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    2024/12/1DRFesでの無配の再録です。
    2024年の夏のばふぱにて公開したお話を加筆修正しまくりました。
    宜しくお願いします!

    素直じゃないファーストキス その時、オレの唇に柔らかい感触を感じた。

    ***

     何てことない昼休みだった。いつも通り二人で空き教室で昼メシを食って、くだらないこと駄弁って、千冬がケータイで撮ったペケJの写真を一緒に見て。昼休みだからキッチリ結んでいた髪をほどきメガネも外して、オレはリラックスしていた。
     床に並んで座っている千冬の手元にある小さい画面を覗き込もうとした拍子に、オレの髪が肩からするりと流れて落ちた。それが千冬の手に当たり、くすぐったようだ。「くすぐってぇ~」とキャハハと笑い暴れるように左右に動くから、今度は千冬のふわふわの金髪がオレの首元をくすぐった。オレも「くすぐってぇ」と笑いながらお返しに千冬のわき腹をくすぐると、ツボに入ったのか千冬はすっげぇくすぐったそうにした。横にずれてオレの手から逃れようとするから、オレは更に追いかけてくすぐってやった。千冬もくすぐられて笑いながらオレをくすぐり返す。それが何だか面白くなって二人してくすぐり合う。オレは本当にリラックスしていたのだ。
    「うわっ⁉」
     そんな感じでふざけ合っていたら千冬がバランスを崩して床に転がって、オレも一緒になってバランスを崩して千冬の上に倒れこんだ。
    「え……?」
     ほんの一瞬だった。
     倒れこんだ拍子に口に何か柔らかいモンが触った。
     リラックスしていたところに不意打ちで起こったことだった。それが何なのか。状況が分かってくるとオレの下でみるみるうちに顔を赤くする千冬に、柄にもなくオレは狼狽えた。
    「あ、えっと、ば、ばじさん……い、今……」
     空き教室の床の上で、さっきまでくすぐり合っていたからお互いに少し制服も乱れていて。オレは千冬を押し倒しているような体勢で。
     ほっぺたを赤くして、目をうるうるとさせて、オレを見る千冬があまりにも、なんつーか、その、アレで。いや何を考えてんだオレ。
     グルグル回る頭ん中にオレはいっぱいいっぱいで、つまりドーヨーしまくっていた。だから、ついこの言葉が口から飛び出した。
    「あ⁉ 何もねぇ!」
    「え⁉ でも」
     一瞬とはいえ、確かにオレの口と千冬の口はぶつかった……のかもしれない。でもそれは気のせいだ。気のせいなら、何でもなかったことと同じことだ。……ムジュンしてるって誰かに言われそうだけど、そもそもこのことを話さなければそんなツッコミをされない。だからオレはオレの下にいる千冬に「何もなかった」と言い張る。
    「オレの言うことが聞けねぇのか、千冬」
    「い、いえ……」
     脅しているようなものかもしれないが、オレは今更言い張ったことを曲げるつもりはなかった。さっきのアレは何もなかったんだ。そう思い込むことでやっとオレはドーヨーから落ち着いてきた。千冬の上に覆いかぶさったままだった体勢も起こし、床に座り直す。千冬もノロノロと起き上がって、ふざけ合う前と同じオレの隣に座り直す。
    「……」
    「……」
     沈黙が落ちる。何か話すことはないかと頭を回してみたが、話題が何も出てこない。いつもなら話すことが尽きないのに。そっと隣を窺うとほっぺたを赤くしたままの千冬も話題を探すように視線をさまよわせている。うるうるさせたままの目で、何か言いたそうに口をもごもごさせていて……。
     な、なんだよ。そんな変な顔すンな。
     思わず、遠ざけるように手でグイっと千冬の横っ面を押す。すぐ隣でその顔を見ていると、なんつーか、腹の下の方がモヤモヤするような気がしたのだ。オレに押し退けられた千冬は不思議そうにオレを見て「場地さん?」なんて言う。その顔と声が……いや、何とも思ってねぇ。
     そんなことしているとちょうどいいタイミングで予鈴 チャイムが鳴った。
    「あー……。教室もどっか」
     千冬の顔をこれ以上見ないように立ち上がり、下ろしていた髪をサッとまとめ直すとメガネをかけ、先に空き教室を出る。数歩後ろで千冬も教室を出た気配を感じ、オレは千冬に背を向けたまま手を振る。
    「んじゃ、またあとでな」
     そして千冬の視線から逃げるようにそそくさと自分の教室に戻り、席についた。千冬から離れても何となくまだソワソワする。こういう時、クラスが違くて良かった。千冬は同じクラスになりたがっていたけど。来年のクラス替えでも千冬は大騒ぎをしそうだ。
     ……って、ダメだ。結局千冬のことを考えてしまう。気をそらす為に違うことを考えた方がいいだろう。そうだ、教科書とノートを用意しよう。次の授業はなんだったか、掲示されている時間割りをぼうっと見ていると、ふいにさっきの光景が頭に出てきた。
     オレの下で顔を赤くして、熱っぽい目でオレを見る千冬。ピンク色の唇が何かのフルーツみたいで――……。
     ガンッ! と大きな音を立てて俺は自分の額を思い切り机にぶつける。オレは今、何を考えた? 一度だけではなく何度か額を机に打ち付けて考えていたことを追い出そうとする。本鈴が鳴るまで思い思いに喋っていたクラスの連中が驚いてシンと静かになっていたが、オレはそれどころじゃない。オレの唇に触った柔らかな何かを思い出してしまい、今度は顔が熱くなる。いや違う、オレの口は何も触っていない。そう言い聞かせたはずだ。決して千冬の柔らかいくち……いやいや、だから違ぇって。
    「ば、場地くん……大丈夫かね……? もうすぐ先生が来るよ」
     御手洗が声をかけてくれたから「ダイジョーブ」とだけ返す。本当に大丈夫なのかはさておき、ってだから千冬とは何もなかっただろ⁉
     この後、御手洗の言う通りセンセーがきたから変な考えを無理矢理追いやって授業を受けたけど、集中できなくて内容は全く頭に入ってこなかった。まあ、集中しても内容なんて理解できないけど。
     どこかソワソワした状態のまま帰りのホームルームを過ごしていたら、そんなオレに担任のセンセーは居残りを命じてホームルームを終わらせた。今日は千冬と猫の集会を見に行く約束をしていたのに。……あれ、その約束は有効だよな? 何もなかったんだから有効だよな?
    「……場地さん」
     オレが悩んでいたのを他所に、先にホームルームが終わったらしい千冬がひょこっと後ろのドアから顔を出した。たったそれだけなのに、ものすごく千冬がか……ッいや、いつもと変わらない千冬……のはずだ。昼休みにあったことなんて何もなかったかのようにふるまっている……ように見える。オレの言うことをちゃんと……珍しく聞いている。
     よしよしと思いながらオレは千冬の元に行き、予定の変更を伝える。
    「わり、オレ今日は居残りだとよ」
    「……いつものことっスよね」
     呆れたような声で千冬はツッコミを入れる。一緒に過ごす時間が増えてお互い遠慮がなくなってきた。千冬は最近、時々ナマイキなことを言うようになった。
    「あーん? なんか言ったか?」
     でも、それも千冬が近づいたようでオレは嬉しいと思っていた。わざらしいくらい不機嫌な調子で言い返し、フワフワの金髪の頭を撫でようと手を伸ばす。千冬の頭にもうすぐ触れるというところで、なぜか千冬の肩はぴくんと震えた。
    「えっと……それならオレ、今日は母ちゃんから買い物を頼まれてんで……先に帰ります!」
    「え、あ、は」
    「お疲れさまっした!」
     そして千冬はオレの手から逃げるように自慢の俊足で廊下を駆け抜けていった。
     え、なんで……? 今日の朝、帰りに予定はなんもないからって猫の集会を見に行こうって誘ったのは千冬だ。母親からの頼まれごとなんてなかっただろう。それに、いつもだったらオレが居残りすると一緒に残って課題を手伝ってくれるのに。
     なんで千冬がオレの手からすり抜けていったのか、原因なんて一つしか思い浮かばねぇ。いつもと変わらない千冬とか思っていた、さっきのオレは一体何を見ていたんだ。でも、千冬がいつもと違うと分かってもオレはどうしたらいいのか全く分からない。オレは深くため息をついた。

