Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    sleepwell12h

    @sleepwell12h

    スタンプありがとうございます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 22

    sleepwell12h

    ☆quiet follow

    💛の地元に遊びに行く💜

    #lucashu

     肩先に落ちる緑陰と抜けるような上腕の膚との鮮烈な対比は、盛夏の高い空から降り注ぐ日射しとは縁遠い彼の生活を物語っていた。
     国内外から休暇に訪れる人々が押し寄せるこの時期には、にわか造りのオープンカフェが目抜き通りのあちこちを侵食する。生成のパラソルのもと、シュウは物憂げな溜め息をついた。対面に腰を下ろしたルカに名前を呼ばれると、悄然とした面差しを取り繕うように控えめな笑みを浮かべる。
    「ごめん。少しぼんやりしてた」
     もとより睡眠時間も不規則なら、外出にも慣れていない彼のことだ。日陰に入ればいくらか涼はとれるとはいえ、歩道の照り返しや人いきれは体に堪えるはずである。体の内側から熱を下げようと試みたのか、グラスからあふれんばかりにホイップを盛りつけた冷たいショコラは、早くも底をつこうとしていた。
    「暑かったら無理しないで。具合が悪くなる前に戻ろう」
     気遣わしげに顔を覗き込むルカに、シュウは緩くかぶりを振って見せる。
    「暑いのは平気だよ。ただ、ちょっとだけ眩しい……かな」
     シュウはうすい掌を目の上へ手を掲げながら、頻りに瞬きを繰り返す。ルカは安堵したように表情を和ませながら、シャツの胸元にさしたサングラスを差し出す。
    「だから、かけたほうがいいって言ったのに」
     たちまちシュウが言葉に詰まる。躊躇いがちにサングラスを受け取るも一向に着けようとはせず、物珍しげに眺めるばかりだった。
    「だって、こんなお洒落なやつ……ルカなら似合うかもしれないけど、僕には、その……変じゃない?」
     まるで後ろめたいことでもあるようにうつむきながら、ようやくサングラスを目元にかける。小作りな顔は半分以上隠れてしまった。まるで親の借り物で遊ぶ子どものような姿に緩んだ口角を、ルカは咄嗟に手で覆い隠す。
    「そろそろ行こうか。モールの中なら少しは涼しいよ」
     気恥ずかしさに駆られたシュウがサングラスを外してしまう前に、ルカは彼の手を引いて席を離れた。街路から地下通路へ通じる階段を降りる。足元から吹き上がる冷えた空気が体の表面にまとわりつく熱をさらった。
    「散歩に行きたいって僕から言い出したのに、かえって気を遣わせちゃったな」
     白い蛍光灯の光に洗われた地下街を流しながら、シュウが沈んだ面持ちで告げる。対流する人波と接触しかかった体を、ルカは反射的に抱き寄せた。シュウはありがとう、と口走りながらも、腰へ回った手に怪訝な視線を落とす。
    「ねえ、ルカ」
     多分に困惑を含んだ声音で名前を呼ばれても、ルカは不思議そうに首を傾げるばかりだ。なぜ腰を支えて歩くのか、理由を訊かれたルカはあっけらかんとして「何となく支えなくちゃいけない気がして」と応じた。
    「肩や腕ならわかるけど、何でここなの」
     暗に手を解いてほしいと訴えるつもりでシュウが発した疑問にも、ルカは少し考え込む素振りを見せてから、申し訳なさそうに答える。
    「ここが一番頼りないように見えた……から?」
     ルカが懸念した通り、シュウは面喰らったように目を見張ったあと、動揺を誤魔化すためか口の中でぶつぶつと呟きはじめた。
    「ルカほどじゃないけど、僕だってそれなにり体幹は鍛えられてる……はず」
     やがて地下街を通り抜け、再び地表に出る。ルカがご機嫌とりのつもりで道すがら買い求めたストロベリーシェイクを飲みながら、シュウはサングラス越しに射し込む陽光に双眸を細めた。
    「ルカ、もう大丈夫だよ。心配かけちゃったね」
     さり気なく体を引こうとするシュウに、ルカも一度は手を離しかかったものの、今度は緩く互いの腕を絡めた。
    「もう少しだけ……ダメかな」
     それまでの気ままな行動が嘘のように殊勝な態度に、シュウは肩透かしを喰らったかのように立ち尽くす。沈黙を拒絶と判じたのか、ルカは気落ちした様子でみるみる顔を曇らせた。
    「別にかまわないけど、歩きづらくない?」
     シュウが慌てて取りなしてもなお、ルカの表情からは憂いの色が消えない。膚を灼く陽光を避けるように、街路樹が落とすまだらな影を踏んで歩きながら、ルカはおもむろに口を開いた。
    「今のうちに、たくさん覚えておきたいんだ。シュウの体温とか、表情とか、仕草の癖とか。シュウが帰ったら俺は、きっとすぐにさみしくなるから」
     目元へかかる長めの前髪に遮られて、ルカの表情ははっきりとは窺えない。にわかに生まれた気まずい空気を誤魔化すように、シュウは軽やかに喉を鳴らして笑った。
    「そんな大袈裟な。会える距離に友だちがいないわけでもないし、新しい出会いだってこれからたくさんあるのに」
     シュウにとっては何気ない軽口のつもりだった。しかし、ルカは唐突に足を止め、傍らへ並ぶシュウを凝視する。端正な面立ちが際立つ静謐な表情に、シュウは思わず息を呑んだ。
    「違うよ」
     抑揚を抑えた声は、うっかりすると行き交う人々のざわめきに容易くかき消されてしまう。シュウは必死に耳をそば立てた。
    「俺は、シュウに会えないのがさびしいって言ったんだ」
     にわかに風が吹きつけ、足元にわだかまる熱を巻き上げる。乱れて顔に降りかかるシュウの髪を、ルカは丁寧に撫でつけた。熱い指が一瞬だけ頬をかすめる。いつまでも尾を引く感触は、思いがけずシュウを動揺させた。
    「それは……どうも、ありがとう」
     真意こそはかりかねるが、彼なりに親しみをあらわしているのだろう。シュウはやや強引に結論づけると、ぎこちない感謝の言葉で応じた。ルカは気にする風でもなく、シュウの肩を力強く抱き寄せる。
    「夕食までホテルで休もうか。外に出るのが面倒ならルームサービスを頼んだっていいし。シュウの話をたくさん聞かせてよ」
     シュウは一瞬だけよろめいたものの、すぐに体勢を立て直す。友人に歩調を合わせながら、黄昏どきのように琥珀色に光る街路を進んだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭🙏🙏💴💴💴💖💖💖💴💴💴💴💴💴💴💴💴🙏💖💖💖🅿🇴🇴🇴🇴↪💖💜😭☺👏👏👏🅿🇴☪💜😭☺☺🌠💖💖💖💖👏👏👏👏😭🍌💜👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works