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    『どうするユリウス』──普段と違うお酒を飲んだら思いの外アルコール早く回って感情がジェットコースターしてしまう酔っ払いで両片思いなアルユリのじめじめHappy(?)New Year2023

     乾杯。その言葉と共に朱塗りの盃を掲げた。一口含めばふくよかな甘みとコクを感じる。普段口にする葡萄酒とはだいぶ違う味わいのこの酒は、このレヴィオンより更に東にある小さな島国の品だ。騎空艇グランサイファーの仲間たちから話を聞き、この年越しの為に漆の酒器と一緒に取り寄せたのだ。すっきりとした飲み口は成程新しい年を迎えるのにふさわしい清々しさで、思わず口元に笑みが浮かぶ。続けて二口、そして三口で器の中の酒をすべて飲み切れば、既に盃を空にした親友が機嫌良さそうにこちらを眺めているのが視界に映る。
    「美味いな」
     常日頃とはずいぶん違う、随分と気を抜いた笑顔だ。
    「親友殿、一口で飲んでしまったのかい?」
    「ああ、美味かったからな。それに俺は酒の作法に詳しくないし」
     でも酒は美味く飲むのが一番良いんじゃないか、なんて、今にも鼻歌を歌い出しそうな陽気さで言うものだから、ユリウスも苦笑しつつアルベールの意見に同意した。
    まあ、自身もこの東方の酒については全くの初心者だ。ひとまず基本的な作法だけ押さえてみたものの、それが本当に合っているかはわからない。それならばこの折角のめでたい日だ、好きに飲んでみるのが良いかもしれない。