     次の日、オレはいつもより早く家を出た。特に約束している訳ではないけど、毎朝一番下のポストの前で待っている千冬と一緒に登校している。でも、昨日オレの手から逃げていく千冬を見て、もしかして今日はオレのことを待っていないんじゃないかと思ったのだ。昨日の夜だって、いつも千冬からくるどうでもいいメールがこなかった。……いやそんなまさか。
     らしくないほど落ち着かないオレにオフクロもさっさと行けとばかりに蹴りを入れてきた。そんなこともあっていつもより早く家を出たのだけど。
    「……いねぇ……よな」
     階段を降りるといつも見える金髪がなくてオレは肩を落とす。いやでも、いつもより早い時間だからまだ千冬も家を出ていないのかもしれない。そう思い直してしばらく待ってみる。来なかったらどうしよう、とか。先に行っているなんてないよな、とか。ただ待っているだけだと、ごちゃごちゃ変なことを考えちまう。
    「え……場地さん?」
     どれくらい待ったのか、短いような長いようなそんな時間を過ごしていたら上から名前を呼ばれる。
    「千冬」
     昨日ぶりに会った千冬にオレの表情は自然と緩んだことで、今まで強ばっていたことに気がつく。千冬は階段を一気に下りてオレの隣に来るといつも通り元気よくあいさつした。
    「おはようございます! え、え、どうしたんスか? 今日めっちゃ早いじゃないっスか」
    「はよ。オフクロにさっさと行けと蹴られたんだワ。マジで朝からありえねぇー」
    「涼子さん、朝から元気っスね……」
     そんな話をしながらいつもと同じように千冬と横に並んで通学路を歩く。話題は歩いているうちに東卍のメンバーの話になる。タケミチがどうとか、ドラケンやら三ツ谷やら、一虎がどうでアツシがどうとか。いつもと同じくだらない話だ。
     良かった。千冬がオレの隣にいる。
     オレは安心して、千冬の頭を思い切り撫でた。

