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    オンリー終了15分前に投稿する新作。姥包。

    ●●しないと出られない部屋ようやく書庫から出られた。建付けが悪いせいか突然引き戸が開かなくなった書庫に閉じこめられて一日をそこで過ごした。正確には昼前から今のこの朝日を浴びるまでの一晩。一日というには少し足りないくらい。
    書庫は図書館からあふれ出した本が収納されている場所だった。本丸が誕生してそれ以降の戦闘記録や貸し出し頻度が落ちた書籍が収納されている。それどころか所蔵の刀剣男士のだれぞやが書いた絵、詠み人もわからぬ俳句や歌、書留、はては日記に買い物の切れ端メモといった本丸中の要か不要かわからぬ紙類が詰め込まれている。それも無秩序に。本棚の収納のからこぼれ落ちたそれらが床に詰みあがって山々を作り上げている場所。これを書庫と称すのは本来の機能を果たしているだろうこの世に数多ある書庫が泣いてしまうような気がしたが、書庫のほかに呼びようがない。
    それに書庫なのに冷蔵庫がある。さらには布団もある。書庫は本丸の機能が集約する中央部分から随分離れて奥まった場所にあり、これは乱読家の誰かが食事や寝る間を惜しんだ結果持ち込んでそのままそこの備品になったものだった。あまり人が来ないので冷蔵庫には誰かに食べられては困る大事な菓子や食べ物が収納される第二のスペースと化していたし(共同の大冷蔵庫は自身の食材を入れていたら夕飯へと様変わりすることが多々ある)、本に夢中になって自室へ戻ることが面倒になった誰ぞかが常に手入れをしているおかげか布団も清潔に使うことができた。書庫なのに紙類のところはこの世の終わりかと言うぐちゃぐちゃ加減で、冷蔵庫と布団がある空間だけが常に整っている。これでは本も泣くというもの。
    また、書庫の造り自体が刀剣男士に割り振られている生活用個室を数部屋、壁をぶち抜いて作ったものらしく、個室と同様の位置にトイレもある。等間隔に数個並んでいるのが図書館と違うところだ。
    なので、一日程度出られなくなったところでさほど支障はなかった。風呂に入れないくらい。それだって出陣すれば状況によっては泥と血にまみれながら数日間入浴できないなんてよくあることなので問題はなかった。しかも出られたので風呂には今から入ればいい。
    大体、今開けて出てきた引き戸だって木造のそれなので大包平の力で蹴破れば木端微塵になる。正直なところいつだって出ることができた。大声で叫び続ければ誰かが気付くだろうし、半分は望んで書庫にいたようなものだった。
    というのも、頼まれて探しに来た品を物色するうちに閉架の書籍や過去の戦闘記録へも目移りしてしまい、それらを読むのに夢中になって気づけば夜だった。これはいけない、と手をかけた引き戸がガコガコと音を鳴らすだけで何をしても横へ滑らない。数分格闘したのち、これ以上、力を籠めたら開くより壊れると判断した。なので冷蔵庫のものを少々拝借して読書に戻り、気付けば布団の中で朝を迎えていた。文字を追っていたせいか入眠は深く、口の端によだれも垂れた気配がある。手で拭う。あとで使ったシーツと布団を干さなければな、と思う。拝借した冷蔵庫の品も詫びて補充しなければならない。
    書物を数冊持つ。山姥切国広から頼まれていた品だった。
    ――先日、江の刀たちが慰労の演目を披露した。発案のきっかけが山姥切が写した読本を見つけたから、らしいがそこで山姥切が口を滑らせた。ほかにも写したな、と。それを聞きつけた篭手切がぜひ見たいとねだるも、収納場所が足りなくなって書庫のどこかに置き去りにしているとの話。篭手切の熱心さに気圧され、いつか探して渡す、と押し切られる形の約束したが、そのいつかが任務やらなにやらで先延ばしに今日に至る。よければ探してきてくれないだろうか。手前の置けそうな場所へ放り込んだだけだからすぐわかる。俺は別の用があるのでどうか代わりに、――と頼まれたのが一昨日。いつでもいいから、と言われていたがたまたま昨日も非番だったので昼過ぎに探しに来たのだった。
    目当てのものはすぐにわかった。教えられたタイトルが表紙に書かれている。中を開けば手書きの文字が連なっている。山姥切の筆跡だった。力強く美しい字。誰に読ませるわけでもない、と言いながら本を開いた誰かを気遣うような読みやすく整った字。本人の気質に瓜二つのそれ。なぞるように読み始めたら止まらなくなり、近場にあるものにも目移りし始めて――、まあ、閉じ込められていた、というよりは誰にも邪魔されずに堪能していた、の方が表現としては正しいのだった。
    外に出ると足元に箒が転がっていた。書庫付近を掃くための掃除道具。ちりとりと一緒に引っ掛けて収納するが、なにかの拍子で戸の方に倒れてきたのだろう。それが引っ掛かって外から鍵を掛けられた状態になった。これは収納場所が悪いな、と思う。あとで配置を検討し直そう。

