「いい歳した大人達が無邪気だよね」
机に広げられたお菓子の中からカントリーマアムを取り口に放り込んだムジュが、面倒くさそうに部屋の様子を眺めてぼやいた。周りと一人だけ目線の高さが違うこと、会話のテンポについていけないことに疎外感を感じてしまっているのだろう。
「大人だって子どもなんだよ」
「それは、そうなんだろうけど」
いつものハテノ村のメンバーにいつもはいない顔ぶれが混ざったことで、ただでさえ一歩引くムジュは余計に周りに気を使っている。会話に混ざりたいわけではなさそうだが、自分だけ置いていかれているこの状況が気にならないはずはない。ムジュの気持ちはわかるので、返答の代わりにポッキーを一本ムジュの口元に当てた。
「おにいちゃん」
差し出されたポッキーをムジュが咥える。「このまま食べろっていうこと?」と目で問いかけてきたので、ニコと笑って手で持っていた方を口で咥え直した。ムジュの大きな目がびっくりして丸くなる。その様子が可愛らしくて、空いた両手をムジュの顔を添えてやったら、ムジュは照れくさそうにポッキーを咀嚼し始めた。
目の前にムジュの顔がある。こんなに至近距離で見たことはないな…とムジュのくっきりとした二重瞼を観察していると、ムジュの唇が触れた。と同時にムジュが焦ったのかビクッと体を揺らし、ポッキーは二つに折れてしまった。
「あーあ折れちゃった」
「…だって、おにいちゃんが…!」
こんなことするから、とか細くつぶやいたムジュの顔は真っ赤になって照れている。他のみんなはそれぞれで何か話しているようで、誰もこちらを気にしてはいない。ふと、もう一度同じことをしたらムジュは自分を嫌うだろうかと疑問が湧いた。嫌うことはないだろうな、と確信するともう体が動いてしまった。
「ん……っ」
抵抗出来ないように両肩をしっかり掴み、唇を重ねる。体をこわばらせているムジュの口は固く閉じられたままだ。「力抜いて」と頬にキスをすると、ほんの少しだけ両肩が柔らかくなった。
「おれを信じて」
「トワにいちゃんにしてること、するの?」
「んー…そこまではしないよ」
さすがにトワ相手にしていることをムジュにするわけにはいかない。何をしているか、時さんと記憶が共有され、かつ聡明なムジュは全て知っている。そのせいで何度もムジュを寂しがらせてきたわけだが。
「…してもいいよ」
ムジュがニコリと笑う。さっきまでの緊張はどこに行ったのか、眉をキュッと寄せてこちらを試すようにまっすぐと視線で射抜いてくる。
「ぼくだっておにいちゃんの相手できるよ」
「ムジュはダメ」
「何で」
「子どもだから」
「…そうやって、おにいちゃんまで」
何かと「子どもであること」にコンプレックスを抱くムジュが、明らかに不機嫌な顔をする。「なら大人のぼくだったらいいの?」と聞いてきたので慌てて否定した。いくら大人であったらとはいえ、時さんとやる気は全くない。
「サイズの問題」
ムジュの小さな体には入らないし、入ったとしてもキツいだろうことは想像できる。なら逆ならいいのか、という問題でもない。それに、自分はトワ以外の男に抱かれるつもりはない。トワに対して不誠実でいたくないし、ムジュに淡い期待を抱かせたくもない。それでもムジュが欲してくるのなら、ムジュの嫌う「子どもだから」を理由にする他なかった。
「……それは、そうだけど」
「ごめんな。だから、ムジュとはここまで」
もう一度唇を重ねて、今度は肩を掴むのではなく背中に回してギュッと抱きしめる。力の抜けたムジュの唇を舌で開かせ、そのまま中へと滑り込ませた。ムジュの口の中は甘いチョコレートの味がした。
しばらく舌を絡ませると、ムジュが苦しそうな吐息を出した。息を止めていたのだろう、舌が抜かれるとスゥと息を思い切り吸う音が聞こえた。
「息止めちゃダメだよ」
「だって、こんなの初めてだったから」
「クセになりそう?」
さてどちらの答えが返ってくるのかな、とそれぞれの場合の返し方を考えていると、ムジュが照れ臭そうに抱きしめ返してきた。腕をめいっぱい背中へと回し、ぎゅうと抱きしめた後、こちらを仰ぎ見てニコリと微笑んだ。
「うん。クセになりそう」
そんなムジュの顔が可愛くて、「でもこれ以上はねだっちゃダメだからね」とポッキーを一本取って唇へと押しつけた。