整備を終えたカケルは、診察台に座ったまま降りようとしない。シャツを着ることもなく、下着一枚の状態で自分の左手、機械の手をじっと見つめていた。カケルが動く様子がないことに気付いたタイガが、振り返ってカケルに声を掛ける。
「カケル、どうかしたのか?」
「……うん、えっと」
「どっか調子悪いか? なんか、ミスったか?」
タイガは片付けていた工具を再び広げ、心配そうな表情を浮かべた。
「あ、違う、タイガの整備は完璧だよ」
「……そうか?」
「あの、えっと……」
「どうした? なんかあるんならちゃんと言え」
タイガは手袋を外し、カケルの頭を撫でながら言った。掌から伝わってくる温もりが、カケルの心を融かしていく。
「僕の手……こっち側」
カケルは左手をタイガの方に差し出す。タイガは何も言わずにその手を取って、両手で包んだ。温かさも、握られている感覚もない。カケルは自分の手を包んでいるタイガの手をじっと見る。
「たとえ手足が機械だって、関係ない。カケルはカケルだ」
カケルが言おうとしていることを察知して、タイガはカケルが口を開く前に言った。
「はは……普段は鈍いのに、なんでこういうことだけ鋭いかなぁ」
カケルは眉を下げ、目を潤ませる。
「僕、この先もずっとタイガのお世話になっちゃうかもよ? いいの?」
「いい。ていうか、俺がおめぇの整備をしたいんだよ。それに、整備以外のことは全部俺の方が世話になってるし」
「……」
タイガの言葉にカケルは目を瞬かせてから、クスリと笑った。
「ふふっ、確かにそうかもね! お勉強とか、お掃除とか」
「おう。バランス取れてるし、良いんだよ。それに、俺がおめぇの身体の事で今更ああだこうだ言う奴に見えるか?」
「……見えない!」
カケルは、タイガの胸にこてんと額を当てた。
「たとえ右手と右脚が機械になっても、内臓が機械になっても、おめぇがおめぇなら好きだ」
「……ありがと。僕も、大好き」
カケルがタイガの背中に両手を回して抱きしめた。
タイガは、確かに両方の手から温もりを感じた。