甘い炭酸飲料はもう飲まない 春は「春ってだけでワクワクするよなー」って肩組んでよ、夏は「暑くてもう動けない」って寄っかかってさ、秋は「食欲の秋だ!」って肉まん半分こしてさ、冬は「指冷えるとトス上げらんなくなっちゃうから大変!」って手を握ってさ。それでいて、「お前ら付き合ってんの?」って聞けば、「何で?」だって。
誰の話かって?
木兎と赤葦の話に決まってるだろ!!
そんで、これをずっと見てきた俺の話しを聞いてほしい。
「ゆきっぺ、それ新しいお菓子じゃん!ちょっとちょうだい」
バレー部では主将の木兎だが、本来の末っ子気質で甘えるのが上手い。それもわかってて主将にしたからいいんだけど。部室でミーティングと言う名のお菓子タイムで食べ物に厳しい白福は「3倍返しね〜」とお菓子を分けた。すると、木兎は1つではなく2つ掴み取った。
「おい、木兎、1つにしろよ、後が怖いんだから」
「違うよ、これは赤葦の分。おーい、赤葦ー!この前、話してた新しいお菓子!ゆきっぺが持ってたぞー!」
木兎が赤葦を呼ぶ横で、白福が俺の足を「怖いって何よ?」と言いながら蹴ってきた。そういうとこだよ!
「白福さん、ありがとうございます」
「いいの、いいの!木兎と木葉に後でまた買ってもらうから」
礼儀正しい赤葦は3年マネージャーたちもお気に入りなので、赤葦には甘い。俺が食ってないのにカウントされたのは納得いかないけど。
そして、納得いかないといえば、2人のお菓子の食べ方。木兎が手に持ったままのお菓子を、赤葦は両手が空いてるにも関わらずそのまま顔を近づけて直接食べた。木兎の指まで食いそうだけど?
「美味しいですね」
赤葦は「よく何考えてるかわからない。って、言われるんです」なんて言うけど、バレー部のメンバーはそんな事は思わない。赤葦はいつもの倍くらい目を大きく広げて喜んだ。
「だろ〜?」
木兎も眉毛も目尻もでろでろに溶けたみたいな顔してる。いや、用意したのお前じゃないけど。
こんな終始イチャイチャしてるのに『自称・付き合ってない』2人だが、面倒なことに実は2人ともモテる。
2人とも背は高いし、全国大会にも出場してる運動部の主将と副主将。俺は何度も女子から「木兎って彼女いる?」「いつも木兎と一緒にいる2年の連絡先教えてよ」とか言われてるんだよ。それで、毎回「ダメダメ、あいつ好きなヤツいるから」「付き合ってはいないみたいだけど、でも無理。他の人には興味なそうだから」って断ってる。あ、これ同じこと小見やんもやってるから。
そんなのをさ、2年間、近くで見てきたわけ。俺の予想だと、木兎が卒業式に告るかと思ってたんだけど。アイツは結局「またな!」と爽やかな先輩風に去っていった。その2日後くらいには2人で遊んだらしいし。赤葦の隣で「また一緒にバレーしましょう!」「活躍楽しみにしてます!」と、泣いてた尾長たち1年の涙返しやがれ!
で、ここまでは過去の話し。これからは、今の話をしよう。
「え? 知ってたの? いつから?」
俺を呼び出した木兎は最初はダラダラと近況報告をしていたが、なんだかそわそわしてる。「何かあった?」と聞けば真っ赤な顔して「俺、赤葦が好きんなんだ」なんて言い始めたのだ。俺は「知ってる」と一言だけ返した。
「いつかって言うか〜、気付かれないと思ってた方が不思議だろ?」
「気付かれないっていうか、ジカク? したの最近なんだもん」
190センチ超えたスポーツ選手がもじもじしてるのは、正直気持ち悪いが、俺は「木兎だし」で済ましてしまう。
「つか何で、今更? しかも俺に言うわけ?」
「だって、赤葦がこの前、木葉と2人で飲んだっていうから。何の話ししたのかと思って。赤葦、俺の話しとかしてた?」
木兎は相変わらずもじもじしながら、背中を丸めて俺を上目遣いで見た。恐ろしいことに、これを見ると「仕方ないな」って気持ちになってしまう。
「まぁ、してたよ。木兎の話。試合観に行って、格好良かったって話しとか」
「格好良かったって話しとか? 後は?」
今度は勢いよく、身を乗り出してきた。不思議な事にこの男、初めて会った時から目が全く曇らない。大人になっても何も黒いものを見てこなかったかのようだ。イヤミな上司や先輩、理不尽な客、そういうのも全部照らすくらい眩しいから、黒いものを寄せ付けないのだろう。俺はうっかり、赤葦からされた話しをしてしまいそうになるが、少し照れながら「木兎さんには内緒にしてください」と言った赤葦の顔を思い出した。
「後はまぁ、仕事の話しとかだよ」
「そっか〜」
木兎は再び席に座ると、烏龍茶を飲んだ。学生時代、甘い炭酸飲料をガブガブ飲んでいたこの男も今や、国を代表するスポーツ選手だ。もう、甘い炭酸飲料は飲まないらしい。俺は、烏龍茶のグラスを回して、氷をカラカラ鳴らす木兎を見ながら、先日の赤葦を思い出した。
「俺、木兎さんより好きな人ができないと思うので、恋愛も結婚も諦めました」
「一番のファンとして応援できれば、それで」
一応、自覚した木兎に対して、赤葦はまだ自覚すら怪しいが。俺にはお互いが特別に思ってることは、もう昔からずっと知ってるけど。深くため息をついて、木兎に発破をかける。
「赤葦、仕事頑張る人ってカッコいいと思います。って、言ってたし、オマケに大のバレー馬鹿だ。次のシーズン大活躍すればお前にもチャンスあるんじゃね?」
「おぉ! 頑張る!!」
次に俺が「お前ら付き合ってんの?」って聞いたら「うん」って言えよ。俺もヒマじゃないんだからな!