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    mkctgs

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    姥包webオンリー様で展示してました。ミュ軸の話です。

    #姥包
    maternalPackage
    #んば大
    jambaUniversity
    #切国ひら
    #切国包
    #切国大包
    cheGukBigBag

    忘れていた昔の話と少しだけ前の最近の話「大包平」

     障子に向かって囁く。大包平の部屋の前に山姥切国広は立っている。夜も随分と深く、本丸は静まり返っていて、寝ている仲間たちを起こしてはいけないから一番抑えた小さな声で呼んでみた。部屋の中で寝ていたらきっと気付かない声量。もう一度、呼ぶ。おおかねひら。

     ……静寂。

     寝ているのか。……だよな。あと10秒待って返事がなかったら自分の部屋に戻ろう。数をかぞえる。じゅう……きゅう……はち……なな、……ろく。
     障子が静かに引かれた。どうした、と大包平が顔を出す。よかった、起きていた。「来てくれ」と告げる。足早に、しかし足音はしない速さで歩き出す。後ろから大包平がついてくる気配がした。眠いと言って断られたらどうしようと思っていたが杞憂だった。太刀は夜目が効かないからついてこられる速度で歩かないといかない。大包平の手を掴んで歩き出した方がよほど早いと一瞬考えるもそんな子どもみたいな扱いは嫌がられるかもしれないと思うとできなかった。
     ゆっくり、できるだけ速く歩く。目的地である山姥切の自室は奥の方にあるから顕現順に並ぶ大包平の部屋からいささか遠い。普段ならさほど気にならない距離だが、今は廊下の奥へ続く暗闇が恨めしかった。

     はやく。じゃないと。

     「どうしたんだ」と大包平が同じく静かな声で問うてくる。説明してもよいのだが今は言葉を交わす時間が惜しい。それに、見せた方が早い。いいから、と言って急かした。大包平が押し黙る気配。ああ、またやってしまった。怒らせたいわけじゃなかったのに。大包平と会話するとよくこういう雰囲気になることが多かった。そんなつもりじゃなかったのに怒らせたり不機嫌にさせたりしている。気持ちがしぼみかけるが、山姥切の部屋はもうすぐだった。正確には、山姥切の隣室。どうにか気持ちを持ち直して歩き出す。自分の部屋は通り過ぎて隣の部屋の障子を引いた。大包平には「入れ」と促し、心の中では邪魔するぞと部屋の持ち主に告げる。
     部屋といっても今は持ち主不在の空室で、簡単な敷物と小さな卓しかない。窓際に置かれたそれを差しながら大包平に見せる。

    「もうすぐ咲くから一緒に、」
     一緒に見よう。

     続けようとした言葉は花弁がいっそう綻びかけるのが目に入って喉の奥へ消えた。慌てて大包平を花瓶の前へ促す。少し力が入りすぎて大包平の肩を押さえつけるようにしてしまった。山姥切の勢いに呑まれたのか大包平は抵抗もせずに静かに座る。正座で。床に直接座らせる形になり若干後悔したが座布団なんてものはここにはない。山姥切は気にしないが大包平は嫌だったかも。考えても後の祭りである。なんで俺はいつもこうなんだか。そう思いながら窓の障子も開ける。今宵は満月だから部屋の明かりをつけずとも差し込む月光で十分だろう。太刀の目でも。山姥切の目ならさっきまでの暗闇でも見通せるが。
     隣に立つ。大包平は山姥切に言われた通り、息を詰めて花を見守っていた。素直だな。素直さは大包平の美徳の一つだ。
     香りが少しだけ強くなった。咲く兆候だ。山姥切も息を殺して花を見つめる。
     部屋の中にはふたりもいるのに衣擦れの音すらしない。切り詰めるような静謐だけが満ちていた。

