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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチ視点。どれだけTF主くんから愛を与えられても心の空白を埋められないルチの話。シリアスです。

    ##TF主ルチ

    深淵よりもなお深い 風呂から上がると、真っ直ぐに青年の部屋へと向かった。電気もまともにつけないまま、ベッドの上の布団を捲り上げる。真っ白なシーツに足を乗せると、布団との隙間に潜り込んだ。布地に顔を埋めると、ふわりの青年の香りが漂う。
     暗闇の中に身を委ねながら、僕は静かに涙を流した。この発作をやり過ごすには、静かにしていることが一番だ。下手に抗おうとすれば、余計に虚しさは強くなる。青年の腕に抱かれて、静かに涙を流すことが、余計な恥をかかずに済む一番の方法なのだ。
     愛してくれる者を失った絶望。それが、僕の本質だった。封印された記憶が解き放たれた時、僕は知ってしまったのだ。この身体には、深淵よりも深い悲しみが眠っていることを。その悲しみは、常に僕の心を覆い尽くし、食らい尽くそうとしてくることを。
     つまり、僕は生まれながらにして、心に空白を抱えているのだ。一生をかけても埋まることのない、永遠の絶望を。一度絶望に支配されてしまえば、自分の意思では抗えなくなってしまう。未知の誘惑に誘われるように、たったひとつの結末を求めてしまうのだ。
     籠ったような温もりを感じながら、僕は大きく深呼吸をする。空虚に満たされた胸の中に、青年の気配が入り込む感覚がした。なぜだか分からないが、この匂いを嗅いでいると、僕の心は落ち着いてくる。空っぽになった胸を満たすように、僕は何度も息を吸い込んだ。
     しばらくすると、遠くから足音が聞こえてきた。部屋の主である青年が、自室へと足を踏み入れたのだ。彼は静かに室内を横切ると、ベッドの上に寝転がる僕を見つめた。
    「ルチアーノ?」
     探るような声が、僕の真上から降ってくる。悲しみを悟られるのが怖くて、答えることができなかった。返事が返ってこないと分かると、彼も黙って布団の中に潜り込む。温かい布団の中で、僕たちは黙ったまま向かい合った。
     彼の体温が、熱された空気を介して伝わってくる。無意識のうちに、僕は彼の胸にしがみついていた。涙に濡れた顔をお腹に押し付けると、両腕を背中へと回す。僕の意図が分かったのか、彼も腕を回してくれた。
     彼の大きな手のひらが、僕の頭に伸ばされる。それは髪を掻き分けて、その下の皮膚を撫でつけた。とかした髪が乱れることも、今の僕には気にならない。海のように深いその愛情に、溺れてしまいたかった。
    「大丈夫だよ」
     全身で僕を包み込みながら、青年は小さな声で囁く。吐息混じりのその言葉は、脳の奥まで染み渡った。空白だった心の中を、愛という温もりが満たしていく。それは、僕がずっと求めていたものだった。
    「大丈夫だから」
     言い聞かせるような優しい口調で、青年は言葉を重ねる。根拠なんてどこにもないのに、彼の口から零れる言葉だけは、信じられるような気がした。温もりに満たされたまま、僕はゆっくりと目を閉じる。安心したら、眠気が身体を襲ってきたのだ。
     青年の腕に身を委ねながら、微睡みの中を彷徨う。少しずつ意識が遠ざかって、身体が軽くなる感覚がした。このまま眠りについてしまえば、明日には悲しみも忘れているだろう。
    「大丈夫、大丈夫だよ」
     青年は、静かに言葉を繰り返している。薄れ行く意識の中でも、その声ははっきりと聞き取れた。彼の囁きを耳で捉えながら、僕は眠りの中に落ちていって……
    「この人殺し」
     不意に脳の奥に響いた声に、心が凍りつきそうになった。意識が覚醒して、ぱっちりと目を開く。心臓がドクドクと音を立てて、背中から汗が吹き出した。思わず顔を上げると、青年と目があった。
    「どうしたの?」
     心配そうに視線を向けながら、彼は首を傾げる。透き通るような瞳には、悪意の色は微塵にも混じっていない。さっきのは幻聴だったのだ。僕の心の奥に潜んでいる、僕自身の恐怖の現れなのだろう。
    「なんでも、ないよ」
     答える声は、涙で震えていた。身体が凍えるように冷たくて、青年の胸に顔を埋める。怖くて仕方がなかったのだ。自分の中の空白と、正面から向き合うことが。
     僕の心は、生まれながらに空白を抱えている。一生をかけても埋まることのない永遠の絶望が、僕の中には潜んでいるのだ。深淵のように深いその穴は、愛情で埋め尽くそうとしても零れ落ちてしまう。愛はやがて黒い染みに変わり、ゆっくりと僕の心を蝕んでいく。
     僕には、幸せになることなどできないのだ。この心の空白を埋められるものは、どこを探しても存在しない。どれだけ深い愛を与えられても、僕の空っぽの心の中では、深淵に吸い込まれて消えてしまう。
     埋まらない空白を抱えて生きるなんて、拷問にも等しいことだろう。この絶望から逃れるには、やはりあの選択しかないのだ。青年は悲しむかもしれないけれど、僕が幸せになるためには、この手段しか残されていないと思った。
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