を取って、ベッドへ誘導する。
「た……?」
「今日は、カケルが寝るまで傍にいる」
「あ~!」
カケルは嬉しそうな声を上げる。俺は横になるカケルのそばにしゃがみ、そっとカケルの頬を撫でた。カケルは目をぱしぱし瞬かせている。長い睫が、フワフワ揺れる。
「夜になったら、また来るから。ちゃんと寝ておけ」
「ん……」
カケルは頷くとすぐに目を閉じ、眠り(と言っていいのかわからないけど)についた。
こうして寝ている姿は、とてもキョンシーとは思えない。ただの人間が、寝ているだけにしか見えない。
「カケル。いつか、二人で町に行こうな」
夜中の間、殆ど起きていたから俺も眠くなってきた。けど、今日はミナトさんの料理屋でバイトがある。だから、行かなきゃならない。
バイトして、昼休みに寝て、またここに来る前に少し寝よう。
出来るだけ、夜の間はカケルの傍にいて、動いているカケルを見ていたい。まぁ、たまにいつの間にか寝ていて、一晩中カケルに見つめられていたこともある。ユウから「カケルが一晩中寝てるタイガの事見てたぞ」と聞いた時は恥ずかしかったな。
あぁ、もう行かないと。眠るカケルの頬にそっと唇を押し当てて、俺は部屋を後にした。