Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    なつゆき

    @natsuyuki8

    絵とか漫画とか小説とか。
    👋(https://wavebox.me/wave/c9fwr4qo77jrrgzf/
    AO3(https://archiveofourown.org/users/natuyuki/pseuds/natuyuki

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍎 ♠ 🍴 🌳
    POIPOI 124

    なつゆき

    ☆quiet follow

    【まほやく】2部ネタバレあり、20章8話あたりの東保護者。

    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra

    二羽の鳥 小鳥のさえずりがする。
     ファウストはゆっくりと目を開くと枕もとに目をやった。ぼんやりとした視界に、ひっきりなしに動く小鳥の姿が映る。チチチ、と呼ぶようにまたさえずりがした。
     一体どこから入ったんだ、もしかして誰かの魔法の差し金か、そういえば賢者が鳥の姿をした者に協力したと聞いたな、と一瞬駆け巡ったさまざまな可能性が霧散する。その小鳥の羽毛が、静かな水色をしていたからだ。
     ネロの髪色と同じだ。
     それだけでなんだか気が抜けてしまい、力の入りかけた身体を弛緩させる。周りを囲む、豪奢な部屋と見事な調度品にふさわしい、一級品と言っていいやわらかな布団だった。
    「どこから入ったんだ? 窓は空いていないし、僕が厄災の傷のために張った結界も潜り抜けてくるなんて……」
     そう言って布団から出した手指で小鳥を撫でる。数日前まではただそれだけの動作も重たげに行わなければいけなかったが、ようやっと違和感がなくなってきたところだった。
     二度、三度と小鳥の羽毛を撫でていると、ふいに「先生」という声がした。
     ファウストは驚いて小鳥を見つめる。ネロの魔法の気配だ。
     小鳥を触っていると、ファウストの頭の中に声が響く。
    「先生、元気? 俺は絶対安静って言われてヒマしてる。ちょっと動こうとすると、その度にシノかヒースがすっ飛んできて怒られる。傷の痛みもマシになったし、顔見せたかったんだけど。先生も似たような感じかな。でもさ、じっとしてるのは性分じゃないし、ここは豪華過ぎて落ちつかねえな、って思ってる」
     その後、今の事態の確認などを挟み、「じゃあまたな」と声は途切れた。小鳥はまだネロの魔法の残滓を残してそこに留まっている。いずれは消えるだろうが、ファウストは思わず二度、三度とまたその背を撫でた。
     ふふ、と思わず笑い声が漏れる。まだ大人しくしていろと口を酸っぱくして言う賢者や他の魔法使いたちの目を掻い潜りながら、小鳥を魔法で編み、メッセージを託すのは骨が折れただろう。こそこそと作業をしているネロを想像するとおかしみが込み上げてくる。
     しかし同時に、ファウストにとっては少しほっとしたのも事実だった。メッセージの内容もそうだが、この小鳥を送って来られるという時点で彼がかなり回復したことは知れる。隠密で彼の部屋からファウストの部屋まで移動し、ファウストが張った結界まで潜り抜けられたほどなのだ。ファウストが回復具合を悟ることすらネロにとっては計算済みだったのだろう。俺はここまで良くなったよ、という知らせだ。
     さて、とファウストは顎に手をやった。


