十座の正面に立った九門がためらいがちに、だがどこか覚悟を決めた顔で言う。
「兄ちゃん、今日ってキスの日なんだって。だから……兄ちゃんとちゅーしたい!」
突然の九門の要望に、十座は面食らってとまどう。
「いや、それは……さすがに兄弟じゃしねぇだろ……」
「え? 海外の映画とかではよく見るでしょ?」
「……そうか?」
「うん、普通にしてると思うけど……?」
とまどう十座とは反対に、九門は心底不思議そうな顔で兄を見上げた。今までみた映画にそんなシーンがあっただろうかと、なぜか焦りながら十座は必死に記憶をたどる。
一方で物心ついた頃から弟を知っているので、今の表情から九門が嘘を付いているとは全く思えなかった。
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