鬼樹、ネオある、キンと冷えた早朝、まだ人気のない公園の並木道を二人の男が歩いていた。
「…寒いねぇ。」
「…冬なのにそんな薄着で出歩いてるお前が悪い。」
「アハハ、やっぱり?」
ハァッ、と、長身の男はその痩身をいっそう縮こませ真っ白な息をかじかんだ両手に吐きかける。
傍らの金髪の男はポケットに手をつっこみマフラーにしっかり顔をうずめ、それでもやや不機嫌そうな顔をして、隣の頼りない長身に寄り添うように歩いている。
数秒の沈黙の後、再び長身の男が口を開いた。
「…ねぇ鬼樹、僕ね、死ぬならこんな朝がいいなあ。」
男は後天性の虚弱体質だった。
幼い頃受けた実験と薬品投与が原因だが、今更どうすることも出来ず、医者もとうにさじを投げていた。
「いきなり何言い出すかと思えば…!めったなこと言ってんじゃねえよ!」
鬼樹と呼ばれた男は整った顔をきっと歪ませ、傍らの長身、ネオに鋭い視線をぶつけた。だが、そんなものまるで慣れっことでもいうようにネオはふわりと笑い肩をすくめた。
「…最期くらいね、目が覚めるくらい冴えきった空気の中で大好きな太陽の光を目一杯浴びながらさ、大好きな鬼樹の側で死にたいんだ。」
こんな僕でもそれくらいの我が儘なら許されるでしょ、と寂しげに目を細める。
日光を受け付けない彼の身体はこんな散歩程度でも酷く弱る。それを自覚していながらもネオは散歩を日課とし、他にも何かと理由をつけては毎日せっせと日光を浴びに外に出て行く。
鬼樹には、それが彼なりの贖罪に見えて仕方なかった。
だがそれを指摘するほど鬼樹は愚かな男ではなかったし、見過ごすほどネオの存在を軽んじているわけでもなかった。
こんな時ほど自分が無力だと思い知らされることはないと鬼樹は独りごちる。
黙って側にいてやることしか出来ない憤りを露わにするわけにもいかず、マフラーに顔をうずめたまま、ポケットの中でさまよう己の掌に爪を立てた。
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鬼樹にとってネオは最も近しい存在で、彼の苦悩を知り尽くしているからこそ、何も言えなくて一人で抱え込む
ネオは鬼樹が寂しい顔するのは分かってるけど不安で押し潰されそうなときはついつい口に出してしまい、後で物凄く後悔する