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    EraiIkiteite

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    オペラ!

    長い冬休みに入っていても、生き物相手の仕事なので休みであっても休みではないことはままある。エンジンシティ、ほのおジムの中にある幼体たちのいる部屋では、カブが一人で全てのポケモンの面倒を見ていた。今日以降は、年始の出勤日までボールの中で眠ってもらい年を越す。ジムトレーナーたちも先刻までは残っていたが、定時だからとカブが追い出した。情がうつったらつらいのは君たちだよ、と言い含めて休暇を取らせるものの、恐らくトレーナー達は皆、誰よりもカブ自身が、彼らに情を持って接していると知っている。
    「カブさん、ここにいたの」
    コンコン、ドアを開けてからノックしたのはキバナだった。待ち合わせの時間にはまだある筈だが、きっと彼の事だから待ちきれなくなって切り上げてきたのだろう。なんでも器用にそつなくこなす男なのだ。
    「遅くなっていてごめんね」
    「カブさんの悪いとこですよ、その残業癖」
    「そうだねぇ」
    でも、もう彼らの身繕いも終わるし、僕も帰るよ。キバナは既に冬用のコートにツイードのマフラーを巻いて出かける準備は万端である。これからカブの家でクリスマスからの年末年始休暇を過ごすことになっている。二人が恋人になってから、初めての冬だった。

    「早く帰ろう、と言いたいとこだけど、こいつらが可愛いのもめちゃくちゃわかる」
    「ありがとう、」
    キバナは近寄ってきたロコンの目線になるように長い足を折ってしゃがみ、くるくると指先で喉元を撫でている。可愛い、来年また遊ぼうな、端正な横顔がくしゃくしゃの笑みを浮かべているのを見て、心臓が温かくなった。
    価値観が全く異なる時もあるが、ポケモンと、バトルの事に関してキバナとカブは価値観が似ている。だからこそそばにいてわかりあえると思った。同じようになる必要はない、無理解で居ないこと、受け入れなくても理解し合うこと、そこから始まるものが確かにあると思っている。

    ふと、キバナの青い瞳がカブを見た。
    「ケーキ、買っておいてくれてるんでしたよね」
    ガラルで、クリスマスといえばミンスパイだが、二人ともそれを拵えられず、スーパーで買って食べるほどでもないとなった時、カブが自分で申し出たことだった。甘い物好きのキバナには少し苦いかもしれないが。
    「うん、ポプラさんに昔頂いたのが美味しかったのを思い出して、探してみたよ」
    「楽しみだな〜!クリーム系?チョコレート?」
    「チョコレートケーキ……になるのかな」
    事務所の冷蔵庫で眠っているそれは、この後恭しく運ばれてカブの家に移動する。何層にも重なったそれは、ビスケット生地にコーヒーシロップを染み込ませて、コーヒー味のバタークリームと重ねている。途中にチョコレートの層もあり、甘いものが得意ではないカブでも食べて上品だと思った記憶のあるケーキだった。楽しみだなぁ、俺様我慢できなくていいワイン買ってきましたよ、くふくふと笑う青年の顔を見て、眩しいような気持ちになった。自分の人生に訪れる、一つのクライマックスのような心地だ。溢れんばかりの好意を、愛を、与えてくれるのが確かにわかる。

    「キバナくん、そろそろ行こうか」
    「はぁい」
    事実は小説よりも奇なり、この世は並べて美しい。
    カブがそんな言葉を思い浮かべているのを知らないキバナは鼻歌を歌いながら立ち上がり、それから、彼の年上の恋人の手を取って喜びのダンスを踊るのだった。
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