永遠のバタバタと、廊下を走る音が聞こえてくる。こんな足音を立てる忍がいるのか?と思うほどの大きさだ。
バン!
更に大きな音がして、扉が開かれた。
『ガイ先生の意識が戻ったそうです!』
山のように積まれた書類に目を通し、ひたすらサインをし続けていた俺は雷に打たれたように顔を上げた。声のした方に目を向けると、息を切らし、今にも泣きそうな顔をしたシカマルの姿がそこにあった。
『…ああ、そう』
いつも通り、表面上にこやかな笑みを浮かべて、俺は再び視線を机の上の書類へと落とした。
『ああそう、って?六代目!?俺の言ったこと聞こえてました?』
『聞こえてたよ…』
視覚は、情報としては全く脳に入ってこなかった。
『会いに行かないんスか!?』
『ん…そだね…』
そう答えた俺の、ペンを持つ手は、自分でも驚くくらいブルブルと震えていた。
これはいつものアレかもしれない。悪夢、妄想、空想。質の悪い幻術。あの日から何十回、何百回と見たアレ。
また、いつ『ああ、これは現実じゃない。ガイは目を覚ましたりしてはいない』と気がついてしまうのだろうか。
嫌というほど繰り返した絶望に身構えたまま、俺は病院の廊下を歩いていた。
結局、あのあとシカマルだけでなく複数の部下達からもガイの元へ行くように追い立てられたのだった。
見舞いのために通い慣れた三階の、一番奥の部屋。たまご色をした扉の取っ手を持つ為に伸ばした手が、先程ペンを持った時よりもさらに激しく震えていた。
震えを抑え込むために左手を添え、力を込めて取っ手を握り、少しずつ、少しずつ扉を開いていくと。
そこには
痩せた、ボサボサ髪の男が、ぼんやりとベッドに寄りかかっていた。
何度も何度も何度も
夢に見た姿。
俺の体は頭が考えて指令を出す前に走り出していた。
「ガイ…ガイ…!ガイ!!」
「…カカシ」
抱き締めると、耳元に聞こえてきたかすれた小さな声。尖った肩。薄くなった胸。それでも、温もりは以前と変わらなかった。
俺の涙でビショビショになってしまったガイの肩からようやく顔を上げると、同じように濡れた俺の肩からガイが顔を上げた。
涙で汚れた、痩せて痛々しい傷の残る顔回りを覆う黒々とした艶のある髪に、そうっと触れる。以前はいつもきれいに切り揃えられていたそれは、伸びて毛先がピョンピョンと跳ねていた。
「…髪、ずいぶん伸びたね。…まるで子どもの頃みたいだ」
感動の再会だ。
ガイが目覚めたら言おうと思っていた事は沢山あったのに、一番最初に口をついて出たのは、なんだかどうでもいいような事だった。
「そうか?子どもの頃みたいか…」
ガイは微笑みながら俺に言った。
「応援ありがとう…これからもよろしくな、我が永遠のライバルよ」
おしまい