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    omisosukiiii

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    omisosukiiii

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    完売した本に収録していた、コメディ寄りの仲良しな二人のお話です。シチロウ先生が豪快に笑っているシーンをお楽しみください。

    恋に溺れる、愛に沈む 沈む夕日を眺めながら、鬱々とした気持ちに整理をつけるべく、重い足に力を入れて、カルエゴはベンチの縁に力を込めて立ち上がると、深いため息を吐いてようやく蹄を返す。
    「……俺はどうすればいいんだ。シチロウ」
     今この場にはいない、狂おしいほど愛しく思う、我が最愛の悪魔の名を口にするが、その名前の持ち主から返事がくるはずもなく。
     ただ絞り出すようなカルエゴの声だけが虚空の中に消えていった。
     長らく腐れ縁の関係であった二人は最近になり、ようやく付き合い出した仲なのだが、初めてのデートでお泊まりをする約束を交わした。カルエゴは持ち前のリサーチ力でデートスポットを下調べしたり、シチロウに贈るプレゼントを精査していた。
     だが、やはりシチロウは準備室が落ち着くのではないか、ということに落ち着き、それならばとカルエゴは自分の思いつく限りの中で、とっておきの贈り物を準備することとなる。

     ◇ ◇ ◇
     
    「こ、これは一体?」
     自分の生物準備室に帰ってきて早々シチロウが辺りを見るや、開口一番に、何? と小首を傾げながら訊ねてくる白銀の悪魔が可愛くて、カルエゴは見惚れて答えるのが一歩遅れてしまった。
     なんとも焦っている仕草も可愛いのである。見惚れたのは仕方がない。
     なんせ惚れに惚れているのだ。
    「ねぇ、カルエゴくんってば」
     再度問われたカルエゴは、大袈裟な動作をして見せて腕を組むと、してやったりとばかりのドヤ顔で、自信満々に答えてみせる。
    「薔薇の風呂だ」
    「……それは見てわかるよ。あのね、カルエゴくん。僕が聞いているのはね、どうして準備室の浴槽が薔薇の花びらで覆われているか、なんだけど」
    「いつも準備室にいて仕事ばかりで疲れているだろう。俺なりに考えた、お前へのささやかな贈り物だ」
     喜ぶと思ってな。そう付け加えると、疑惑の目を向けていたシチロウが少しだけ考える仕草をして、何か思いついたように目を丸くさせて口元を大きな手のひらで覆っている。
     しかも、耳がほんのり赤く染まっていて、こちらに向ける視線は遠慮がちながらも、なんだが憂いを帯びているようで。
     カルエゴの欲目なのか、色気さえ漂っていてその仕草に思わず喉が鳴る。
    「……これ、キミひとりでやったの?」
    「何がだ」
    「薔薇の花びらを一枚一枚むしって浴槽に散らしたってこと」
    「もちろんだ!」
     最後に答えた台詞を言い切る前に、目の前のシチロウが腹を抱えて笑い出す。
    「あははは! きみがやってるところ想像しちゃった。ふふ、あのカルエゴくんが、そんな地味なことを……あはは! カルエゴくんってば、本当に面白いことするんだから!」
     なぜ笑われているかは不明なカルエゴだったが、目の前のマイスウィートエンジェルシチロウが喜んでいるなら、これは大成功ということだろう。
     デートも兼ねて、給料三ヶ月分だ! としたり顔で伝えると、シチロウが膝から崩れ落ちでさらに大笑いする。
    「あははは、は! 給料三ヶ月……! ふふ、嘘でしょ、ひひ、あ! だからこんなに量が多いのか。はは! カルエゴくんってば、本当そういうところがあるんだから」
     よほど面白かったのか、息も切れ切れで言葉を発するたびに大笑いしていて。
     カルエゴは流石に気になって、思い切って何がそんなにおかしいか訊ねてみた。
    「やだな〜、面白かったから笑ってだけだよ。ふふ」
     ニコニコしながら穏やかに答えるシチロウを見て、カルエゴは怪訝な顔をして見せる。
    「カルエゴくんってば、そんな顔しないで。ね?」
    「そんな顔ってなんだ」
     少しだけ声のトーンを落として答えると、シチロウがカルエゴの前に回り込んで、そのままふわりと抱きしめてくる。
     うまくかわされた気がするが、カルエゴは抱擁を甘んじて受けて、自分も彼に腕を回した。
    「ふふ、カルエゴくんが僕のために薔薇のお風呂を準備してくれたこと、本当に嬉しかったよ。あれ、相当準備に時間がかかったでしょ? それに、花を一枚一枚むしるなんて、地味な作業で大変だったんじゃない?」
    「別に。お前が喜んでくれると思ったから、苦にもならなかったぞ」
    「そっか。ふふ、僕、カルエゴくんのそういうところが大好きだよ」
    「……俺はお前を愛している」
    「うん、僕も。カルエゴくんを愛してる。だからさ、せっかくだし、一緒にお風呂入らない?」
    「は?」
     カルエゴは思わず硬直してしまう。
     長年の友人としての、幼馴染としての付き合いはあったが、付き合うようになったのは最近で、しかもデートはこれが初めてで。
     それなのに、いきなり一緒に風呂とは一体? 今日はそこまでのことは考えていなかったカルエゴは混乱している。
    (は? 風呂を一緒、と言うことは、お互い裸じゃないか! マイスウィートエンジェルシチロウの裸なんて、とてもではないが直視できるわけないだろう。いや、だがやはり見られるものならば見たい。この目に焼き付けておきたい。念写したい!)
    「カルエゴくん。心の声が漏れちゃってるよ」
    「‼︎」
     はっとしたカルエゴは思わず口を掌で覆ったが、目の前の白銀の悪魔はくすくすと笑っていて、その光景がいつになく妖艶で、カルエゴは目を奪われる。
     そんな中で、シチロウは顔を近づけて頬を少しだけ染めながら、大きな爆弾を落としてきた。
    「僕、カルエゴくんと一緒にお風呂入って洗い合いっこしたいな。ね、いいでしょう?」
    「っ!」
     腕をゆっくりとカルエゴの首の後ろに回してきて、じっと瞳を覗き込み、とどめとばかりの言葉を口にする。
    「ね、しようよ、カルエゴくん。お願い」
    「〜〜〜! わかった! 風呂だけで済むとは思うなよ!」
    「うん。そのつもりだもん」
    「っ! くそ‼︎ 俺は警告したからな」
    「うん。わかってる」
     最後の台詞を皮切りに、カルエゴはシチロウの襟元を掴んで顔を寄せると、そのまま唇を貪り本能のままに蹂躙した。
    (俺の方が、絶対シチロウより愛しているのに! なのに、俺はいつもシチロウに振り回されているばかりだ)
     下で艶やかにしなり喘ぐシチロウに視線を移すと、慈愛に満ちた目でこちらを見つめてきて、それがまた熱を帯びるような熱い視線で。まるで視線で心がチリチリと熱くなり焦がされている錯覚さえ起こる。
     カルエゴは何度でもシチロウに溺れるのだ。
    「カルエゴくん、愛しているよ」
     鳴かされながらも息を吐いて、まどろんだ顔のシチロウから発せられる甘い吐息は、カルエゴの吐息と交じり合い、より濃厚になる。
     恋は盲目、愛は底なし。
     溺れるものが愛に沈まされるのだ。

    終わり
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