ケツァルカトル、ククルカク「ケツァルはいい匂いがするな、太陽と大空の祝福を受けた暖かい匂いだ。」
ケ「‥やめろククルカ、今は鍛練中だ、汗をかいているんだぞ。」
ク「何故だ?兄弟に触れるのに今も後も関係ないだろう?俺が今触れたいと思ったからこうして触れている、それが悪いことなのか?」
ケ「そういうわけでは‥‥まあいい、休憩にしよう。俺は汗を流してくるがククルカ、お前はどうする?」
ク「水浴びか。勿論俺も行くぞ。
‥お前と二人で水遊びをするのは故郷を出て以来だな。」
ケ「フ、水遊びか。昔は毎日のようにしていたのが懐かしいな。」
ク「‥故郷でも俺がヒト型のときは一度も共に水遊びなどしたことはないがな。」
ケ「‥それは‥‥」
ク「いい加減慣れたらどうだ?確かにこの姿でいる時間はいつもの姿より遥かに短い。だがどちらも俺だ。ククルカだ。何を遠慮する必要があるんだ。」
ク「俺は普段の姿とこの姿の時とでお前の態度が明らかに違うのが気に入らない。なぜこの姿を嫌う?これは俺がお前とより近しくありたいと願った結果だというのに。」
ケ「嫌っているわけではない!それに俺にとってお前は大切な片割れだ、世界で一番近しい存在だと常々思っているぞ。」
ク「‥俺は鳥で、お前はヒトだ。
お前と同じ言語でお前と話したかった。お前の心ではなく耳に直接俺の声を聞かせたかった。嘴ではなく手でお前の頭を撫でたかった。鋭い爪ではなくヒトの柔らかい肌でお前に触れたかった。
今それが全て簡単に叶うはずなのに、肝心のお前に避けられる、この気持ちがわかるか?」
ケ「違う、違うぞククルカ、本当に俺はお前を嫌い避けているわけではないのだ!!」
ケ「俺はお前の煌々と輝く黄金の瞳が好きだ。洞察力、勘、集中力、何をとっても一流のお前が狩りをしている姿を見るのが好きだ。悲しいとき、嬉しいときにころころとかわる表情が好きだ。
この気持ちとこんなに素晴らしい兄弟を持てて誇らしい気持ち、変わらぬ友愛の情、全て引っくるめて俺はお前を愛おしく、大切な存在だと思っている。」
ケ「ヒトのお前ももちろんそうだ…それは分かっている···。···しかし普段とは違った感情も抱いているのだ、俺はその感情をうまく言葉で表現できない。表現できないことはどう行動で示せばいいかもわからない‥。」
ク「…兄弟、その感情は俺がヒトの姿の俺に託した感情と同じものだろう。お前の言葉を借りるなら俺にとってもお前は堪らなく愛おしく大切な存在だ。
俺たちは互いを思い慈しみ、怒り、喜び、悲しみ…たくさんの感情を分かち合ってきた。俺たちの間には誰よりも強く、深い絆がある。言葉では表せずとも俺たちの心では既に解りあっているはずだ。」
ケ「…そうだな…。そうだ。確かにお前の言う通りだ。俺もお前に習い言葉で行動を律するのではなく、心に従うとしよう…。」
ク「わかればそれでいい。
俺は今まで心に従い生きてきた。これからもそうして生きていく。…俺の心は今お前との水遊びを求めているが、どうだケツァル、そろそろする気になったか?」
ケ「フフ…ああ…そうだな。鍛練は一旦中断して、久しぶりのお前との水遊びを楽しむとするか。」
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ケ「故郷のように外で水遊びは人目を引いてしまうからな…浴場にでも行くか。」
ク「なに!?太陽を浴びながら冷たい水で遊ぶのが水遊びの醍醐味だろう!?」