    山姥切へ本を届けに行く前に風呂に入ろうかな、と思う。幸い今日も任務も内番もなく時間はあった。朝の澄んだ空気は凛として気持ちよく、深く吸い込む。向こうから浦島虎徹が歩いてきた。またいつもの肩にいる亀がいなくなったのか、亀吉~と呼びながら下を見て探している様子だった。近づくと大包平の気配に気付いたのか、ぱっと顔を上げた。「おはよう」と声をかける。すると。

    「おめでとう!! ねえ、亀吉見なかった?」

    ……おめでとう、とは、何が?

    寝ぼけておはようの挨拶を聞き損じたのだろうか。いや浦島は確かにおめでとうと言った。後半の意味はわかった。亀吉見なかった? 亀吉は見てないと伝える。そっか、朝起きたらもういなくてさ、朝の散歩かな? 俺に一言いってから出かけてほしいよ~。
    その時、がさっ、と遠くの茂みから音がした。浦島は音に反応して「亀吉!?」と走って行ってしまう。「亀吉、どこだ~」という声が段々遠のく。脇差は太刀に比べて機動が速い。なので、おめでとうの意味を聞きそびれた。

    なにか、祝われることがあっただろうか。うーん。しいて言えば、先日、大包平の誉獲得数が50回を超えた。といっても、顕現日時が近い南泉や小竜も似たような獲得数であるし、長くから本丸に顕現している刀たちからすればどうということもないような数字だ。だが、顕現してからこれまでのことを思うと感慨深いものもあり、近い獲得数の南泉と小竜と共にささやかな祝杯を交わした。本当にささやかで、普段なら買わぬような少し良い菓子と酒をひそかに嗜む程度のものだったが。そして、その内々の祝いを聞きつけたらしい山姥切国広からは「……よくやった」の一言を。
    大包平が山姥切国広から褒められるようなことはほぼ皆無である。刀を交わらせれば、隙が多い無駄が多いの駄目出しばかり。言葉尻こそ端的だが、指摘されることはすべて的確で学ぶことばかりなのでいつも大包平は山姥切と手合わせを頼んでいる。だから、その一言をもらった時は嬉しかった。
    はて、そのことだろうか? 山姥切国広が褒めるくらいなのだから誉獲得数の節目は案外いろんな刀から祝われるものなのかもしれない。なるほどな、と思う。

    ****

    誉獲得数は本当に祝われるものらしく、部屋に戻るまでにすれ違う刀たちから「おはよう」代わりに「おめでとう」をよく聞いた。「大包平、おめでとう」「おめでとう、いい日になるね」「いやーめでたい、いい酒が飲める」「本当におめでとう、今日はお腹の痛みがどっか行っちゃった」……などなど。
    畑当番に行く桑名(半分寝ている松井を引きずっている)からは祝宴のメインディッシュは何がいい?今年の葱は太くて甘いんだよ、生で食べてもおいしいくらい!とたまたま持っていた葱をそのままかじれと言わんばかりに押し付けられ、わかったそれで頼むと半分逃げるように立ち去った。なぜたまたま葱を持っているのは不明である。これから畑に行くのにすでに収穫物を持っているのはどういうことだ。部屋から持ってきたのか?一緒に寝てるのか?葱と?桑名ならばさもありなんと考えて否定ができない。
    祝宴をするほどのことなのかわからないが、おめでとうと言われて不快になる道理はなく、大包平は少し得意げな気持ちになっていた。今度は前から豊前が歩いてくる。表情豊かな彼は大包平の姿を認めると、遠目からでもわかるくらいの笑みを浮かべて近づいてきた。そして今日、何度目かの言葉を言う。おはようの代わりの挨拶に。「おめでとう!」 ほら来た。ああ、ありがとう、の礼を舌の端に乗せたようとした瞬間、豊前が続けた。

    「山姥切と結婚したんだってな!!」

    …………は???????

