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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    少しずつ書いているTF主ルチ長編のプロローグです。TFルチルートのネタバレが多大に含まれています。

    ##TF軸
    ##長編

    長編 プロローグ 目の前に広がるのは、一面の白だった。無機質で冷たくて、人間らしい温もりなど微塵も感じられない。近くで何かが動いているのか、モーターのような低い音が空間を満たしている。時折地面が揺れているように感じるのは、この建築物が地上に落下しようとしているからなのだろう。目の前の少年の言葉を信じるなら、僕たちが立っているのは宙に浮かんだ町の残骸なのだから。
    「これからも、○○○は僕と……ずっと一緒にいてくれるんだろ?」
     ルチアーノが、小さな声で呟く。甘えるようであり、すがるような響きを持つ、子供らしい声色だった。言葉のかわいらしさとは裏腹に、その響きは僕を恐怖のどん底に突き落としていく。彼の言葉が意味するものは、そんな甘いものではないのだから。
    「僕は…………」
     言葉を絞り出そうとしたが、すぐに途切れてしまった。僕には、彼に対して返す言葉が無かったのだ。僕はまだ、この問いに答えられるほどの覚悟が決まっていない。ずっと戦争のど真ん中にいたというのに、僕だけが宙ぶらりんだったのだ。
     ルチアーノのことは好きだ。でも、僕はこんなところで終わりたくない。できるなら、彼と幸せになりたかったのだ。兄弟のように寄り添って、二人で長い時間を過ごしたかった。それが、僕にとって叶わない願いだったのだとしても。
    「それとも、君も僕を一人にするのかい? パパや……ママのように……」
     吐き出される言葉が、じわじわと僕の心を刺していく。彼の抱える孤独を知ったら、拒むことなんてできなかった。それがどれだけ恐ろしいことでも、僕には受け入れることしかできないのだ。一家心中で殺された人たちは、みんなこんな気持ちだったのだろうか。
     頭の隅に、懐かしい記憶が蘇った。シティの繁華街で、ルチアーノと初めて出会った時の思い出だ。あの日の彼はガードレールの上に立っていて、口元を歪めながら僕を見下ろしていた。視線に気づいた僕が顔を上げると、にやりと笑いながらこう尋ねたのだ。
    「君が○○○かい?」
     あの問いに答えてしまったことが、全ての始まりだったのだ。僕は彼に引っ張られて、何度もデュエルをすることになった。アカデミアで龍亞と龍可を罠に陥れ、ジャックをからかいにハイウェイへと向かい、遊星とアキを倒すためにポッポタイムへと向かった。僕の視界に映るルチアーノは、息を呑むほどに美しかった。楽しそうに笑い声を上げ、相手を傷つけては笑みを浮かべる少年の姿に、僕は魅力を感じてしまったのだ。
    「君を、僕のタッグパートナーにしてやるよ」
     そう言われた時に、嬉しいと感じてしまったのは、間違いだったのかもしれない。あの時に返事をしなければ、僕はこの場所に立つことなんてなかったのだ。過去の選択を後悔しようとして、直前のところで思い止まる。ルチアーノと過ごした日々の思い出は、そんなに悪いことばかりだっただろうか。
     考えに考えた末に、僕はひとつの結論を導き出す。長い間考えていたようにも感じるが、本当は一瞬だったのかもしれない。結局、僕に取れる選択など最初から決まっていたのだ。どんなに受け入れ難いと思っていても、僕に彼を悲しませることはできないのだから。
    「僕は…………君をひとりにはしないよ」
     答えると、ルチアーノはにこりと笑みを浮かべた。その笑顔がこれまでに見たこともないほど美しくて、僕は息が止まりそうになる。この少年は、こんなにも子供らしく笑えるのだ。ずっと一緒にいたのに、そんなことすら知らなかった。
    「こんな僕を好きになってくれるなんて、本当に……変なやつだよ」
     泣きそうな声で言いながら、彼は僕の隣に並んだ。小さな手を伸ばすと、僕の手を繋ぐ。温かい手のひらだった。
    「僕は、この手を離さないぜ」
     甲高い声で囁いてから、ルチアーノは嬉しそうに笑う。まるで、この世の全ての苦しみから解放されたかのような、晴れやかな笑顔だった。幸せそうな彼とは対照的に、僕の両足は恐怖で震えている。これから命を落とすのだ。恐怖を感じないわけがない。

    ──どうして、こうなってしまったのだろう

     そんな言葉が、僕の脳裏をよぎっていく。どれだけ考えても、答えなんて見つからなかった。僕は、選択を間違えてしまったのだ。僕たちにとって重要な何かを見落として、絶望への道を歩んでしまった。
     足元に衝撃が走って、大地が大きく揺れた。僕たちを乗せているこの要塞が、ネオドミノシティの建物にぶつかったのだろう。あと数時間もすれば、この町は木端微塵の瓦礫と化す。遊星たちは倒れてしまったから、止める者などひとりもいない。
     要塞が建物にぶつかる度に、足元はぐらぐらと揺れる。それに応じるように、僕の脳内にもルチアーノとの思い出が流れた。脳裏を横切っていくのは、対戦相手を痛め付けては、楽しそうに笑う少年の姿だ。思えば、僕の隣にいたこの少年は、いつも狂ったような瞳をしていた。
     さっきよりも大きな揺れが、僕の足元を襲う。立っていられなくなって、危うく地面に転がりそうになった。彼に手を引っ張られ、なんとか体勢を整える。反射的にお礼を継げてしまって、その滑稽さに笑いそうになる。
     僕は、どこで間違えてしまったのだろう。どうすれば、この状況を回避できたのだろう。そんなことを思いながら、僕は迫り来る死に向き合った。
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