「そんなにめくじら立てることないのに」
逃げるように席を立った男の背を射殺すような眼差しで睨みつけるヴィクトルに勇利は少しだけ呆れて零す。
見知らぬ男。
多分容姿に自信があるんだろうけど、ヴィクトルを見慣れた勇利からすれば気に留める価値もない。
カクテルを贈られても、そんなこと本当にあるんだとしか思わなかった。
小さな変わった形のグラスが珍しくて首を傾げれば、そんな勇利誘われたように近づいてきた男が「ブロージョブって言うんだ。手を使わないで飲むんだよ」と欲を滲ませた声で囁いた。
なるほど、勇利がヴィクトルと肉体関係にあると知っての狼藉か。
どんなふうに抱かれるか、その様を嘲りたいのか視姦したいのか⋯。
おそらく後者だろうなと思えば、愉悦で口角が深く上がり、唇が笑みの形を作った。
見せてあげようか?
そう唇を舐めたところで、ヴィクトルがやってきて勇利の目の前に置かれたグラスから一瞬で色々と理解したらしい。
あっという間に男を威嚇して追い払うのは見ていて愉快でもあった。
「どうせ僕がどんなふうに啼くか妄想しかできない人だよ?」
「勇利が軽んじられるのは好きじゃない」
怒りを滲ませる男は美しい。
ヴィクトルから遅れると連絡があった時は苛立ちから酒を煽ってしまったけども気分はだいぶ良くなった。
低い沸点に呆れはするけれど、それほどまでに大切に思われているのは嫌じゃない。
でもヴィクトルは勇利が見せてあげようとしたことも気に入らないらしい。
咎めるような眼差しに、貴方が僕を放っておくからだと言うのは簡単だけどそれは微笑んで濁した。
「僕がヴィクトルの下でどう善がるのか教えてあげようとしただけだよ。知れば羨ましくてたまらなくなるでしょ?どうせあの人は僕に指一つ触れられないのに」
この身体のどこに価値があるかは知らないけれど、ヴィクトルは勇利の身体も極上だと言う。
確かに感じて乱れてしまう場所はたくさんあるけれど、どれもヴィクトルが触れるからだ。
その姿は確かに他のものが見たら自分も善がらせてみたいと思うかもしれない。
でもそれはヴィクトルでなければ駄目なのだ。
「想像するだけでも許せない」
唸るように吐き捨てるヴィクトルに勇利は微笑む。
ヴィクトルの執着は重すぎるし度が過ぎると他の者は言うけれど、それに愉悦を覚えるなんて勇利もきっとどこかおかしい。
「ヴィクトルの、こんなに小さくもないしね」
つんとグラスを突けば上に乗ったクリームが揺れた。
クリームより練乳の方がらしいのではないかと考えたら瞬間ふと思考を掠めた思いつきに勇利は熱い吐息を零す。
そしてその泡に軽く口付けた。
何をしようとしているのかわかったらしいヴィクトルが息を飲んだのがわかる。
それを察して勇利はカウンターテーブルに顎をのせると舌先でグラスを下から舐め上げた。
いつもする時、先端にキスをしてその大きさを確かめるように舐め上げるのが好きだ。
ヴィクトルのと違いすぐに舐め終わってしまったけれど、グラスの縁を括れに見立ててキスをして舐め回す。
ヴィクトルは勇利にされるのが好きではない。
でも勇利がすれば視界からの光景と与えられる熱に興奮してしまうというのだから可愛い。
本当は口いっぱいに頬張りたい。
苦しいほど喉の奥までいれて、ひくつく怒張を感じたくてもそんな真似事このカクテルグラスのサイズではできない。
「ブロージョブって手を使わないんだね」
僕、ヴィクトルのしか知らないからすればわからなかった。
うっとりと零せばヴィクトルの瞳に揺れる情欲の炎が純度を増したのがわかった。
それにいつも暴かれる身体は疼いてしまう。
臍の下まで届くのではないかと思うほど大きな男根。
日本人は浅いらしいけれど、結腸までグッポリとはめられてしまうほどのそれは口だけに到底収まらない。
だらだらと飲みきれない唾液と先走りで滑る幹を、張り詰めていく陰嚢を愛撫しなければ足りない。
思い出したサイズに喉が震える。
どこもかしこも勇利の身体でヴィクトルを知らない場所はない。
泡で白く汚れた口腔を晒せば、ヴィクトルがグラスを奪い飲み干した。
「⋯甘い」
ああ、そんな飲み方をするものではないのに。
そう思ったけれど、強い腕に抱き寄せられて口直しをさせてと囁かれれば、拒むことも思いつかずヴィクトルに身を委ねた。