    けっこん。

    誰が? 誰と?

    後ろに大包平以外の誰かで居て、実はそいつに話しかけたのではないか?と思い、後ろを振り返った。

    誰もいない。

    前に直れば、豊前が眩しい笑顔を向けてきた。少し前に加州が言っていたことを思い出す。なんか豊前の笑顔ってさ、眩しいよね。迫力があるっていうか。圧があるっていうか。有無を言わさないっていうか。なんかそういう感じ――。
    その笑顔のまま、「いや、ほんとにめでてーな!よかったよかった!」と肩をバシバシ叩かれる。後ろにいるやつに話しかけたのではない。でなければ大包平の肩を叩かない。
    ならば。

    「…………はァ!?!?!?!?」

    ****

    「山姥切国広ぉ!!!!!!!!」

    ばあんっと壊れる勢いで襖を引く。普段なら入室時は声をかける。入ってもよいか? いいぞ、の返事があってからだ。今はそれどころではない。部屋の中にいた山姥切国広は、大包平を見るなり、チッ、と舌打ちをした。

    「ひとの顔を見るなり、舌打ちをするな!」
    「朝からうるさい。もう少し書庫にいればよかったのに」
    「き、貴様……!」

    やられた。
    もう少し書庫にいればよかったのに――。山姥切国広の言葉ですべてを理解する。昨日の用事を頼まれた時から図られていたのだ。

    さて、この本丸には、絶対に引き出されない抽斗が一つある。届け出の各種申請書が収納された棚。上から、休暇・外出申請書、修繕申請書、三、四、五段とんで更にその下、その最下段には。
    ――婚姻申請書。
    刀剣男士に人間の婚姻という制度は適応されない。なので権利もない。だが、この本丸には婚姻届がある。なぜか。
    始まりは加州清光だ。当時、200年と少しくらい前の恋愛ドラマにドはまりしていた。人間と人間が付き合う付き合わない誰を愛す愛さない結婚するしないのあれだ。物語の最後はふたりが結婚を約束するリングを嵌め合い、書類に名前を書いて登記所へ提出してハッピーエンド。
    はあ、と一連のドラマを見終わった加州がため息を付きながら言う。俺も婚姻届出してみたいな~。そこに主が通りがかった。はは、いいですね、それ。作ってみましょうか。
    別に加州も審神者も誰かと結婚したかったわけではない。加州はただ、多忙で不在がちの主に何気なしに言った言葉がきちんと受け止めてもらえたことが嬉しいだけだ。審神者といえば、目に入れても痛くないほど刀剣男士たちを愛している(それも平等に)から口に出した希望はできるだけ叶えてあげたいだけだ。他意はなく、言葉のままに婚姻届は新規の申請書として発行された。そして誰にも使われないで棚の中にある。使われない紙が無駄なのでたまに買い物のメモとかの裏紙になっている。
    もう一つ、話がある。この本丸の申請届け出時に関するルールだ。「休暇・外出など届け出があるものは所属本丸の男士全員に許可を取ること」。これは本丸の規模が今の半分くらいの刀剣男士の数になった時に新設されたものらしい。以前、両手で足りるほどの頭数の時は本丸も今より狭くどこに誰がいて何をしてるかわかったが両手足を使っても足りなくなって来た頃に、刀剣男士各々の出陣・遠征・内番という任務と休暇が管理しきれず、出陣に出そうにも休暇に出ていたりという人員ダブルブッキングが多発した。任務は最悪替えが効くが、休暇はそうもいかない。いない刀剣男士に仕事は頼めない。
    すると、今度は二振りの手足を使っても足りなくなる頭数になった頃、別の問題が発生する。所属本丸の男士全員に許可を取っていられないという話だ。
    なので、外出・休暇届を提出したいものは指定の場所に一日前から申請書を張り出し、24時間以内に他男士から異議申し立て(俺もその日に休暇を取りたいとか任務を替わってほしかったとか)がない場合、正式な受理・承認を受けたと見なされる。ちなみに最下段の引き出されない抽斗にある書類もそうだから気をつけるように。この日の休暇やこの婚姻に異議があるやつは異議申し立てができるからな。まあ後者は出す奴はいなんだけど――、というのがこれ以降この本丸に来た刀たちが最初に聞く冗談である。

