晩夏の候もう九月だと言うのにまだまだ夏日が続く残暑。しかし夜は段々と冷えるようになり、夏の終わりを告げている。地域では今年最後の花火大会が開催されると賑わっていた。
「凄い人だ…」
人混みに慣れない炭治郎は人通りの少ない場所へと行き一人で友人を待っている。少し早く来すぎただろうかと時折スマホの画面を見ては時間と連絡がないかを確認していた。ピロンと音が鳴りスマホを見ると友人からの連絡。
『ごめん炭治郎!俺行けなくなったから代わりの人に頼んだ!楽しんでくれよな⭐︎』
代わりの人とは誰なのか。そもそも行けなくなったのなら、またにすれば良いのに。花火大会は明日もある。返事をしようと文字を打っていると目の前に影が出来た。
誰だろうかと見上げると長身イケメンの見覚えのある人が立っている。周りで女性がキャーキャーと騒いでいる中で、彼は笑うと炭治郎の腕を掴む。
「よぅ、久しぶりだな」
「え?何で宇髄先生が…?」
「あいつから聞いてねェの?俺が代わり」
現れた人物は高校時代の先生で、炭治郎が密かに想いを寄せていた相手である。
宇髄は炭治郎を連れて人混みを掻き分けて行くと少し離れた場所にある小高い丘に着いた。穴場なのか、人はあまり居ない。
「凄い、こんな場所があったんですね!」
「ここ、人が居ない割に花火が良く見える場所なンだよ。あの辺でいっか。ベンチ座ろうぜ」
丘の一番上にあるベンチ。そこに座ると空が近くに感じる。前は坂になっている芝生にレジャーシートを敷いてまったりしている家族や恋人がちらほら居た。
隣に座る宇髄は足を組んでどこに入れていたのか、缶ビールを開けて飲んでいる。炭治郎はチラリと見える脹脛にゴクリと唾を飲んだ。
「宇髄先生、その。浴衣、似合ってます。俺も浴衣か甚兵衛でも着てこれば良かったかな」
「おーサンキュー。俺はお前のその格好も良いと思うぞ。学生らしくて」
「あ、ありがとうございます…」
学生らしい。つまりは子供っぽいと言う事だろうか。炭治郎は少ししょんぼりとしていると、ドンっと大きな音が鳴った。空を見上げると大きな花火が上がっている。
「始まったみたいだな」
ヒュ〜ドンッ!パラパラパラ
色んな形や色をした花火が次々と上がっては消えていく。炭治郎が綺麗だなと見ているとベンチに置いていた手の指先に宇髄の指が触れた。
驚いて横を見ると、花火を見上げながらビールを飲む宇髄。ほんのり頬が赤らんで楽しそうにしている。指が触れたのは偶然だろう。けれど炭治郎の心臓はバクバクと鳴っていた。花火の大きな音が肌に響き、ビリっとする感覚が余計に気持ちを昂らせる。
「すごく、綺麗です」
「わりぃ。何つった?花火の音で聞こえなかった」
炭治郎を見る宇髄の笑顔がとても優しくて。炭治郎は宇髄の手を握り声を大にして伝えた。
「すごく綺麗です!宇髄先生、俺は貴方の事が大好きです!」
先程まで上がっていた花火が止まり静かになる。まだ花火が上がると思っていた炭治郎は大声で告白をして、周りの人にも聞こえていた。一斉に注目を浴びたが、再び花火が再開され観客の視線は空へと戻る。
ヒュ〜ドンッ!パラパラパラ
真剣な眼差しの炭治郎に宇髄は何と答えようかと考えた。元生徒。何となく好意はあると気付いていたが、特に何事も無く卒業していった炭治郎。それなのに久しぶりの再会で告白をしてきた。
正直、今回の件はたまたまではあるが炭治郎に会えると思いわざわざ浴衣を着てきた宇髄。実は自分も好きだったのだと言おうかと考える。
「………」
「すみません!困らせたい訳ではないんです。こうして再会出来たのも運命かな、と思ったら気持ちを伝えたくなってしまって…」
きっと勇気を振り絞って伝えたのだろう。顔を真っ赤にしている炭治郎の耳元で宇髄は返事をした。
「俺も…。竈門の事、…好き…」
「……っ!ありがとうございます!」
ヒュ〜ドンッ!パラパラパラ
晴れて両想いとなった瞬間。上がった花火はハートの形をしていた。まるで二人を祝福するように、大きな花火が空に上がる。
「なぁ、明日も見に来ようぜ。お前も、浴衣着てさ」
「はい!」
思いもよらぬ再会で伝えられなかった想いを伝える事が出来た炭治郎は宇髄の手を握ったまま、二人で仲良く花火を眺めた。