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    いかふらい

    @Ikafurai_SuduKe
    かきかけ置き場 基本男男 攻の可愛さと格好良さとしんどさと情けなさとか諸々を引き出す天才と書いて受と読む

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    いかふらい

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    付き合ってる監ジェイ(2022/12/31)

    何だって一番は僕が良い 午前の授業を乗り越え腹を空かせて向かった先は食堂。品数の多い料理が魅力的なそこで、俺はジェイド先輩と出くわした。
     と言っても目は合っていないし、この人だかりの中だ。先輩は気づいていないだろう。それを良いことに俺は、行列に並びたくないなあ、なんて考えながら何するともなく先輩を眺めていた。目の保養である。後ろ暗いところはないし、見つめるだけなら何の問題もない……はずだ。
     壁際からぼんやりと目線を向けて分かったことは、先輩が何も料理を取らずにただ突っ立っているということ。誰か待っている様子も見られない。物凄く不自然だった。声もかけづらいし、関わらない方が良い。先輩の周りだけ空いているので、俺含め皆そう判断を下したようだった。怖いわけではない。それは全く違う。ただ嫌なことが起こりそうな気がして……ね! そういうこと!
     そろそろ並ぼうと足を前に出したその時、いきなり先輩は後ろを向いてその長い足で俺の方へと向かって歩いてきた。足が長いからか、速歩きで来たからか。気がついた時には、少し手を伸ばすと触れられるぐらいの近さに長身が立っていた。ちょっと勢いが怖い。見上げれば、首を痛めそうな程高くにある頭が目に入る。先輩は入口の端に立っていた俺を正面からじい、と見据え、にこり。整った笑顔で声を落とした。やっぱ綺麗だなオイ……。
    「監督生さんは鯨を食べたことはありますか」
     質問と言うには少々威圧的であり、断定と言うには弱い。そんな輪郭のぼやけた声が聞こえた。曖昧な表現で言うことはあれど、はっきりしたキツめの物言いが多い先輩にしては珍しかった。なんだ。何があったんだろう。不安なことでもあるのかもしれない。え、鯨を食べることに対して……? 意味わかんないな。まあ先輩だから。仕方ない。今に始まったことじゃないし、ちゃんと対話していこう。
     これまでの短い経験上、俺は先輩の言っていることを一発で理解できない。俺は察しが悪いのだ。いやそれだけが理由じゃないが、今は関係ない。早く答えてあげないとキレるぞ、先輩が。よし。考えよう。質問から推測するに、多分鯨のことだ。えー……先輩の嫌いな食べ物はアナゴだし、鯨について何か言ってるのなんて聞いたことがない。
     そこそこ優秀だと自負している頭に入った知識を掘り起こして考えた。この世界には日本とは違う慣習や文化があって、それはまるで地球で言う外国の文明のようなもので。だとしたら、納豆を食べるなんて信じられない! と同じような反応なんだろうか。もしかして、鯨食ってこの世界では地雷だったりするのか……? 鯨を食べた奴は生かしておけないとか。おっと……俺はどうなってしまうんだ。こんなことで俺の今後が危ぶまれていることを知るとは思ってもみなかった。この場での情報源は先輩だけなので、少しでも彼から情報を得たい。でも下手を打って感づかれでもしたら俺の人生は終わるかもしれない。ークソっ! どうしたらいいんだ。俺の精一杯の命乞いを目に焼き付けてくれ先輩。おい待てふざけてる場合じゃないぞ。
     ……少し落ち着こう。焦ったって何にもならない。誰かが言ってただろ、知らんけど。マアそういうもんだよ。ね。よし、整理しよう。今俺は、返答次第では命が先輩に握られるという状況に置かれている。そんな感じだ。……うん? よく考えてみろ。先輩が相手だぞ? 別に困らないじゃないか。別にいいじゃん。焦って損したー……。うわ、なんか逆に腹立ってきたわ。ー!! 脅かすなよお!!!
     そういえば先輩はどんな顔をしてるんだろう。俺の命がかかってるかもしれない質問だからね。めちゃくちゃ笑ってるんじゃないだろうか。先輩って悪趣味だし。のんきにもそう思った俺は、先輩の首元にやっていた視線を顔へと動かした。
     正直、見なければよかったと思う。いつもみたいに笑ってるっちゃあ笑ってるんだけど、笑ってないんだよ。目だけじゃなくて、なんかこう全体が。責めるように見てくるし。痛いし辛い。鯨の話はガチでアウトだったんだろうか。先輩が俺にこんな顔を向けるほど? 眉はつり上がってるくせに瞳は揺れていて、無理に取り繕っているみたいだった。……やっぱタブーなんじゃね。
     これはいけない。最初の予感が的中してしまった。こういう時ほど当たってしまうのだ。皆あるだろ、そういった経験。虫の知らせとでも言うやつなのか。俺の胸のうちに慎重に行け、という言葉が胸に浮かんだ。知ってるよ。どうもこうも、このまま固まっていては話が進まないもので。俺は意を決して口を開く。先輩の顔を窺っていたのはバレているだろう。機嫌は悪くなるだろうがこれくらいは許してほしい。俺の命の危機なので。
    「取り敢えず、昼食にしません?」
    「……まあ良いでしょう。では席を取っておいてください。すみません、監督生さんをお借りしますね」
     先輩は仕方ないとでも言いたげに軽く息を吐き、グリム達にいつもの笑顔で告げる。そう、彼らはずっと俺の隣にいたのだ。今までは空気だったが。先輩から立ち退きの指示が下された途端、グリム達は元気に知り合いの方へと去っていく。羨ましい……。
     今度助けを求められても何もしないことにしよう。もうこれは決定事項である。俺のささやかな反撃を受け取ってくれ。
     それはそうと、先輩だ。横にそらしていた顔を先輩に向け、どこでも良いのかと確認を取る。何か先輩にとって気に食わないものが顔に出ていたのか、不満げな目で見つめられていた。無言の圧が息苦しい。何故そんなに見てくるんだろう。何もやましい事は無いはずだが、どうにも気まずい。無意識になにかしてしまったんだろうか。断りを入れられてすぐ離れた席に逃げ去ったグリム達が恨めしい。