     うーん、と伸びをすると、背中に痛みが走った。いてて、と思わず声に出すとヒースが眉を潜めてこちらを見た。
    「あ、いや、急に伸ばしたからさ、それだけ」
    「本当に?」
    「ほんとほんと」
     軽く返すネロに対し、ヒースクリフの表情は晴れない。まいったな、とネロは頭をかいた。
     今日こそはファウストに顔を見せに行くぐらいはさせてほしかったのだが、ヒースの様子を見るに許可はおりそうにもなかった。
     案の定、ヒースは「絶対安静期間は過ぎたけど、それは動き回っていいってことじゃないからね」と固い声で言う。
     ネロはベッドに沈み込みながら、拗ねた口調で皮肉を言った。
    「ヒースだってけっこうな怪我だっただろうに動き回っていていいのか?」
    「俺は……、だって、ネロが」
     ぐっと奥歯を噛んでヒースが黙ってしまう。ネロはしまった、と思ったが遅かった。
     俺はそこまでの大怪我じゃなかった。だってネロがかばったから。
     続くであろう言葉を察してしまい、お互いに黙り込んでしまう。
     ネロは慌てて言った。
    「あー、やめやめ。俺たちふたりとも……っていうか東の国まとめて四人とも反省点はありすぎるほどあるだろ? 先生なしで振り返りできねえよ。俺は大人しくしてる。ヒースは気にし過ぎない、今日のところはそれでいこうぜ」
    「……うん」
     ヒースは落ち込んだ表情でネロの食べ終えた食事を片付け始める。そんな顔するなよ、好物を作ってやるから……と言いかけて、今はそれができないことに気づいて口をつぐんだ。
     もどかしい。ブラッドリーに急かされたからというだけではなく、早く元のように動けるようになりたいものだった。
     ヒースが「本当に、大人しくしててね」と念押しして出て行った。ぱたん、と閉じた扉に向かってネロがひらひらと手を振っていると、視界の隅で何か動くものがあった。
    「……?」
     じっと見つめていると、それは急に大きくなったように見えた。鳥が羽を広げたのだ、とわかったときには置時計ほどの大きさのフクロウがネロの手元までやってきていた。
     はっとする。ファウストの魔法だ。フクロウの頭を撫でてやると、鳥は目を細めた。そうして「久しぶり。ネロ」と頭の中に声が響く。
    「先生?」
     思わず問い返すと、「ああ、君の小鳥を応用させてもらったよ」と声がする。
    「応用って……俺のは一方的な送信だけだったのに、これ、送受信できるようになってるじゃん……」 
    「賢者の世界のデンワ……というものを参考にしている。君の小鳥は魔法で維持してこっちにいて、それを媒介にしているんだ」
    「はあ〜、すげえな」
     目覚めてすぐ、ネロは窓の外に鳥の影を見た。鳥はすぐに飛び立ってしまい視界から消え、今はあの鳥を目で追うことすら叶わないのか、と少々感傷的な気持ちになったのだ。換気の良くない心持ちを、目の前の作業に没頭することでやり過ごしてきたネロにとっては、いくら回復に必要だとわかっていても何もできないという時間が重荷に過ぎた。
     なのでちょっと思いついてファウストのもとに小鳥を送りこんでみたのだ。安心してくれよな、という私信に過ぎなかった小鳥は、どうやら意地の張り合いをファウストに呼び起こさせたらしい。自分だって回復しているよ、という確信をネロに持たせようという気概が滲み出ていて、なんだか微笑ましかった。
    「じゃあ、ファウストも元気なんだな」
    「僕はもう起き上がれると言っているんだが、なんせシノが目を光らせていてなかなか自由にさせてもらえない」
    「俺も俺も。まあ特にシノには相当負担かけちまったからなあ。甘んじて受けるべきなんだろうけど」
    「こっそり魔法を使ってこんなやりとりをしていると知れたら怒るだろうな」
    「はは、でもまあ、怒られるようなことって面白いし」
    「……きみが授業中、たいてい不真面目な理由がわかった気がする」
     ふたりはしばらくあれこれとやりとりをしていたが、ふいに沈黙が落ちファウストが息を吐いた。ちょっと無理をさせ過ぎたかな、と思いネロは呼びかける。
    「先生、こいつ、いつでも送受信できんの?」
    「ん? ああ、普段は本物の鳥のように振る舞うが、用事があるときには魔力を流し込んで呼びかけてくれ。気がつけばこちらで受ける」
    「へえ。じゃあ、またヒマを持て余したら連絡するよ」
    「僕もだいぶ手持ち無沙汰だから、都合が良いときに呼びかけてくれ。こちらかもまた連絡するかもしれない」
    「ああ、じゃあまたな」
     ふつり、と糸が切れたようにフクロウが目を閉じ、再び開く。フクロウはベットヘッドのあたりに自分の居場所を定めると、悠々と毛繕いを始めた。
     今頃、自分の送った小鳥もファウストの枕もとで囀っているのだろうか、と思うとなかなか気分が良い。
     目の前に何かやることがないと落ち着かない自らの性分は変わらない。だが、こうして宛てができたことによってどうにも無視できない焦燥感が、少しましになった気がしていた。
     ネロは手を伸ばしてフクロウを撫でると、ヒースとの約束を守るため、ベッドに身を委ねて目を閉じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works