     昨年の年越しは国の復興に追われてろくに新年を祝う暇もなかったが、国王オードリックの見事な手腕の元、今レヴィオンは着々と活気を取り戻している。今回こそはお二人もゆっくりして下さい、と笑顔で半強制的に齎された此度の休暇に当初は戸惑いも覚えたが、こんなにも心休まる時間を与えられたことには感謝しなければならない。休みが終わって職務に復帰次第、また精力的に働かねばとユリウスは心の中で誓う。
     しかし、とりあえず今はこの穏やかな時間を謳歌したい。酒の他にも手配したおこたに足を潜らせ、レヴィオンの銘酒と引き換えにローアイン達に用意してもらったおせち料理をアルベールと二人でつつく。控えめな甘みの伊達巻を咀嚼しながら、何と平和な事だろう、とぼんやり思いを巡らせる。
     こんなにも幸せな日々が訪れるなんて、今まで夢にも思わなかったのだ。己は生まれついての日陰の人間。この国の為に何か成したいと思えども、そんな機会も与えられることはなく。アルベールにひなたの当たるところに連れ出されて一時は救われたとも思ったが、その先に待っていたのは絶望の数々だった。
    もう己の命を擲つ他に国が生き延びる方法はないと覚悟したあの時、諦めなかったアルベールは強引に運命を捻じ曲げた。本当に、彼は真の英雄だった。国にとっても、そしてユリウスにとっても。
     そうして今に至り、温かな部屋でこうしてアルベールとまた年の始まりを過ごすことが出来ているのは正に奇跡だ。一体自分はどれだけ感謝すればいいのだろうか。そんなことを考えていたら知らず知らずの内に神妙な顔つきになっていたのだろう。こら、という声と共にアルベールの指がユリウスの眉間を優しい力で押さえた。
    「また何か難しいことでも考えているだろ」
     眉間の皺を伸ばすように彼の人差し指の腹で撫ぜられて、くすぐったいよ、とユリウスは首を振る。
    「違う、何でもないんだ、ただ。幸せだと思ってね」
    「幸せ?」
    「ああ。……皆の助けのおかげでこうして生きて、毎日を過ごすことが出来ているのがね」
    「ユリウス……」
     ユリウスの言葉にアルベールもまた表情を引き締める。それを見て慌てた。ああ、君にそんな顔をさせたかったんじゃない。何と言えばいいのだろうか、何故か今に限ってやけに働かない頭で思考する。
    「今回の休暇、本当に楽しみにしていたんだ。浮かれて、酒も料理も、ほら、おこたまで用意してしまうほどには。私が幸せになってもいいのだろうかと思っていた。でも今は幸せでいさせて欲しいと思っている。出来うるならば、この先もずっと毎年君とこうやって新年を過ごしたいと、そう思っているんだよ」
     なんてね、と眉を下げて笑うユリウスを、アルベールは未だ真剣な顔で見つめた。
    「出来うるならば、じゃない。この先も絶対に、だろ」
     アルベールのその言葉にユリウスは瞠目し、そして、そうだねと言いながら再び笑顔を見せた。寒空の下で健気に咲く白いツバキのようなその笑みに、アルベールも表情を緩ませる。二人の間にほんのりと温かい和やかな空気が流れたのも束の間、それを絶対零度に凍り付かせたのは、まさかのユリウスの一言だった。
    「まあ、そうだね。君に良い人が出来るまでは、こうやってご相伴に預かることが出来ると嬉しいよ」
     うふふと笑いださんばかりに上機嫌なユリウスのその言葉に、アルベールは固まった。良い人?誰に?俺に?しかもそれまでって、なんだそれ。
     何口目かの酒を口に含もうとした寸前で動かなくなってしまったアルベールに、ユリウスが気付いて親友殿?と声を掛ける。だが、どうにも目の前の彼の気配は先程までとは打って変わって不穏そのものだ。
    「……親友殿は、」
     アルベールの声の低さにユリウスはびくりと肩を跳ねさせる。
    「親友殿は、俺に良い人が出来たらもうこうして新年に酒を酌み交わしてくれないのか?」
    「それはそうだろう?まして新年は家族や恋人と過ごすことが一般的なのだし。だから、君にそういう人が出来るまでは私と一緒に過ごしてくれると嬉しいと、」
    「じゃあ、俺達もそういう風になろう、ユリウス」
    「……は?」
     ユリウスは笑顔のまま硬直した。二人の間に流れるしばしの沈黙。アルコールで通常よりふわふわ回る頭で彼の発言について思案したユリウスは、ハッと思い至る。もしや、アルベールは彼に意中の相手が出来るとユリウスが一人ぼっちになってしまうと考えたのではないだろうか、と。それは正に、少々自分に過保護すぎるきらいがあるアルベールの言い出しそうなことだと合点がいく。
     全く君って奴は。そう小さく苦笑しながらも、アルベールの想いに胸打たれる。何かしら不器用だけれど、相手を存分に思いやることの出来る彼の優しさがユリウスは嫌いではなかった。
    「親友殿、そう言ってくれるのは有り難いが、私は例え君と過ごせない時が来たとしても寂しくなどないよ。だって、君が永遠に離れて行ってしまうわけではないのだから」
     多少酔いも混じって先程のようなことを言い出したであろうアルベールに向かって、ユリウスは努めて穏やかに話しかける。君の気持ちは充分受け取ったよ、そう思いを込めるように。だが、当のアルベールはユリウスのその言葉を聞いて大きく目を見開いた。それはまるで、信じられないとでも言わんばかりの表情だった。
    「……お前は、淋しくないのか?」
    「え、」
    「俺は……淋しい」
     その瞬間、ユリウスの視界は反転した。目の前には赤い目を潤ませたアルベールの顔。後頭部がじんわりと痛みを訴える。両手首に感じる彼の手のひらの熱さを感じて、ようやく押し倒されたのだと理解した。ぽたぽたと落ちて来る水滴を己の頬が受け止める度に、ああ親友殿は泣き上戸だったのか、とか、ふかふかした絨毯を敷いてあって良かった、とか見当違いな事ばかりが頭を過るけれど。
    「俺は嫌だユリウス。そういう風になるのならお前が良い。他に良い人なんているわけもない。お前はいつもそうやって躱していくけれど俺はもう我慢がならないんだ。ユリウス、なあ、好きだ、好きだよ。いい加減見ないふりは止めてくれ」
     アルベールの言葉にユリウスはガンと頭を石で殴られたような衝撃を受けた。自分は完全に間違えたのだ。アルベールのことを分かっているつもりでいた。でもそれは単なる自身の驕りだった。彼の気持ちなんて何も知らなかったこの事実に息が出来ない程胸が詰まって仕方ない。

     ──ユリウスは以前、グランサイファーの副料理室であるラードゥガにて彼の天司長に出会ったことがある。ラードゥガの主である麗しいドラフに頼まれて新メニューの試作をしていた時だった。天司長とは思いの外話が弾み、その流れで出た話題だ。
    「言葉を交わすことは大事だ。何も話さなければ伝わらないことが山程あるからな」
     過去に悲しき離別をしたという彼の言葉をその時は何気なく聞いていたが、思えばそれは彼からのユリウスへの忠告だったのかもしれない。今になって思い出すなんて。ああ、そうだ。何も話さないで、自分の中で自己完結して、誰かの気持ちを疎かに扱って、己はなんて大馬鹿者だったのだろう。

    「ユリウス、お前は俺をどう思っている?俺は一生お前が隣に居ないと嫌だ。だから、どうか、気持ちに応えてくれ。ユリウス、頼むから」
     必死に想いを紡ぐアルベールを見つめながら、ユリウスは唇を戦慄かせるばかりで何も言葉に出来なかった。答えが何も見つからないのだ。ただひたすらに頬が火照り、心臓が早鐘を打ってずきずきと痛む。ただ浮かぶのは、これ以上彼の泣き顔を見ていられなくて、両腕でその頭をきつく抱きしめられたらという思いだけ。その心を突き動かす感情を何と呼ぶのか、未だユリウスにはわからないままだった。
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