     そんなちょっとした事件からしばらく経って、オレはとあることに悩まされている。
     最近ずっと千冬のことが……その、アレだ、アレ。アレだよ、アレ。
     千冬のことはワンコみたいにオレの後ろをついて回っているのに、でもすっげぇ前向きなヤツで、そんなところがカッケェなと思っている。千冬にはハズイからオレの思っていること絶対言わねぇけど。それなのに、最近はずっとかわ……いやいや。アレだ、アレ。ワンコの頭を撫でたくなるような気持ち。そう、そんな気持ちだ。
     千冬がそんな風に見えるようになって、オレはどうしたらいいのか分からない。しかも、それだけではなく千冬の唇がやたら目につく。ピンク色の桃みたいに甘そうで歯を立てたら柔らかそうで。思わずごくりと喉が鳴る。
     オレの隣でいつもと変わらず笑っていてくれる千冬の頭を撫でるだけじゃ足りなくて、モンモンとしている。マジでオレらしくねぇ。

     千冬のことでモンモンとしながらも、毎日の学校は時間割通り進んでいく。次の授業は何だったか確認して、教科書を取り出そうとしたところでオレは小さく舌打ちをした。
    「チッ、昨日千冬と勉強したからそのまんまだワ……」
     自分の部屋の机の上に教科書を忘れてきたことに気がつく。もうすぐテストだからと珍しくテスト勉強というものをしたら忘れたのだ。いつもと違うことをするもんじゃねぇ。仕方ないから教科書を他のクラスの誰かに借りようとオレは席を立った。
     他のクラスの誰かというと真っ先に思い浮かべるのは千冬だ。千冬に教科書を借りようと思い、廊下を歩いて目的の教室を目指す。しばらく歩くと辿り着いたそこで千冬を呼ぼうと教室の後ろから中をのぞくと、ふわふわと揺れる金髪は直ぐに見つかった。
    「ちふ……」
     声を掛けようとしたが、よく見ると千冬を中心にクラスの女子が何人か集まって話をしているようだ。何の話をしているのか聞こえないけど、何やら盛り上がっている。千冬は少女漫画が好きとかで、女子と話が合う。オレのいない所でも千冬は楽しそうだ。そんな千冬を見ているだけでオレは何もできない。千冬はずっとオレの隣にいるもんだと思っていた。でも、オレがいなくても大丈夫と言うように千冬は一人で笑っている。
     教科書は千冬じゃなくて違う誰かに借りようと教室を離れようとしたが、オレの存在に気づいた千冬が寄ってきた。
    「場地さん! どうしたんスか?」
     楽しそうに話していたのに。オレがいなくても大丈夫なのかと思ったのに。オレに気付いてオレを優先する千冬に思わず顔が緩みそうになる。更にオレの名前を形作る唇がやたらテカテカして見えて、皮をむいた桃みたいだと思ってついジロジロ見てしまう。何だか甘い桃の匂いまでするようだ。
    「あ……国語の教科書、貸してくんねぇ?」
    「国語っスね! ちょっと待っててください!」
     何とか桃の匂いを振り切って用件を切り出すと千冬はぱっと笑って応えてくれる。そして素早くロッカーから国語の教科書を取り出し、あっという間に持って来た。
    「すんません、ちょっと落書きしちゃってんスけど。気にしないでください!」
    「ん。ありがとう」
     この千冬とのやり取りだけでも楽しくて、今度こそオレの顔は緩んだと思う。
     教科書を持って自分の教室に戻るとちょうどチャイムが鳴った。席について国語の教科書を開くと千冬の字で書き込みやら絵が描いてあったり、思わず小さく笑う。
     ――いい加減、素直に認める。千冬が可愛い。
     ずっと可愛いと思うことを認めずにいたけど、もう無理だ。だって、ものすごく千冬が可愛い。毎日毎日、可愛いを更新していく千冬にオレは自分をごまかすことがもうできねぇ。それに、千冬のことを可愛いと思うのは千冬のことが好きだからだ。好きだって思う気持ちを止められない。オレの意思なんて関係なくて、心が勝手に千冬を求めている。
     オレは千冬が隣にいることが当たり前だと思っていて、あのことが原因でオレの隣からいなくなるのが嫌だった。あのこと、あの時のキス。千冬は純粋にオレのことを慕ってくれているけど、それは尊敬するセンパイとしてで、好きとか恋人としてではないのだ。それなのにオレとキスをしちまって、気まずかったと思う。気まずさで避けるようになって、そのまま離れていく。千冬は真っすぐに前向きで可愛いヤツだ。オレがいない所でも楽しくやっていける。それが分かっていたからオレは無自覚でも「何もなかった」と千冬に言い聞かせてキスのことをなかったことにしようとした。そうすれば千冬は隣にいてくれると、オレに繋ぎとめられると思ったのだ。
     色々ごちゃごちゃやっていてオレらしくねぇし、すっげぇダセェ。千冬がカッケェって言ってくれたオレがどんなオレか、正直分からないけど。それでも、カッケェと思えるオレでいたい。オレはグッと拳を握った。

