無題「は?そんなことってあんのかよ!」
「まぁ…打ちどころが悪くて…でも!場地と一虎の扱いが変わったってだけで済んで良かったじゃねぇか。」
「だけってなんだよ!ふざけんな!」
この話は数時間前に遡る。
いつものように集会場所の神社でだべっていると不意に隣にいた千冬が視界から消えた。と思ったら階段の一番下まで転がっていってしまってたのだ。
千冬は昨日から体調が優れていなかったらしくずっと顔色が悪かった。
オレが休めと言っても
「熱もないんで大丈夫です。大きな抗争もないですし明日も集会だけですよね?」
と言って聞かなかったのでしょうがなく千冬が倒れないように付きっきりで隣にいることを条件に集会へ連れてきた。
しかし運悪く、抗争ほど大きくはないが変な輩に絡まれてさっきまで取っ組み合いをしていたのだ。勿論、千冬も「壱番隊副隊長」として有名になってしまっているので変な輩達も千冬を狙っている。
オレは最初千冬を物陰に逃がそうと思ったがあまりにも離れたところにいたので一虎にお願いをして一虎と戦うようにしてもらった。
とまぁそんなことがあって体にガタがきたのだろうオレらが気づいた頃にはもう遅く階段の下で蹲っていた。
「おい!千冬ぅ!大丈夫か!?」
「も〜だから場地のいうこときけばよかったのに〜」
そう言って2人で階段下まで行き、一虎が手を差し伸べる。すると、
「ごっ…ごめんなさい。"羽宮さん"情けねぇ姿見せちまいました。」
と言った。
「ハ?羽宮さん?どうしたんだよ?千冬ぅ…お前一虎のことさん付けで呼んだことねぇだろ。」
あまりの衝撃にオレも一虎も千冬の肩に手を置き揺さぶる。
すると千冬はあろうことかオレの手を乱暴に振り払い
「触んないでください!圭介くん!俺は転んだだけですから!またからかおうとしてるんでしょ!?」
「……という訳だ。俺と場地の扱いが転んで頭打って変わっちゃったらしい。」
「ふ〜ん。そんなことってあるんだ。まぁ他に支障がないなら治るまで気長に待とうよ。……てかあそこに丸まってる場地をどうにかして?ジメジメしててキモイんだけど。」
「……ハハッ。多分千冬に冷たい態度を取られたのが今になってキてるんだろうな。場地、千冬に1度もあんな態度とられたことないだろ?」
「可哀想だが面白いな。」
オレがショックを受けて拗ねているというのに一虎やマイキー、ドラケンや三ツ谷まで全員オレの味方をすることなく面白がっている。
千冬はその話の間も一虎の近くにずっと立っているしイライラする。
「羽宮さん…ごめんなさい俺のせいで。」
「いや、別にいいんだけどさ。場地があまりにもジメジメしててらしくないから構ってやって。」
「お…おい!別にオレは望んでねぇよ!」
望んでないとは言えど千冬のことだこっちに来るだろうと思ったのに
「い…いやですよ。圭介くん、いっつも俺のことからかうし。本人も望んでないって言ってるし…帰りましょうよ。ね?羽宮さん。」
とまるで赤の他人(いやまぁ今までも赤の他人ではあるがオレは千冬のこと親友だと思ってるし)のような扱いをしてきた。
完全にオレの心にグサッときてその場にへたり込む。それをみて笑うマイキー達。あいつらいつか殴る。
「でもそんなこと言われても団地一緒だろ?帰る時は一緒に帰れよ?」
と一応オレみたいな対応をしているんだろう。一虎は千冬の頭をふわっと撫でた。
おい。触るな。千冬を撫でるのはオレの特権だぞ。
「……へへっ///わかりました。羽宮さんが言うのなら……。」
千冬は頭を撫でられただけで真っ赤な顔をして一虎を見つめる。まるで甘い恋人同士のような雰囲気にイライラがピークになり、一虎と千冬が居るところまで早歩きで向かう。
「千冬ぅ……帰んぞ。」
「えっ!?圭介くん?まだそんなに羽宮さんと喋ってな…」
「うるさい。帰るんだよ!一虎も!ニヤニヤするな!」
「いや、なんか千冬可愛いと思ってw」
そういうとまた千冬は顔を赤く染め照れ照れとしている。あ〜もうイライラする!!
結局千冬は駄々をこねながらもゴキの後ろに乗り団地に戻ってきた。乗っているときも降りるときもずっと文句を言われたしいつもと違う態度にムカッとした。
「ねぇ!圭介くん!聞いてるんですか!?」
「ちふゆぅ……目覚ませぇ?オレはお前の隊長だ。お前が尊敬すんのは一虎じゃなくてオレ!」
「は?何言ってるんスか?頭でも打ちました?」
「打ったのはどっちかっていうとお前だろ!?じゃなくて!お前が好きなのはオレだろ!?」
ん?なんか話が飛躍してる?と思ってももう遅くオレは千冬の唇にキスをした。あぁ…オレがイライラしてたのは千冬のこと好きだからか。
イライラの原因がわかった今、お願いだから思い出してくれともっと深くキスをする。
「んっ……んんっ……まってぇ……」
「またねぇ……んっ……思い出せよ。」
どれぐらいキスしてただろう。遠くから団地に向かってくる人影がちらっと見え、ここかどこか思い出したオレ達は顔を真っ赤にして5階へあがる。その時も千冬は顔を俯かせてブツブツとなにか言っている。
思い出したのか思い出してないのか不安ではあったがとりあえず千冬をオレの部屋に押し込む。
というか、キスして直ぐにオレの部屋に連れ込んでよかったのだろうか。千冬がオレを思い出したとしてもしてなくてもいきなり友達だと思ってたやつにキスされて、挙句の果てには家に押し込まれるのだ。
お茶の用意をしてたオレは柄にもなく手が震えていた。
「ち…千冬……さっきの事だけど……。」
『場地さん……俺のこと好きなの?』
「お…おう。オレお前のこ…え?さっきなんて?」
「えっと…俺のこと好きなのって言いました。」
「違うその前。俺の事なんて呼んだ!?」
「場地さん」
千冬はオレがキスした瞬間すべて治ったらしく今までのくん呼びのことをすごく後悔していた。
迷惑をかけたからと言って律儀に一虎に電話をかけている千冬の腰を抱き肩に頭を乗っける。
「……!!…そっそれじゃ!一虎くんにも迷惑かけました!!」
「千冬…で?さっきの返事は?」
「へんじ?」
「オレお前のこと好きだけどお前は?オレのこと好き?」
「〜~~~!!……すっ好きです!大好き!」
「ふはっじゃあ今日から恋人だな!そうだ。オレのことこれから圭介くんって呼べよ。お前に冷たい扱いされたのはショックだったけどくん呼びはちょっと嬉しかったな。」
「っっっっむりです!!あれはもう忘れてください!恥ずかしい……。」
それからというものの当分の間圭介くん呼びしろと騒いだオレだったが8年後、指輪を渡した時にそのお願いが叶うと知るのはまた別の話。