和風AUゴルレ外の国からの文明が持ち込まれみるみる発展していく都とは反対に、そんな慌ただしい世間から隔離されたかのような田舎の山中にその村はある。
季節によって姿を変える山々に育つ生命。草花や稲穂が実る豊かな土地に清浄な川。
自然からいただいた恵みに感謝し、共存する事で村民は暮らしてゆける。
そんな村に働き者で気っ風の良い青年がいた。
名はゴールド。
このゴールドという男は根っからのお人好しで、困っている者がいたなら己の損得を考えずに手を差し伸べる。
村の貴重な働き手としてあらゆる仕事をこなす他、村に産まれたややの子守りもしたし、怪我をして動けぬ者の代わりに生活を手助けもする。果てには村を通りがかった腹を空かせた者にも食べ物を分けてやるなど何かと率先して人助けをしていた。
そんな男なので村民には一目置かれており、彼の周りには自然と人が集まった。
彼に助けられてその人格に惚れ込んだ者、彼の人懐っこい笑顔に惹きつけられた者と様々だ。
以前手助けしてやった年嵩の夫婦には大層気に入られ、うちの娘を嫁に貰って欲しいとまで言われて当の本人は困惑した事もある。
村の生まれでは珍しくゴールドは頭も切れて力も強く顔も整っているのに加えて、早くに家族を亡くし独り身であった為に年頃の村の女に惚れられ迫られる事がしばしばあった。
しかしゴールドはいずれも首を縦には振らなかったそうだ。どうして身を固めぬのかと一度誰かが聞いたらしい。お前ほどの男なら妻子を養っていける器量もあるだろうに、と。
その言葉にゴールドはただ曖昧に飄々と笑うだけであった。
まだゴールドがやんちゃな少年だった頃。
まだ存命であった家族の庇護のもと育っていた頃。
山に入り込むのが危険だというのは重々承知ではあったが、さすがに子どもながらの好奇心には勝てずに度々散策を繰り返していた。
その日もゴールドは大人の目を盗んで森の奥深くへと進んでいく。迷わぬようにと目印を付けたいつもの道をゴールドが歩いていくと開けた場所に出た。
はて、今まで散策した中でこんな場所に出た事は一度もないとゴールドは首を傾げる。
先程まで聴こえていた鳥の鳴き声や風の音、川のせせらぎまでもがピタッと止んでいるのに気づいた。
草木が生い茂る森の中で不自然に開けた場所の中心には、木漏れ日に照らされている苔むした石祠がぽつんとあった。
静謐な空気が辺りを包んでいる。
不安になったゴールドは元来た道を振り返る。
「……だれ」
「!!!」
声がしてもう一度石祠の方へ目を向ける。人の気配など感じなかったはずなのに石祠の前にそれはいた。
病的なまでに白い肌に烏羽色の瞳と髪。白い装束に身を包み佇む姿はこの場で異質でありながらも、しかし美しい青年にゴールドは心を奪われた。
言葉を失うゴールドに、その人は一歩ずつ歩み寄る。ふとゴールドは彼の着物の裾や草鞋が一切汚れていないのに気づいた。
「もしかして神さま……?」
「へえ…一目で僕の正体を見抜けた人は初めてだよ。賢い子だね」
ゴールドの目の前まで来た青年はほんの僅かに口端を動かし笑う。
「ここに人が迷い込むなんて久しぶりだな」
「えっ!!ここでずっとひとりだったのか?」
「まあ神様はそういうものというか…ひとりは慣れてる」
無表情にぽつりと呟いた彼はどこか寂しげに見えた。
「というか驚くところそこなんだ?ここへ辿り着いた人の子は僕が姿を現せば大体驚いて直ぐに逃げていったものだけど。逃げるどころか僕とこうして話すなんてさ、変わり者だろキミ」
「……否定できねえ」
青年は堪えきれずにふふふ、と口元に手を添え微笑む。
「きれいだ」
頭で考えるより先に口から漏れ出たゴールドの言葉に一層笑みが深まった。
「キミ、名は?」
「ゴールド」
「…ゴールド、良い名だね」
「あんたは?」
「僕はレッド」
この山の守り神さ。