     ぽん、と。

     つぼみが開く時、そんな音が鳴った、気がした。

     花弁がはじけるように開く。月の輝きすら弾き返すような存在感。さきとは比べ物にならないほどの甘い薫りがあたりを漂った。山姥切も大包平も呼吸と止めて見入っている。

    「すごい……」

     消え入るような大包平の声。そういえばこのあたりは山姥切以外の部屋はないのでもう普段通りの声で話してよいと伝えるのを忘れていた。

    「……これは、お前が?」
    「ああ」

     そうだ。部屋の裏、中庭の隅の方でひっそりと根を張っている預かりものをずっと世話していたのだがいつもうまくいかなかった。今みたいな花を咲かせるはずなのにずっと元気のない葉だけが風に揺れている。世話といっても気が向いた時に水をやる程度だから当然の結果といえばそうなのだが。
     だが今年は、――少しだけ気を使って水をやったり肥料をやってみたりした。元の持ち主の見よう見まね、それも覚えている範囲でしかなかったけど、それがうまくいった。久しぶりにつぼみをいくつかつけたのだ。

     うまくいけば、前みたいに咲く。

     それからは懇切丁寧に世話をしてみた。つぼみは徐々に膨らんでいった。頃合いを見て切り取り、これも見よう見まねだったが活けてみた。活けたつぼみからはかすかに香りがしていて、今夜がその時だとわかった。せっかく咲きそうなのに、預け主――というか、別に預かる約束なんかしたわけじゃないから預け主なんかじゃないなと今、気づいたが――も不在だから、大包平に見せようと思った。
     大包平は顕現して日が浅い。きっと花が咲く瞬間なんて目にしたことがないだろうから。山姥切も顕現してすぐにこの花が咲くのを見せてもらって、いたく感動したので。つぼみもせっかく咲くのだしひとりよりふたりに見てもらった方がいいにちがいない。そして花は目論見通り大包平と山姥切の前でつぼみを咲かせた。
     間に合ってよかった。ことがうまく運んだので山姥切は少し得意げな気持ちになっている。

    「……わざわざ俺に?」
    「え、」
     そうだが。

     返事をしようして目をやると大包平は花ではなく山姥切を見上げていることに気付いた。朝日を受けて輝く銀の泉のような瞳とかち合う。太刀は夜目が効かないから大包平の瞳孔は少しだけ常より開いていて、とろりとした印象を受けた。
     その中に花が咲いたことへの興奮と、一方で「なぜ俺に?」という疑問の色合いを見つける。

     なぜって。

     だって山姥切がこれを初めて見た時。
     「もし、」と夜半に起こされた。せっかくの寝入りばなに声をかけられて不機嫌の色も隠さず返事をする。なんだ。いいから、ちょっと。そう手招かれて部屋に入ると、この花が活けてあった。主からの頂き物なんだ。もうすぐ開くものだけ持ってきたからどうか共に。静かに告げられる。ほら、見ておいで。言われた通りに見ていると、スローモーションのようにつぼみが開いたのだった。すごい、と思わず漏らす。今、山姥切が大包平に見せたものよりもずっとずっと大きい花弁だったから開く際、なんだか迫力すらあったのだ。すごい。花なんか興味がなかったけれど、これは、すごいな。
     だろう? と得意げな声。その声を聞きながら山姥切は興奮の一方、なぜ見せてくれたのかがわからなくて、尋ねた。なぜ俺に?

    ――だって、この本丸にはまだ貴殿と僕しかいないからね。主と共に、これからふたりでこの本丸を盛り立てていくのだし、仲良くしたいだろう? その友好の証みたいなものだよ。

    ゆうこうのあかしみたいなものだよ。飴玉みたいに口の中でその言葉を転がす。その飴玉は面映ゆいような味がして、その時の山姥切は一心に花を見つめたのだった。

     ぽん、とまた音がした。

     あっ、また。興奮で大包平の声が上擦っている。ふわっと花が開いて、また薫りが強くなった。
     すごいな、また咲いた、咲いたな山姥切。大包平に布をくいくい引かれる。いつもならやめろというのに今はまったくそれどころではなかった。

     なんでこんな大事なことを今の今まですっかり忘れていたんだろう。

     なぜって。だって、せっかく咲くのなら大包平に見せなくてはと思ったのだった。なぜって。だって、……なかよく、したい、から? 別にもう本丸にふたりきりなんかじゃなかったけれど。
     暗がりだと太刀は目が効かない。山姥切が立っている場所はちょうど月明かりからも影になっていて、大包平からは見上げたところで山姥切の表情は見えないだろう。見えなくてよかった。だって顔が真っ赤に茹っている理由を今、尋ねられたら絶対に答えられないので。
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