乾杯。その言葉と共に朱塗りの盃を掲げた。一口含めばふくよかな甘みとコクを感じる。普段口にする葡萄酒とはだいぶ違う味わいのこの酒は、このレヴィオンより更に東にある小さな島国の品だ。騎空艇グランサイファーの仲間たちから話を聞き、この年越しの為に漆の酒器と一緒に取り寄せたのだ。すっきりとした飲み口は成程新しい年を迎えるのにふさわしい清々しさで、思わず口元に笑みが浮かぶ。続けて二口、そして三口で器の中の酒をすべて飲み切れば、既に盃を空にした親友が機嫌良さそうにこちらを眺めているのが視界に映る。
「美味いな」
常日頃とはずいぶん違う、随分と気を抜いた笑顔だ。
「親友殿、一口で飲んでしまったのかい?」
「ああ、美味かったからな。それに俺は酒の作法に詳しくないし」
3696