     千冬にちゃんとオレの気持ちを話そうとしたのに、いつの間にか放課後になっていた。いや、オレが日和ったとかそんなんじゃねぇ。話そうとしてもタイミングつーものがあるんだよ。そう、オレはタイミングを見ていただけだ。決して日和っている訳ではない。
     今日はセンセーから居残りを言われなかったから、いつも通りオレは千冬と一緒に帰れる。嬉しい気持ちと、さっき自覚したばっかの自分の気持ちでオレはソワソワしてしまう。しかも、千冬にちゃんと話そうと思っているから尚更だ。迎えに来た千冬とソワソワしたまま下校する。校門を出たばかり……はさすがに他の人も多いし、ここで話す内容じゃねぇ。途中の公園……は今の時間、近所の小学生のガキどもが騒いでいるからそこで話すのはちょっと。
     帰り道の途中いつ話そうかタイミングを見ていたら、今度はいつの間にか団地の前まで来ていた。日和っている……訳じゃねぇ。こうなったら明日でも……。
     いや、もうさすがに腹くくれ。オレはグッと拳を握って話し出す。
    「……千冬ぅ。あのさ」
    「はい、なんスか」
     少し首を傾げてオレを見る千冬が可愛い……じゃなくて。千冬に見えないように息を吸って、細く吐き出して緊張を紛らわす。オレがこのことを話したら千冬はオレから離れていくかもしんねぇ。でもそれ以上に、千冬を他の誰かに捕られる方が嫌だった。
    「あの、オレが何もなかったって言ったやつ、変なこと言って悪かった……」
    「え……?」
     急に言い出したオレに千冬は戸惑いながらも話を聞いてくれる。
    「あれのせいで、千冬がオレの隣からいなくなるのが嫌だと思ったんだワ」
     オレを見上げる千冬を真っ直ぐ見つめ返して、伝える。声が少し震えているかもしんねぇけど、もう後戻りはできない。ごくんと息を飲み込む。
    「なぁ、あれ……なかったって言ったやつ。やっぱナシにしていい?」
     こんな都合のいいことを言い出すオレに千冬がどんな反応をするのか。千冬を窺っていると、はぁとため息が聞こえた。
    「……場地さん、勝手っス。何もなかったって言って、いつも通りにしようとして。……そんなん、オレには無理なのに」
    「わ、わりぃ……」
    「でも、オレばっか変に意識して、そのせいで気まずくなって、場地さんがオレから離れていく方がもっと嫌だったんで……。オ、オレ、すっげぇ頑張っていつも通りの千冬で……」
     顔を真っ赤にして、怒っているのに泣きそうな顔をしている千冬に胸がぎゅっと痛んだ。オレは自分のことばっかり考えていた。
    「今更、ナシにしていい? ってどういうことですか。オレは嫌です」
     だから、千冬がこう言うのも仕方がないのだ。オレは本当にバカだなと心の底から呆れる。落ち込んで、胸に溜まったものをため息と吐き出そうとした時。
    「あの時のあれは事故です。気持ちが何も通じ合っていなかったので、事故は事故なんです。オレはあれをファーストキスにするのは、……嫌です」
     続く、千冬の主張にオレは思わず目を見開く。顔を真っ赤にしたまま、そんなこと言う千冬が可愛くて。オレは千冬の隣にいてもいいのか。オレはそっと千冬の頬に手を伸ばして、桃のようだと思った唇に自分の唇を近づける。
    「それなら、やり直していい?」
    「……それを今聞くんスか」
     お互いの吐息がかかる至近距離で、もっと近づいてもいいか確認する。頷く代わりに千冬は僅かにあったオレたちの距離をゼロにした。ふわっと柔らかい感触。ちょっと触れただけなのになぜか甘く感じて、離れていく唇を今度はオレが追いかけてしっかりと触れ合わせる。唇を合わせているだけでオレの中から千冬への気持ちが溢れてくる感覚がする。
    「千冬、好きだ」
    「……オレも場地さんが好き」
     唇を少しだけ離して、溢れる気持ちをそのまま千冬にぶつけると千冬も気持ちをぶつけてきた。そして「言うの遅いっスよ」と文句を言いながら千冬からキスを仕掛けてくる。オレは千冬からのキスを素直に受け止め、その唇の感触をしっかりと心に刻み込んだ。
     