     じゃあ早速行ってきます、と逃げるように先輩に背を向けた。


      ◇


    「それで、どうなんです?」
     ひょいひょい名も知らぬ料理達を口へと運んでいる先輩が、こちらを見もせず言葉を投げる。その口調は投げやりで、いじけている弟のようだった。懐かしい。よく弟に「約束破った! クソ野郎が!」と、した覚えのない約束について文句を言われたものだ。はあ。帰れるものなら早く帰りたい。また約束を破ってしまったらどれほど泣かれるやら。
     少し感傷に浸っていたからか先輩はこちらがまともに話を聞いていないと思ったらしく、気づけば嫌味のパレードが始まっていた。これはきちんと聞かないと終わらない。俺は先輩との付き合いは短いが、これは何度も体験したので知っていた。しかし俺は早く飯を食べたい。結果、ながらで聞くことになった。
    「はあ……そうですね、すみません」
     ろくに話も聞かず気のない返事を続けていると、ぱたりと先輩の嫌味が止まった。おや? と疑問を抱き何故か向かいに座った先輩に目をやる。食事を口に運ぶ手を止めず、雨に濡れた絨毯のような湿度の高い目でこちらを睨んでいた。怖ぁ。言葉にされていないが、不満は未だ解消されていないことが見て取れた。嫌味を聞かせることを諦めた先輩が再度「それで?」と問いかけてきた。待って何の話だっけ。
    「……鯨を食べたことあるんですか」
    「そうそれ! って、何で分かったの?」
    「顔に書いてありました」
     冷たく切り捨てるように返された。ひええ。怒りを腹の底に溜めてらっしゃる……。

    「監督生さんの故郷が島国で海産物をよく食べていたとか」
    「え、あはい。そうですね。どこでそれを?」
    「エースくんから聞いたとフロイドが言っていました。それでどうなんです?」
     いやあ同じことを何度も聞いてくる先輩って珍しいなあ~。惚けたことを考えて詰め寄ってくる先輩から目を逸らす。だってさあ。こんな対応されたら何もなくても気まずくなるじゃん。
    「事実ですけど……別にそんなに珍しくも無いでしょうに、そんな興味を唆るもんありました?」
    「他にはどんな物を食べていたんですか」
     俺からの疑問を一欠片の躊躇も見せず無視してまたもや先輩が聞いてくる。そんな矢継ぎ早に言われたら答えづらいんですけど……。
    「早く教えて下さい」
    「まあ、ありふれたもんだと思いますけど。珍しいもので言うと、フグとかサメの卵とかエイとか。あとは……普通に色んなものを」
    「それってエースくん達にも言いました?」
    「言いましたよ」
    「なんでですか?!」
    「うわうるさ。なんでって……聞かれたからとしか」
    「本当監督生さんって気がききませんね」
    「なんで罵倒してくるんですか……?」

    「実は先輩怒ってます?」
    「そんなまさか。僕より先にエース君に教えたことなんてちっとも気にしてません」
    「めちゃくちゃ気にしてるじゃないですか」
    「してません!!」
     眉を吊り上げて不平をこぼす先輩の口元は固く引き結ばれていた。
    そもそもあなたは話さなさすぎるんです。いつも僕ばかりじゃないですか。俯いてそう溢す先輩は今日もかわいい。嫉妬だと分かったらこれまでのことも一気に許せちゃうな。実際にはそんなことはない。先輩だとしても許せないことはある。どんなに可愛くても、だ。俺の昼飯のおかずを一つ取ったことは特に許せない。
    「実は俺、こっちに来てから海鮮食べたの、先輩たちとピザ食べたときが始めてなんですよね」
    「……本当ですか?」
     疑わしげに返す先輩に安心させるように柔らかい顔を意識して言うと、渋くさせた顔を逸らされた。「キモいですね」と汚物を見る目で浴びせてきた先輩の態度から察するに、疑惑はまだ晴れていないみたいだ。そんな信用ないのか、俺。どっちかというと先輩の言葉の方が信じ難いが。
    「本当ですって。それで、今度二回目を食べようと思うんですけど、一緒にどうですか?」
    「行きます」
     とまあこれにてハッピーエンドだ。

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