次出す本を決められないから助けてほち候補①tiny fairy
小鳥の囀りに起こされた。花にふわふわと身を包まれていた。
柔らかな日差しに祝福を受け、風に揺れて擦れ合う草木が喜ぶ。ゆっくりと身を起こせば、待っていたとでも言うように鼻先に蝶が止まった。
「くしゅっ」
ムズムズして、堪らずくしゃみをしてしまう。きょろきょろと辺りを見回し、納得して微笑んだ。
「おはよう!」
今、この瞬間。私は生まれた。
朝日が眩しい。足元で、色とりどりの花たちがぽんぽんと音を立てて咲き始める。
「わっ……ありがとう」
丁寧に編まれた花の冠が頭に被せられる。そっと手を差し出せば、愛らしい冠をくれた小鳥が二羽、指先にとまった。
褒めてとでも言わんばかりに胸を膨らませるその子らに、感謝を込めて頬擦りする。
「おはよう、おはよう……はじめまして!」
初めて見た世界は、うっとりするほどに煌めいていた。淡い色の蝶が私の肩で休む。私の膝を背にして、森のリスがくるみを齧っている。強い日差しを程よく遮ってくれる大きな木、私を中心として今もぽんぽんと咲き続ける花。
自分がどういった存在なのかを学びながら、ゆっくりと瞬きをした。
「ひゃっ……」
白い布にそっと身を包まれる。指先で休んでいた二羽の鳥が楽しげに囀れば、リスやモモンガが訳知り顔で頷いた。
候補②君は天使。
「えっと……ここだ!」
周囲の街並みよりも一段と高いマンション。その最上階に、目的の人物は住んでいるという。
白くてふわふわした羽をばさりと動かし、風に乗って急上昇する。目当ての部屋のバルコニーへと降り立ち、窓に手をかけた。すると自然に鍵が開く。
「天使に鍵など通じないのです」
先輩天使の口調を真似しながら、悠々と室内に侵入する。
広いリビングでコーヒーを飲んでいた住人は、何故だかぽかんと口を開けていた。突然、窓が空いたからびっくりしたのだろう。天使である私の姿は見えないのだから。
「私が幸せにしてあげる人間はこの方ですね、今日からお世話に……いえ、お世話してあげます!」
候補③ My little blossom
「あと二ヶ月もすれば、あの赤毛がベッドに広がることになるか」
「いやいや、一ヶ月も怪しいな。噂では、パトロン探しを始めてるとか」
「そりゃあいい。私のところへ来たら、一晩中可愛がってやるとも」
シガールームでの下卑た会話に、ひっそりと眉を顰めた。このくらいならば、燻る煙が覆い隠してくれるだろう。珍しくもない話題。財産不足で、没落しかけた家の娘の話。支援の対価として身体を頂く、その予定の話。
「いやね、前々から品定めしていたんだ……顔付きは幼いが、なかなかいいものを持ってる」
「うまくこの手に転がり込んでくるといいが」
「違いない」
ははは……と醜い笑い声が響いた。舌打ちを堪えて、まだ新しい葉巻を灰皿に押し付ける。未だ愉しげに話し続ける男らに背を向け、部屋を後にした。どこか苛立ったような心境を抱えて廊下を歩く。
「あの……侯爵様」
あの男たちの言っていたことは、不愉快ながらも事実ではある。没落寸前のあの家は、私の見立てでは一ヶ月も保たないだろう。
「あの〜」
自分には関係ない。微塵も。大広間の向こう側で時折見かけることのある、赤い髪の少女のことなど。
駒鳥のように楽しげに踊り、妙に惹かれる笑い声を上げるあの子のことなど。
「あの!」
「っ……!失礼、考え事をしていまして」
声をかけられたのが自分と悟り、涼しい顔で振り向いた。そしてほんの少し動揺する。
(これはこれは……)
渦中の少女。赤毛の令嬢。人気のない廊下で、一旦何の用事があると言うのだろう。霧のかかったような退屈な舞踏会の記憶を、煙草の煙で覆われたシガールームの嘲笑を、粉々に壊してくれやしないものか。
意を決して大きく息を吸い込んだ少女は、その真っ赤な頬よりも赤く、艶めく唇を開いた。
「わ、私の……パトロンになってもらえませんか?」