カリカリカリ
静かな談話室に筆を取る(言葉の綾で、正確に言えば筆ではなくシャーペンであるが)音が響く。来週に控えた試験に向け、各々持ち込んだ課題をこなしているのだ。隣の机では赤点常習犯の沢北が両隣の深津と河田に監視されながらもなんとか英語の参考書を解いている。9月にはアメリカへバスケ留学、そして特にトラブルさえなければその後も海の向こうでバスケを続けるであろうに初歩的な英語さえもままならない後輩に少し心配になるが、野辺も人の心配ばかりしてはいられない。
前回平均点を下回ってしまった物理と数学をなんとかしなければ。工業生でありながらこの2科目が苦手なのは恥ずべきことなのだろうがどうにも解けないのだ。優等生の松本曰く、公式をしっかりと理解しある程度基礎問題を積めば応用問題もこなせるようになるとのことなのだが、1人ではどうしても煮詰まってしまう。そういうわけで松本に教えてもらいながら提出課題に取り組んでいるのだ。正直試験直前に手を取らせてしまうのは気が引けるが、見返りとして松本が苦手としている古文を教えてやることで手打ちとしている。
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