     遠回りをしたと思う。素直じゃなくて、わりぃ。
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    utpr_hinabinahi

    PAST2024/12/1DRFesでの無配の再録です。
    2024年の夏のばふぱにて公開したお話を加筆修正しまくりました。
    宜しくお願いします!
    素直じゃないファーストキス その時、オレの唇に柔らかい感触を感じた。

    ***

     何てことない昼休みだった。いつも通り二人で空き教室で昼メシを食って、くだらないこと駄弁って、千冬がケータイで撮ったペケJの写真を一緒に見て。昼休みだからキッチリ結んでいた髪をほどきメガネも外して、オレはリラックスしていた。
     床に並んで座っている千冬の手元にある小さい画面を覗き込もうとした拍子に、オレの髪が肩からするりと流れて落ちた。それが千冬の手に当たり、くすぐったようだ。「くすぐってぇ~」とキャハハと笑い暴れるように左右に動くから、今度は千冬のふわふわの金髪がオレの首元をくすぐった。オレも「くすぐってぇ」と笑いながらお返しに千冬のわき腹をくすぐると、ツボに入ったのか千冬はすっげぇくすぐったそうにした。横にずれてオレの手から逃れようとするから、オレは更に追いかけてくすぐってやった。千冬もくすぐられて笑いながらオレをくすぐり返す。それが何だか面白くなって二人してくすぐり合う。オレは本当にリラックスしていたのだ。
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    utpr_hinabinahi

    PAST2024年5月4日スパコミの新刊だった「オレの瞳をみて、恋をして」の本編に入らなかった後日談です。当時の無配でした。
    本編もクロスオーバーしましたが、こちらのお話もクロスオーバーしています。
    (うたプリのカルナイ緑担当のお兄さん)(このキャラについて知らなくても大丈夫です)(脳内再生のCVは森●保さんでお願いします)
    少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
    オレの瞳をみて、恋をして〜本編には入らなかったおまけ〜 今日も元気いっぱいに千冬は握り拳を雄々しく天井に突き上げる。
    「よっしゃぁ! 今日はリベンジだ!」
     本人の気合は十分である。千冬の後ろでは場地がパイプ椅子に座り、頬杖をついて千冬を静かに見守っている。これから場地と千冬はスノウキャットとしてクイズバラエティ番組に出演するので、千冬は控え室で準備体操のストレッチをしていた。因みにクイズで体を動かすことは無いから、ストレッチは千冬の気分的なものだ。そもそもなぜリベンジなのかというと、この番組は以前出演する予定だったのだが千冬は体調を崩し欠席したのだ。
    「場地さん! 今日は任せてください! 松野千冬、全力で場地さんをサポートします!」
     くるっとターンを決めてから場地の方を向いた千冬の太陽のような笑顔が眩しくて場地は思わず目を細めた。
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