線香花火より早く、きみに「……で、なんで相談先がオレなんスか?」
「だって、まさか同じグループの先輩や事務所の人に聞くわけにいかないですし……」
「ま、もうちょいお菓子恵んでくれたら相談に乗ってやらないこともないっスね~」
にしし、と意地の悪い笑いを零すのは、他事務所の先輩であるラギーだ。デビュー時期も歳も違うが、デュースの所属する「ハーツラビュル」とラギーの所属する「サバナクロー」は同じ番組に出演することも多く、芸能界で知り合いの少ないデュースによっては充分に仲が良いと言えるだろう。
だがそれも、「サバナクロー」にはデュースと同い年のジャックが居て、そちらの方がプライベートでも会うぐらい仲が良いからこそラギーとも良く話すというだけだ。ラギーからしたら「仲良しのジャックくんに相談すれば」と思うのは至極当たり前のことだろう。
だが、ジャックは剛健質実を絵に描いたような男で、今のデュースの悩みの相談先に適任かと言われたら答えは迷わずNOだ。恋愛相談なんてした暁には、「エース本人に聞けばいいだろ」なんて本人に凸されてしまいかねない。そこで、本番前の楽屋に押し掛けて、ラギー一人にだけ相談しに来たというわけだ。
「まあ、同い年のエースくんのことを同級生に相談は難しいか」
デュースが理由を言うまでもなくあっさりと謎を解明したラギーは、デュースの持ってきた楽屋菓子をぽいぽい鞄に放り込んでいる。掻い摘んでエースとの距離がやけに近いことやヒヤヒヤする場面が多いとだけ伝えたのに、ラギーは既に事態の全容が見えているようだ。やっぱり相談してよかった、と笑みを零したデュースは、ソファに座るラギーに迫るように近付いた。
「で、僕はどうしたらいいと思いますか!?」
「別に、なんもしなくてよくないっスか?」
「……へ?」
想像と違う答えに、思わず気の抜けた声が出る。呆けるデュースと裏腹に、ラギーは卓上に残ったお菓子を一つ開けて口に頬張った。綺麗な色のキャンディだ。
「だって別に嫌じゃないんスよね?」
「は、はい」
「仕事に影響が出ているわけでもない」
「今の、ところは……」
「じゃあ問題ないじゃないすか、存分にドキドキしてれば」
「も、問題ありますって! 今後エスカレートしたりしたら……!」
「エスカレートって……キスされたり?」
「キッ……」
「まあそれじゃあエースくんは強姦か」
「ごっ……や、やめてください! 一応アイドルなんすから!」
売り言葉に買い言葉でぽんぽん続くラリーにデュースは着いて行くのに必死だ。口の中でころころとキャンディを転がしながら、ラギーは呆れ顔で腕を頭の後ろで組む。こういう歯に着せぬ言動がラギーが人気な理由だが、あまりに突拍子の無い発言をしてはリーダーのレオナの財力で揉み消している、というのはあながち噂だけというわけでも無さそうだ。
「別にキスぐらい、アイドルのファンサービスっスよ」
「それは……カメラやファンの前でなら、ですよね? 裏でするのは……」
「あ、そーだ!」
エースを止めたい、という相談だったはずなのに、これでは何の解決にもならない。デュースがもごもごと言葉を濁していると、ラギーは何か名案が思いついたかのように大声をあげた。
「仕返し。しちゃうってのはどーっスか?」
ラギーの口の中でキャンディがガリ、と音がなる。それを気にするよりも、その名案の詳細を語り出したラギーに、デュースは相談相手を間違えたな、と後悔した。