    昨日までは。

    今日からは目の前に出したやつがいるので冗談ではなくなる。
    走りすがらに確認した指定の場所には確かに婚姻届が張り出されていた。名前欄にあるのは「山姥切国広」「大包平」。
    昨日散々なぞった見覚えのある筆跡がそこにあった。「大包平」と書かれた字も山姥切国広の筆跡である。当たり前だ。だって大包平はこの書類に名前を書いた覚えがない。
    昨日大包平が書庫に入った時間が朝食後のすぐだ。書庫に入ったことを確認した山姥切国広が張り出したんだろう。本人の許可を得ないで!
    時計を見る。あと30分で書庫に入ってから24時間経つ。24時間以内に他男士から異議申し立てがなければ正式受理・承認である。気付くと山姥切国広はこの部屋の唯一の出入口である襖の傍に立っていた。
    ここを通りたくば俺を倒してから行け――、というように。敵に対する口上ならば心強いがこの場合の敵は大包平である。立ち位置的に。

    「お前な……!!」
    「なんだ。ここを通りたくば俺を倒してから行け」
    「口で言わんでもわかる!」

    いやそうではない!

    「婚姻より交際が先だろうが!!!!!」

    はて、と山姥切国広が首をかしげる。言われてみれば、そうかも。きょとん、とした顔だ。
    山姥切国広は目つきは悪いが、面立ちは幼い作りだ。だからそういう顔をすると無垢な子どもが「なんで?」と愛らしく道理を問うような雰囲気になる。なんで空は青いのかな?というような可愛らしさ。しかし山姥切国広と交際の事実はない。交際がないのに婚姻はできない。太陽がないと空が青く見えないように。

    「わかった。じゃあ、俺と付き合ってくれ大包平」

    チッ、と山姥切国広がまた舌打ちをして、仕方ないなというように床を見ながら言った。
    じゃあってなんだ、おい、それが人にものを頼む態度なのか!?

    「お前のそういうところ、本当にムカつくな! 床じゃなく俺の目を見て言え!!」

    大包平の、ムカつく、という言葉に反応したのか、山姥切がキッと睨み上げてくる。大包平も負けじと対峙した。今にも鯉口が切られそうな緊張感が張り詰める中、山姥切が、息をスッと吸い込んだ。一歩踏み出して、言う。

    「大包平、好きだ。大好きだ。俺と付き合ってくれ」

    「わかった。お前のその申し出、受けよう。山姥切国広、俺もお前が好きだ」

    だからってお前、人を書庫に閉じ込めるなよ。
    いや、断られたらどうしようかと思って。

    断られたらどうしようかと思うような健気な心意気を持つ輩は人を書庫に閉じ込めたりしないだろうが――、と言おうとしたところで、あっ、と大包平は気付く。

    「山姥切!!」
    「な、なんだ」
    「ねぎは好きか!?」
    「え? ねぎ? いや好きでも嫌いでもないが」
    「なんだと。桑名!!」
    部屋を飛び出そうとした大包平の腕を山姥切ががしっと掴んだ。
    「待て。あと五分、ここに居ろ」
    「五分でも十分でも生涯そばにいてやるが、今は桑名の誤解を解くのが先だ!」

    ――xxxx年xx月xx日 9時41分、24時間以内の他男士からの異議申し立て、なし。
    山姥切国広・大包平両名の婚姻申請書を受理及び承認をします。

    ****

    「なあ、おい。そういえばプロポーズリングとか貰ってないんだが」
    「は? やっただろ。くまのやつ」
    「……もしかして、お前が露店で買ってきたテディベアの腕におもちゃのリングがハマったやつのことか?」
    「うん」

    ~おわり~
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