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    ka2chahan

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    ka2chahan

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    日の出を見に行くトワとブレの小話

    初日の出が見たい「どこかの国では年が変わる時に日の出を見に行くらしい」
     体は疲れているのになかなか寝付けなくて、そんなことをトワが言っていたのをふとベッドの中で思い出した。それはトワの世界の話なのか、トワがこの世界に来て誰かに聞いた話なのかはわからない。その時おれはふーんと聞き流していたけれど、ちょうど今夜がそれにあたると馬宿で知り、今になって再び思い出した。
     百年前はどうだったか記憶は無いけれど、今のハイラルでは年が明けたとて特別何かを祝うこともない。また新たな一年が始まるだけで、人々はこの厄災に見舞われた世界がいつまで続くのか、またこうして出口のない一年が始まるのか程度にしか思っていないのだろう。
     トワは確か、日の出が見たいと言っていた。トアル村ではどんな風習があったのかもあれこれと楽しそうに喋っていたけれど、興味がなかったので覚えてない。トワは毎日色んなことをひっきりなしに喋るので、いちいち覚えてたらおれの記憶のほとんどがトワの記憶になってしまう。
    「トワ、起きて」
     手狭なベッドに大きな身体を沈めて気持ちよさそうに寝てるトワを揺すって起こす。何だよ、と目を擦りながら起きるトワに、つい一時間ほど前の情事を思い出して申し訳なくなる。少しイライラとしていたから、トワの気もお構いなしに求めてしまった。トワが悪いんだぞ。炊事場で村の娘達に話しかけられたことを嬉しそうに報告してこられて、冷静に聞いていられるわけがないだろうに。だけどそんな風に名前も知らない村娘達に嫉妬してることがトワにバレたら、何を言われるかわかったもんじゃない。そうかそうかそんなに俺を取られたくないのか、とニヤつきながら頭を撫でてくるに決まってる。だからなるべく表情に出さないように耐えていたけれど、いざベッドで寝るとなったら駄目だった。トワの広い背中を抱きしめていると思い出してしまって、気がついたらトワの身体に爪を立てていた。突然のことに驚いたトワが、でもその行為に何かを察してこちらを向き直って、話してみろと促してきた。普段鈍くてこっちの気持ちなんてわかっちゃいないくせに、こういうおれの些細な仕草で勘づいてしかも受け止めてくるのは、ずるい。素直に言うのも癪だからそっぽを向いて「何でもない」と拒否の姿勢を見せると、逆にトワから抱きしめられた。そんな男前なことをしてくるものだから、トワの男らしさと自分の女々しさを比べてしまい苛立って、それならばとトワに乗り上げたのが今夜のはじまりだった。
    「ごめん、寝てるとこ」
    「何だよ?」
     眠そうに頭をがしがし掻きながら、トワが身体を起こす。寝癖なのかただの癖なのかわからない髪の毛が更に四方にハネている。容姿に無頓着なくせにかっこいいんだから反則だよなぁ…と、今はそんなことを考えながら見惚れてる場合じゃない。
    「日の出を見に行こう」
    「何で?」
    「トワが見たいって言ってただろ?」
     どうやらトワは自分が言ったことを覚えてなかったらしいが、トワから聞いた話を伝えるうちに思い出してくれた。そうそう日の出見てみたいよな、と見る間に目が覚めてパッと顔が明るくなっていく。日の出なんてしょっちゅう見ているんだし、何が楽しいのかわからないけど、トワが楽しいのならそれでいいかな。
    「いつもと変わらない日の出だと思うけどね」
    「いや違うね」
    「違うの?」
    「新しい年の始まりだぞ?いつもの日の出でもそりゃ特別だろ」
    「そういうものかな」
    「そーいうもんなんだよ」
     苦笑いを浮かべていると、頭をわしわしと掻き回された。降ろした髪は寝癖もついててボサボサしてるから、いくら掻き乱されても何てことはない。どうせくくったところでトワに「もっときちんとくくれよ」と駄目出しをされるのだけど。
    「今から行けば見られるよ」
     さてどこに行けば一番綺麗だろう、とシーカーストーンを起動させてマップを見る。トワが横から覗き込んできて、ここはどうだあそこはどうだと提案してくる。せっかくなら一番綺麗に見られるところに行きたい。おれはこれから先も毎年見られるけれど、トワは今年だけかもしれない。そんなに何年もこの旅を続けるわけにはいかないし、旅が終わって目的を果たした後にまでトワをこの世界に紐付けしておくわけにはいかない。だったら、トワの記憶にずっと残って、トワがトアル村に帰ってからもずっと語り継いでくれるくらいとびきりの景色を見てもらいたい。
     幸いなことに天気は快晴、最高の日の出が見られそうだ。トワは見慣れない海にはしゃいでいたから、どうにか海と太陽とが同時に見られる場所はないのかな。
     トワがおれからシーカーストーンを奪って、太陽の登る位置をなぞりながらここだと山が背になるからとか何だとか言っている。トワの好きなように決めさせよう。トワ自身はこの世界で見られる新年の日の出がこの一度きりだという自覚は無さそうだけれど、わざわざおれが指摘をするまでもない。単にこういう楽しいことがしたくてしているトワが子どもっぽくて可愛くて、邪魔しちゃ悪いなとおれはトワをベッドに放置して下へと降りた。「早く決めないと日が昇るぞ」と声をかけると、焦った返事が二階から降った。

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